「っふっふっふ」
「危機的状況からの脱出! 強引な開門に次々と襲い来るモンスター! 千切っては投げを繰り返し、遂に登場した大型モンスターを文字通り首を引っこ抜いて倒した! いやぁ昨日の闘いは思ったより楽しめたよ!」
昨日食べた学園都市にある回らない寿司屋は最高だった。もうシャリも美味いしネタも美味いの文句なし。リャンリャンも含む瀬那たちも大満足して父さんと母さんにお礼してた。
ちなみにお会計をした父さんは何故か手が震えていた。
「マジで美味しかったけど俺は回転寿司の方が馴染み合って好きだなぁ」
と大吾たちが帰ってから家で言ったらゲンコツくらった。
「映像持ち帰って白鎧たちに見せたらけっこう盛り上がってな? 暇な連中が酒の肴になると言ってたよ」
「っふっふ。見てたのか、暇な連中だな」
俺んちに泊まるかと思ったけど、どうやら数週間なら社宅に住めるらしく、二人はそこを借りてるらしい。
正直助かった。何故かって? 別に部屋が狭いからとかじゃないよ、うちは広めだし。
ほら、夫婦仲いいだろ。だから、アレがね。
父さんの雄叫びがね、うん。
親の情事とかこりごりなんだよマジで。地獄かよ。
ちなみに今日は知人や友人に久しぶりの挨拶をしに行くらしく、レンタカー借りて忙しくするとも言っていた。
と、そんな事より。今は信号待ち。
「っふっふっふー。横で喋られると集中できないんだけど」
「朝の静けさの中で毎日走るのは関心するけど、たまにはおじさんの話を聞いてもいいんじゃない? 一緒に走ってるんだからさぁ」
「うるさいって言ってるの分からない?」
「俺って喋らないと落ち着かないんだよねー」
「知らねーよ!?」
朝。日課のトレーニングチュートリアルに勤しもうとマンションを降りたら久しぶりの客人。人間体のエルドラドが俺を待っていた。
一緒に走りたいと言って普通に走ってたら公園まで永遠口が止まらない。
つかなに? 俺ですら呼吸乱す全速力から始まって帰路してる今まで、全く乱れてないおっさんはどうなってんの?
「フー、エルドラド、体力無限かよ……」
「……俺の正体知ってるだろ。息してると思うか」
ハムナプトラ……。
「ッ!? 息してないのか……!?」
「してまーーーーす!! お尻ぺーんぺん!」
う、うぜえええええええええ!!!
俺に向けて煽り小躍りしてるのがマジでウザい。元気だなオイ!?
「たかだか十年そこら生きたガキに負ける体力してねぇよ! こう見えてアイツ等の中で一番持続力があるんだ! モチロン、あっちの方もな!」
決め顔にイラっとした。
「じゃあ勝負しようやおっさん」
『チュートリアル:体力勝負に挑もう!』
「あん? どっちが雄として優秀か、ちんぽつか――」
「ふん!!」
「お゛ぎょお!?」
なんか危ない事言い出しそうだったから股間に蹴りをかました。
股間を押さえて縮こまるエルドラド。脚も震えてたのにものの数秒後すぐに立て直した。
「で? どんな勝負するんだ?」
「ほらこれ」
「おっと」
次元ポケットから縄跳びを二つだし、一つをエルドラドに軽く投げて渡した。
「縄跳びできるよな? ぶっ倒れる限界までひたすらジャンプだ」
「ハッハー、いいだろう」
縄跳びは実際に物凄く体力を使い、いろんな筋力を使う手っ取り早いトレーニング器具だ。何回かチュートリアルで課せられた事あるから体感済みだ。
漫画で縄跳び使ってトレーニングしてる模写あるけど、アレはガチで有効だ。
「もちろん全力駆け足跳びな」
「
「そのまま返すわ」
お互いに縄跳びをする体制に入り、用意しておいたスマホのアラームが鳴った途端。
「「ッッッ」」
ビュオッ――
と無我無心で縄跳びをした。
縄が空を斬る独特な音が響き、土を蹴る音や激しい呼吸音が俺の鼓膜を振動させる。
隣のエルドラドの様子を見る余裕はない。勝負だから真剣なのもそうだけど、隣から聞こえる俺と同じ様な音が俺を馳せさせるからだ。
「っはっはっはっくは――」
安定していた呼吸も乱れ、滝の様に流れる汗が目に染みる。
どれくらいの時間が経ったのだろうか。染みる汗を我慢し半目を開いて必死に側のスマホを見ようとした。
それがダメだった。
「――っはうあ!?」
縄が足に引っ掛かり前のめりにバランスを崩した。ギリギリ片腕で逆立ちし、なんとか怪我せずに済んだ。
「ふぅー、ふぅー――アビャ!?」
逆立ちで息を整えてると体中の汗が逆流。俺の首を伝って顔を濡らしに来た。そこで思わず転倒。バタリと倒れた。
「フーぅ。ギャグみたいな負け方だなぁハジメくん」
「クッソ負けたー!」
『チュートリアルクリア』
『クリア報酬:速+』
タオルで顔を拭きながら悔しいと思った。まだ体力もあり続けられたのに、集中力が切れてこのざまだ。完敗だ。でも甘いチュートリアルはしっかりクリア。
つかなに? エルドラドの奴マジで汗一つかいてないじゃん……。
「っふー、体力オバケかよ」
「オバケなのはお前さんだろ? 俺はそう、黄金郷を築いた不死身のアンデッドなのさ」
「バケモンなのは変わらないだろ。まったく。スーフー」
「励め少年!」
それから公園のベンチに移動し、エルドラドがスポドリを渡してきた。日本円持ってるのかよと内心ツッコんだけど、とりあえず良心を感じたので受け取った。
「ンク。……で? 用があって来たんだろ? こんどはなんだよ」
「ああ、例の勧誘の件だ。萌くんのペースで決めてもらおうとこちらとしては思ってたが、状況が変わってね。今やってる対抗戦の本戦が終わってからでいいから、答えを出してくれ」
「……あそう」
白鎧が筆頭のルーラーチームに入らないか? の話か。正直俺の悩みのタネだ。
「聞いていいか?」
「俺が答えられるのなら」
「……お前たちの理念はなんだ……? カルーディのような奴らを目の敵にしてるのは分かるけど、それだけじゃ……何を目的にして集まってる」
そう、行動理念があまり伝わってこない。ただでさえ君主という存在は強大な力を持っている。カルーディが言っていた本能と理性。その衝突を繰り返してるのかもしれない。
「混沌を極める世界を統一し、世界を在るべき姿に戻す。……それが一応の理念ってやつだ」
「統一、在るべき姿に戻す?」
「簡単に言えば世界平和だ。カルーディと同じ存在が次元を股にかけけて暴れている。それを止めるのも理念に入ってる」
「世界平和……」
聞こえは凄く良い。まさに正義の集団だろう。カルーディのような暴れ回るルーラーを押さえる抑止力とも読み取れる。本当にヒーローみたいな集まりだ。
でもそれはエルドラドたちの尺度であって俺らの尺度ではない。この俺が感じてる考え自体がエルドラドと違うのかも知れない。
「聞こえは良いって思ったろ? 顔に書いてある」
「まぁ」
「確かにそうだ。でもな、蓋を開けてみれば、所詮は負け犬の集団なんだよ……。俺含めな」
「……」
負け犬。それはカルーディたちに負けた事があると言う意味なのだろうか。でも何故だろうか、サングラスの奥にあるうっすらと空を見る視線が、そんな簡単な話じゃないと訴えてるように感じる。
「……まぁ負け犬なのはこの世界も似たようなものか」
「え……?」
「おっと口が滑った! 今のはオフレコで頼むよ萌くん」
そう言って急に立ち上がるエルドラド。
「おい、この世界も似てるってどういう事だよ!」
「アディオーーース!」
そう言って公園の林に入って行き、金色のゲートに包まれて消えた。
「なんでいつもモヤモヤを投げてくるんだよあのオッサン!?」
更なる悩みの種を抱える事になり、そのまま家に帰った。