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第115話 チュートリアル:あっさりと

 勝負に華やかさはいらない。


 漫画のセリフか、アニメのセリフか。ドラマ、映画、それとも小説。ありきたりなセリフだけど、その言葉が俺の脳裏に刻まれている。


「勝負に華やかさはいらない。張り切ってるキミには悪いけどね」


 東京都攻略者学園トーナメント。


 決勝戦。


 対戦相手である三年生最強の男、西園寺 L 颯は、歩み寄り握手した俺にそう言った。


 歓声が大きく唸り、俺を応援してくれる人も、先輩を応援する声援も、混ざり合い溶けあい、混沌と化していた。


 実況のカビラも、解説者の西田メンバーも、今か今かと開始の合図を目を輝かせて待っていた。


 そしてレフェリーの獅童さんが俺たちの準備が整ったと判断。


「ッッッ~~~はじめええええええええええおぉおうんんんん!!」


 大歓声が獅童さんの声をかき消し、俺はオーラをその身に纏わせた。


 力む俺。


 ――――トン


「――――ぇ」


 脇腹に何かが当たった。


 脇腹を見ると、背中に無骨なナイフがバリアに突き刺さっている。


 何だこれはと先輩を見た。


 刀剣乱舞ソードゥズダンスを腕に纏わせている先輩。右手の平が俺に向いている。


 そして俺に聞こえるハッキリとした声でこう言った。


「君も世界に必要とされた存在だ。だから、これは気に病む必要はないよ」


「……なに言って――――」


 刹那。


 脇腹のバリアを貫いたナイフが発光。俺のバリアに突き刺さった状態で続々と出現し、あっと言う間に全身にナイフが刺さった。


 結果。


 俺のバリアは無残にも割れ、俺は手を出すことも足を出すことも叶わず退場。医務室に転移された。


 つまりは負けた。


 デンデデン♪


『チュートリアル:対抗戦で良い成績を残そう!』


『チュートリアルクリア』


『クリア報酬:技+++』


 のにチュートリアルはクリアされる。


「……」


 眉ひとつ動かさない俺は誰が見ても真顔。


「……」


「……。……」


 医務室で待機していた医者っぽい人達も真顔。というか、全員俺を見て硬直している。


 数十秒の沈黙。気まずい空気。


 そして俺に掛けられた一言めはメガネをかけた人だった。


「……お、お疲れさま、でした」


「……ウス」


 と、このやりとりが行われたのは昨日の事だ。


 対抗戦と言う名のトーナメントが幕を引き、今日は元気ハツラツオロナミンCの金曜。

 まぁ普通に登校日だけど、事が事だけに俺は休暇を正式に与えられている。まぁ言葉を選ばずに言うなら、ゆっくり休んで負けた悔しさを癒してね! ってことだ。


 SNSでは優勝した西園寺先輩で持ち切り。最高のイケメンも相まって、圧倒的女性人気を勝ち取っている。インタビューもハリウッドスターばりのフラッシュ。噂じゃテレビCMの話も出ているらしい。


 そんな華やかな先輩とは違い、敗者である俺はと言うと。


:草

:負けてて草

:金返せカス

:勇次郎じゃ無かったw

:ガノンでもない

:草

:ザッコwwwww

:草


 これである。


 は?


 は??(二回目)


 は???(三回目)


「舐めやがってド畜生がああああああああ!?!?」


 ドオオオンン!! ゲームセット! ウィナ――――


「アイヤー。大哥動きが単純だヨ☆ それじゃ着地スキ狙ってと言ってるみたいだネ☆」


 一回目は突然のファルコンパンチで反応できず負け。


 二回目はディ〇ニーの刺客のソラの容赦ない崖狩りに負け。


 三回目はガキの性癖を破壊し尽くしたホムヒカが余裕のスマッシュで俺の負け。


 ――――俺の勝ち!


 脳内の本田圭佑がうざい顔で俺を煽って来る始末。


 午前十時ごろ。暇を持て余した俺は家臣のリャンリャンとスマ○ラで対戦していた。


「まだやるかイ☆」


「も゛っかい!!」


 ドオオオンン!! ゲームセット!


「まだまだだネ☆」


「ッ」ピキピキ


「拗ねた☆」


「喉が渇いたでござる!」


 とりあえずボコボコにされた俺は頭を冷やすため冷蔵庫を開け、リャンリャン特性のお茶を取り出して飲んだ。


「……もうみんなからメッセージは届いてないのかイ? 昨日の慰めメールずっと返してたよネ☆」


「ンク、ンク、ふぅ。流石に日も跨げば収まるって。丁寧に丁寧に、心配かけてごめんね! 心配してくれてありがとう! 俺は大丈夫だよ! ってメッセージを一生分返した気がするな」


 阿久津先生の気遣いから始まり大吾、進太郎、モブ男くんたちに加え、父さん母さん、優星さんにツヤコ率いるギャルたちにも励ましのメッセージを貰った。


 まぁ大吾と進太郎は俺に優しい目を向け、直接肩を掴んできて励まされたけど、今にして思えばきれいなジャイアンみたいな目の輝きだった。


「萌ええぇえぇえええ……! ッグス、頑張ったよぉ! グス、かっこよかったよぉお!! うわああああん!!」


 クラス全員が見守る中、俺に抱き着き瀬那が迫真の泣き。


 たまらず優しく抱擁した俺が見たのは、ドラえもんの温かい目をしたクラスメイト。くちびるを尖らせてちゅーしろとジェスチャーしてくる始末。


 とりあえず俺の胸にうずくまる瀬那が泣き止むまで、笑顔で中指を立てておいた。


「大哥のこと、みんな大切に想ってるんだ。だから大哥もみんなのこと、大切にしなくちゃネ☆」


「わかってるよ。……お前も、ありがとな……」


「え!? 大哥が私に感謝を!? 照れながらってかわいい~☆」


「うっさいツルツルおまた!」


 少し本音を口にしたらこれだまったく……。


 それからもスマ○ラでブッ飛ばしたりブッ飛ばされたりして小一時間。


「うーす」


「「うーす」」


 黄金君主いつもの、登場。


『チュートリアル:勧誘に返答しよう』


 視界の右上にチュートリアルが出てきた。


「いやぁ昨日は残念だったなー。萌くんのこと応援してたけど相手が強かったかぁー」


「棒セリフでまったく感情が入って来ないわ」


 一応昨日の感想は述べてくれたエルドラド。相変わらず金色で派手な鎧が目立つ目立つ。


「よーしエルドラドも来たことだしボチボチ行くか」


「是☆(はい)」


「俺来たばっかりなんだけど? せめて酒の一杯くらい飲ませてくれよ」


「お茶じゃなくて酒なのがお前らしいな……」


 こんな冗談をやりとりしつつ、部屋着からジャージに着替えて二人が待つリビングへ移動。


「じゃ行きますか」


 黄金の空間が開き、先にエルドラドが入ってその後に続いた。


 視界が金色一色を覚えたけど、一瞬のうちに景色が変わる。


「はい到着」


 白一色の世界。


 白鎧の根城、ホワイト・ディビジョンにやって来た。


「相変わらずクソ広いなぁ」


「大哥、一応相手の家だしクソなんていっちゃ失礼だヨ☆」


「あ、ごめん」


「俺に謝られても……」


 広い広い城内に対しての素直な感想。中華服を着こなすリャンリャンに咎められ謝った所、赤い点の目が困った様に俺に向けられた。


 ここ、ホワイト・ディビジョンに来た理由。それは以前からエルドラドと白鎧たちがしつこく俺を勧誘。それの答えを白鎧本人の言いに来たしだいだ。


 ――混沌を極める世界を統一し、世界を在るべき姿に戻す。


 それがエルドラドが言った彼らの一応の理念。


 世界平和にを目指すと言ったニュアンスとも言っていた。


 進めど進めどこの白一色の世界と同じく、純白な思想。これまでのエルドラドの行動や、ここから俺が生きて帰ってこれたのもその証拠と言わんばかりだ。


「……窓って無いんだな」


 エルドラドに先導されて移動してる中、俺はふと思った事を呟いた。


「今は閉めてる。おいそれと仲間じゃない奴に見せる景色は無いってこった」


「手厳しいネ☆」


 例に漏れず、城の廊下と言ったら窓があるのが定石だった。けど、今は閉めてると言った。閉めるも何も、窓の痕跡すら無い一面白の壁だ。ディビジョンと言うからには白鎧の力が及ぼしているに違いない。


 しばらく移動し、大きな扉の前に来た。


(……気配が少ない)


 扉越しに伝わる強者の気配。以前感じた刺さる様な気配は感じられず、人数も怪しい。


「たのもー!」


 これまた気だるい棒読みだこと。ギギギと開いたのは大きな扉じゃなく併設されている人が通れるほどの扉が開いた。


 そこが開くんかいと内心ツッコんだのは内緒だ。


 扉を潜って中に入るとそのまま進む。扇状に広がった椅子が並び、その中心に奴はいた。


「――――来たか」


 純白一色の鎧を身に纏った城主にして君主ルーラー。白鎧だ。


 くぐもった中世的な声だが重く芯に響く。ごつい鎧だけど鋭利でマッシブにも見て取れる。圧倒的なまでの存在感を放った前回とは違い、今の気配はおとなしいと取れる。


「――」


 後ろのリャンリャンが細目を少しだけ開けた。警戒はしているようだ。


幻霊ファントムは傷心中だと言うのに足を運んでくれて感謝する。エルドラドが提供した映像は見ごたえのある闘いばかりだった」


「随分と楽しんだ様で結構。とりあえずありがとうと言っとく。あと傷心してないから」


「そうか……」


 奴は一言そう言って俺の後ろを見た。


「ヴァッサルの黄龍仙といったか」


「……」


「我に敵意は無い。他の者も今は居らんしな」


 優しい口調で言った言葉は本当で、赤だの蒼だのとルーラーのバーゲンセールだったのが、白鎧とエルドラド以外誰もいない。


「正確には招集をかけてないだけだな。いや、かけたがな、あいつ等揃いも揃って集まり悪い――」


「エル、ご苦労だった」


「え? あそ。後で酒くれよ」


「宰相に伝えておこう」


 二人がやり取りした後、エルドラドは黄金の椅子と机、杯と酒瓶を出して座り、いつもみたいに酒を飲み始めた。


「……単刀直入にに言うけど――――」


「――まぁ待て」


 積もる話も無い俺は、奴らが求めている答えを返そうとしたけど、すぐに白鎧が待ったをかけた。それに俺はしたがって言葉を詰まらせる。


 白鎧がおもむろに玉座から立ちあがった。


「……少し、歩かないか。返答はそのあと聞こう」


 どこまでが本意か分からないけど、俺を邂逅させるつもりか?

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