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第119話 チュートリアル:親の想い

「……で、どういう事か説明してもらおうじゃねーか」


 夜の二十三時深夜。


 ホワイト・ディビジョンで多種多様な種族と飯を食い、宰相からホワイト・ディビジョンに転移できる力(ファントムディビジョンに転移できると同様の力)を貰い、酔っぱらったエルドラドたちをほっといて帰宅。


 風呂に入りパジャマに着替え、水を一杯飲もうとリビングに来てみたら某仙人が話があると言って来た。


 普段おちゃらけな態度がマジな感じで来たもんだから椅子に座って聞くことに。


「ん?」


 なんか仙人の肩に少しデカい赤味がかっている雀が鎮座してるのが見えた。


ホンだヨ☆」


 そう言って机に雀――ホンを立たせたリャンリャン。


 クリクリでつぶらな瞳が俺を見る。


「……ペットを飼いだしたのか?」


「ペットじゃないヨ☆ 家族ダ☆」


「さ、さすがは仙人。ペットじゃなくて家族って言う辺りが世間に配慮してます感あるな……」


 そんな事を言っていると、ホンがパタパタと飛んでいく。


(フンとか撒き散らすなよぉ。頼むぜホン……)


 またもそんな事を思っていると、上昇したホンが眩く発光。


「うお眩し!?」


 光が収まるとそこには中華服を着た女性が立っていた。


「……誰スか」


 戸惑う俺。


「etcetc――気付いたらホワイト・ディビジョンに居て訳も分からなく身動き取れなくて悪意に挑み共に戦っていた亮の事も分からないし隠れる様に住んでいたら私の黄龍仙反応を何回かキャッチしてやっと接触できて一応本物か拳も交えた――」


「ちょ長い!! 簡潔に!!」


 急に饒舌になった。ぱっと聞いた感じかなりめんどくさい事なのは間違いない。


「そこには家族が待っていタ☆!! て事があったから連れてきたヨ☆」


「いやまったく入ってこないんだが!?!?」


 おもわずツッコむ俺氏。


「大哥ッ!! 万歳わんすい!!」


「あの靴脱いでもらっていいスか!? 今日掃除当番だから汚さないでください!!」


 なんで高身長の女の人が俺に頭下げてんだよ……。しかもそのグーを握る体勢キングダムでメッチャ見るやつじゃん。宦官した覚えないぞおい。


 それに土足でリビングに着地するのはガチでやめて! もうすぐ寝るのにクイックルワイパーする事になるだろ!?


「あの、紅さん、頭上げてください。こんな事されるとマジで焦るんで……」


「是!!」


 そう言って立ち上がるホンさんだけど、そのクソデカ掛け声は深夜帯に響くからやめて。


「よし! じゃあ頭の中で整理するから二人とも楽にして」


「好!」


「是!!」


 お前は是じゃないんかい。


 とりあえず、お眠状態だった所に地球破壊爆弾を積んだガイアーが起動した衝撃の覚めを受けたからいったん整理しよう。ナントイウミニクイ姿ダ コレガニンゲンカ……。


 そういうところだぞ人類。


「えーと」


 ホンさんは黄龍仙の創造主である亮と悪意と対峙した。一緒に戦ったけど敵の一撃で機能停止、気づいたらホワイト・ディビジョンに居た。


 で、なんやかんや隠れて生きてたら最強の仙機である黄龍仙の反応をキャッチ。近くに来たリャンリャンを誘い出してバトったりして意見交換して今に至る訳だ。



「……あのさ、ホワイト・ディビジョンに行ってそこがダンジョンやら異世界やらで白鎧の仲間になって酒場で食べて帰ってきたらコレか」


「濃密だネ☆」


「濃密すぎるわ!?」


 お前なんなんだよ!!(ティーダ風)。と顔に出しながらリャンリャンを見た。本人はニヤニヤしている。


「あのホンさん」


「私の事は呼び捨てで構わない!! 大哥ッ!!」


「声抑えて貰っていいスか! 声がいちいちデカいんですよ!?」


 あーもうしんどい……。厄介なアンドロイド? がもう一体増えた……。


「ホンさんの事は明日考えるとして、もう寝るわ……」


「あそウ?☆ 話は明日の朝って事でいいのかイ☆」


「それでいいー。ふぁ~」


 おやすみーと言って自室に戻る。


 アンドロイドの二人はより詳しいお話するみたいだし、ホンさんの処遇は明日決めるとして、もともと俺には彼女である瀬那とデートの約束がある。



 って事で場所は変わり翌日のお昼時。


 スーツを着たビジネスマン、親子連れ、カップル、チーズ牛丼食ってそうな人。土曜日ともあってか、複合施設に足を運ぶ人は多い様だ。


 寿司、肉、うどん・そば、ファストフード。施設のフードコートは前述した店は極一部であり、俺と瀬那は万人受けするオムライス店セレクト。


「「おおぉぉ……!!」」


 カップルの二人が目を輝かせる。


 このオムライス店、SSサイズからS、M、Lとオムライスのサイズを決めれる。


 女子にしては大食いの瀬那は、通常のSSサイズのところを一回り大きいMサイズを注文。キノコとクリームソースがかけられてて美味そうだ。


 ちなみにお瀬那さんのサイズはKらしい……。どこのサイズかは知らんなぁ(大興奮)。


「メッチャ美味しそうー!」


 スマホを向けてパシャリと一枚。


「萌もほらピース!」


「ぴーす」


 パシャリと一枚。


「さっそくインスタに上げよーっと」


 そう言ってスマホをいじる瀬那。初めは写真なんて一生慣れないと思っていたけれど、無事彼女のおかげで即座にピースをできる程には慣れた。


 そんな俺のオムライスはと言うと、瀬那の胸部が揺れる程の衝撃サイズ――Lサイズだ!! しかもシンプルオムライスッ!!


 この燃費の悪い俺のカラダ。それを維持するためには高カロリーが必要不可欠。我が家の仙人が作る飯は健康面に配慮された物だけど、いざ外に出ると、カラダが闘争を求めアーマードコアが発売されると同じく、カラダがカロリーを求め大盛りを頼んでしまうのだ。


 ではお手を拝借。


 この世の全ての食材に感謝を込めて、


「「いただきまーす!」」


 スプーンで切って掬い、そのまま口の中に入れた。


「ん~~美味い!」


「おいひ~! やっぱりオムライスは外さないよね~」


 当たり前だよなぁ(大先輩風)。


 二口、三口食べると、


「はい萌、あーん!」


「……え」


『チュートリアル:"あーん"を食べよう』


 唐突なチュートリアル。


 突如瀬那が自分のオムライスをスプーンに取り、俺に食べさせようとした。


(こ、これが俗に言うあーんッ!! 自分が口にしたスプーンで食べさせようとする行為ッ!! リア充がリア充たらしめる行為ッ!!)


 遂にこの時が来たッ!!


「あ、あーーー」


「あ~~ん!」


 不慣れそうに食べる俺と不慣れそうにスプーンを扱う瀬那。


 瀬那のスプーンとクリームソースが乗っているオムライスを食べる。


 閉じた俺の口かスプーンが脱出。


 目を見開く俺。


(ふわふわな卵に主張してくるチキンライス~。クリームソースがまた堪らなく絡んで美味しいンゴ~! それとスプーンの下に塗りたくられた瀬那の唾液が甘くて最高にのどごし爽やかンゴ!! んほ^~~これがリア充の特権ンゴねぇ^~)


『チュートリアルクリア』


『クリア報酬:魅+』


 ガチキモ感想を身の内で述べていると、瀬那もあーんしていた。


 俺もスプーンにオムライスを乗せ、口を開ける瀬那にぶち込んだ。


「あむ! んー萌のオムライスもおいしーね!」


 美味しいと顔も綻んでいる瀬那。その顔をじっと見ていると、


「ッ」


 可愛い瀬名と違い、大人びた印象のある同じ顔の君主、ベアトリーチェの微笑む顔が脳裏に過った。


 褐色肌の瀬那と色白のベアトリーチェ。頭じゃ瀬那は瀬那、ベアトリーチェはベアトリーチェとわかってはいるものの、魂違いの同一人物と言われても、未だに信じられないし混乱する……。

 何とも悩ましい事だけど、普段は白鎧の姿らしいし、自分から意識していくのは極力止そう。心臓に悪い。


「……落ち込んでる萌を励まそうと思ったけど、みんなが思ったより凹んでないね」


 急にそんなことを言ってきた瀬那。今日のデートは俺が負けた日の夜に決まった事だし、何となくそうかなーとは思っていた。


「みんなの前では毅然とした感じだったけど、家帰って風呂入ったらさ、なんか負けた虚しさが沸いてきてさ……」


 そう。成せば成る! ザブングルは男の子! な感じで俺も男の子。そこからとったコンビ名みたいに悔しく感じる。


「――だからさ、瀬那がデート誘ってくれて、俺マジで嬉しかった。瀬那が彼女で良かった」


「萌……」


 瀬那が赤面しながら微笑む俺を見ている。どうやら好感度アップしたかもしれない。


「……萌、おっぱい触る?」


「いやなんでやねん!」


 それからは瀬那が行きたがっていた陽キャ御用達ファッション店、ドーナツを食べ、通りかかったおもちゃコーナーのミニ四駆コースを傍観。ミニ四駆早くて草生やした。


「――しかたないかー。日曜日はフリーって思ってたのに……。師匠と用事があるんだったらごねても仕方ないしー」


「ごめん! まぁ急な集まりはこうやってブッキングするだろ?」


「私の美声を聞けないなんて可哀想な萌~」


「うわーすげー悔しー」


 広間に置いてあるソファーに腰かけ足を休めていると、瀬那の友達のギャルズからカラオケ大会の一報が。巨匠ツヤコといつものギャルたちに加え、大吾と花田さんカップル。月野 進太郎も参戦する様で、そこに俺と瀬那も加わるけど俺は用事があってパス。


 陽も傾けた頃。寮ではなく本土の実家に戻るという事で、少し早めの解散。


「バイバーイ!」


「気を付けてなー」


 人気のない路地裏でキスし、改札口で互いに手をふる。


 瀬那とは違う路線に乗り帰宅。


「……今日の作り置きは野菜たっぷりなホイコーローとそぼろ丼かぁ」


 リャンリャンと食材に感謝していただいた。


 ちなみに作り置きな理由はリャンリャンがホンさんにこちらの常識を教えに外に出ているからだ。


 とりあえずホンさんには基本的に雀形態になってもらっている。我が家にもう一人謎の人が居るより、謎のデカい雀がリャンリャンに着いているというのが色々と面倒を省ける。


 でも紅さんを家臣にはしていない。まだハッキリとしてないし、俺も余裕がない。


「風呂に入ってゲームでもしよかなー」


 風呂に入る用意をしていたその時。


 ピンポーン!


 と急な来客。


 リビングにあるモニターを見ると、そこにはキャリーバッグを引くパパンとママンの姿があった。


 しかも二人仲良くダブルピースしてる……。


「……はい」


《イェーイはじ――》


 オートロックを解錠しうるさいから速攻で画面を閉じた。


「……アレか」


 キャリーバッグを引いているという事は、つまりはそういう事だ。


 スタスタと廊下を歩き、ドアの前。エレベーターから降りてキャリーバッグのタイヤ音が聞こえてきた。


 部屋の近くに来たと思ってドアを開けると、ちょうどのタイミングで二人が到着した。


「HAHA!! 息子よおおおおおおお!!」


「あ゛あ゛わかったからもう!!」


 玄関でいきなりの抱擁。親父の筋肉が俺を包む。普通に暑苦しいから無理やり剥がした。


「で? 急な仕事でもう行くの?」


「ええ。トーナメント頑張った萌ちゃんを労わりたかったけど、すぐに向かう事になったわ」


 ママンが優しい顔で俺を見た。そのままの顔で廊下を覗いて来た。


「リャンリャンさんは居ないのかしら」


「あいつは今出かけてる。たぶん遅くなると思う」


「そうか、それは残念だ。一言感謝を述べたかったが、しかたないな」


 残念そうに肩をすくむパパン。


 気付くと、二人とも優しい……親の目で俺を見ている。


「……な、なんだよ?」


 確かに仕事で離れる時は絶対に俺の所に来たけど、なんか今回は空気が違う様に思える……。


「あぁぁー私の可愛い萌……」


「うおッ。……母さん」


 父さんと同様に俺を抱きしめてくる母さん。俺を確かめる様に背中を摩る感触を覚える。


「いつの間にかこんなに大きくなって……。萌の大事な時期に、いつも居なくてごめんね……。母親として自分を恨むわ……」


 耳元で聞こえてきた母さんの震える声。今まで聞いたことの無い母さんの後悔が、俺の鼓膜を震わす。


「まったく、寂しがりやは俺だったのに、今じゃ母さんか……」


 そう言って、俺は母さんを抱きしめた。


「――ッ」


 一瞬体を震わせた母さん。


「明るいのが母さんの性分じゃん。だから、涙は似合わないって」


「――ぅう。ぅうう……」


 普段見せない泣き姿。前までの俺なら戸惑ってたけれど、俺も一皮むけたんだと思う。


「うう! ごめんね萌ぇ! ううぅ!」


「ほらほら、今生の別れでもないんだし、泣き止んでって母さん」


「うおおおおおお萌えええええええ!!」


 父さんの大きな腕が俺と母さんを包む。しかも父さんも泣いて……泣きじゃくっていた。


 それから数分後、落ち着きを取り戻した二人。涙で目の周りが赤い。


「じゃあ萌。行ってくるからね!」


「うん。仕事頑張って」


 手を振る母さん。


「息子よ! 元気でな!」


「はいはい。そっちもね」


 笑顔の父さん。


「ちゃんと勉強しろよ!」


「瀬那ちゃんと泣かせちゃダメだからね!」


「全部わかったから! 二人とも気を付けてなー!」


 タクシーに乗った二人をマンションの外で見送った。


「……疲れたなぁ」


 頭を掻きながら戻る俺。


 ――――母さんの涙。その意味を、後に俺は知る事になった。

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