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第120話 チュートリアル:自己紹介

「ど、どうも。幻霊君主ファントムルーラーのティアーウロングです。よろしくお願いします……」


 白の世界。ホワイト・ディビジョン。


 扇状に広がった玉座たちに座るのは、この白い空間を凌辱する様な色の存在たちが鎮座していた。


 人類の敵――ルーラーズ。


 その末席に座る事なった俺は、同じく白い玉座に座る他のルーラーたちと、彼らの後ろに控えている家臣ヴァッサルたちに向け、大人になり切れていない新卒の社会人みたいな挨拶をした。


「……」


 目を瞑って腕を組む者。


「ッケ……」


 肘掛けに立たせた手に顔を乗せてぶっきらぼうに振舞う者。


「ぅぅ……」


 戸惑いを隠せない者。


「あらあらぁ……」


 なんかCVが井上○久子の者。


「――」


 無言の者。


「あー頭痛い。昨日飲みすぎたかぁー」


 黄金君主あほ


 各々の服や鎧のパーソナルカラーと同じく、個性的な反応だった。そもそも席が空いているから欠席者もいるらしい。


 エルドラドに連れられて来たのが最初で、敵意むき出しだったのは印象を悪くさせたと今になっては後悔している。


 自分のことを棚に上げるつもりはないけど、否定どころか歓迎もしていないみたいな空気はガチでやめてほしい……。


 ここで白鎧が一言。


「うむ。皆歓迎しているようだな」


(どこをどう見てそう言えるの……!?)


 心の中で消化した俺のツッコミ。それが隣に座るぶっきらぼうな態度の髪の毛赤い人が口を開いた。


「だいたいよ、アンブレイカブルの後釜であるコイツの誘いの旨は協議した結果可決に決まったけどよぉ。俺たちが今みたく協議に参加してない所で正式に決まってんじゃねーよ!! 筋が通ってねぇんだよ!!」


 声を荒げる赤い人。ボルテージが上がっているのか、赤い髪が風に揺れる炎の様に揺らいでいる。


「た、確かに……一理……あるかも……」


「あらあらぁ、仲間が増える。その時は無理にでも顔を出したのにねぇ」


 緑髪のショタと桃色髪の巨乳の人が赤い人に賛同した。


 蒼髪の人とグレーの髪の人は無言だ。


「……昨日の集まりはエルドラドが事前に通達していて、皆の者は不参加だと聞いたが……」


 白鎧の言葉で全員が頭痛で頭を抱えるエルドラドを見た。


「え? 俺はちゃんと一人一人に面向かって伝えたぞー。そしたら遠慮するって言っただろー。まったく、薄情な奴らだと思ったね」


 コメディドラマみたいな身振り手振りで見渡すエルドラド。確かに、昨日は集まりが悪いって言っていたな。


「……ふむ」


 ここで俺のあずかり知らぬ回想が青髪の人により展開。


 ???ディビジョン。湖の畔にある大きな家。そよ風が湖畔の水に波を生み、静かな空間。


 それを穢す様に、黄金のゲートから奴は現れた。


「――よう青いの! ヒック! 明日顔出すか?」


「黄金の……。貴様さては酔っているな」


 湖畔の家。彼の心の拠り所である神聖な場所。彼が抱える家臣も緊急時以外立ち寄らない。


 それだと言うのにずかずかと転移して来たエルドラドに対し、睨む様に視線を向け、更に酔っていると分かると尚のこと嫌悪感を表情に出した。


「そう睨むなってぇ……。なんだよ? お前も顔出さないのかぁ?」


 文脈から察するに他の君主には既に声をかけ、断れわられている。


「……ここは私が想いを馳せた場所。シラフならいざ知らず、酒に酔った状態で顔を出しなど言語道断」


「……でぇ?」


「出直してこい」


「はいはい分かりましたよーだ」


 そう言って反省の色を見せず飄々とゲートを通り帰って行った。


(……まさかあの時の誘いが幻霊君主の話だったとは)


 目を瞑り腕を組んでの回想。


 どうやら俺の知らない所でいろいろあったらしい。だってなんか赤い人が――


「――!? おいエルドラド!! お前そんな大事な話酔っぱらってするか!? またしょうもない事言ってくると思ったから突っぱねたのに……ッ! これじゃまるで歓迎してないみたいだろうが!!」


 キレる赤い人。緑のショタもピンクの巨乳の人も、なんか困った顔をしている。


 まぁそんな事よりもだ。


「……ッ! なんだよ幻霊! 文句あるのか!」


「いやあの、歓迎してくれるんですか……?」


「ッ!? か、歓迎しねぇとは言ってねぇし、歓迎するともいってねぇ! 勘違いすんなよ! 俺はお仲間ごっこは趣味じゃねぇんだ!!」


「そ、そうスか……」


 なんか声デカくてうるさくて熱い人だとは思ってたけど、なんだかんだ気を使ってくれてるしちょっとツンデレ入っててかわいい。


「うふふ、私は歓迎するわぁ」


「ぼ、僕もティアーウロングさんを歓迎します。や、やっぱり、手を取り合える人が居ると……安心だし……」


「ありがとうございますッ!!」


 穏やか系に二人に対し、新卒のバリバリフレッシュな感じであいさつした。


「……」コクリ


「……私も歓迎しよう。赤いのよりかは頭が回りそうだ」


 グレーの人と青い人に俺は笑顔を向けた。


「おい青病痰。お前なにサラッと貶してんだよ。喧嘩売ってんのかあ?」


「寡黙で堅実なアンブレイカブルの遺志を継いだ者だ。低能な貴様とは文字通り頭の質が違うだろう」


「言わせておけばグチグチと……! その長い髪の毛燃やしてやろうかあん!?」


 青と赤が相いれないのと同じく、彼らもそれと同じなようだ。


「あらあらまあまぁ」


「け、ケンカは良くないですよぉ……」


「止めないか二人とも……」


 青筋立てた赤い人と冷静な視線を送る青い人。


 さすがの白鎧が待ったをかけ、不満気を隠さずその場が収まった。


「エルドラド。酒を飲むなとは言わないが酔いが過ぎるのも考え物だ。以後改めるように」


「へいへい」


 絶対改めないなこりゃ。


「で? 新人らしく一番にこの場に来てた訳だが、白鎧の宰相さんとは随分仲良くしてるじゃねえか」


「まぁ色々と教えてくれますし、相談にものってもらってますね」


「そうかよ。白鎧の家臣ヴァッサルだからって遠慮する事はねぇ。めんどくせぇ事はだいたい宰相に言えばやってくれるからな」


「フリード様。頼られるのは嬉しい限りですが、我々にも限度があります故……」


 そう。赤い人――灼焔君主フレイムルーラー クリムゾンフリード。通称フリードさんの言う通り、俺と背後に立っているリャンリャンは先に赴き、宰相さんに用事がった。


 それは雀となってリャンリャンの肩に居るホンさんの事だ。彼女が何故このホワイト・ディビジョンに居たのか、また彼女が証言している時期に何か異変が無かった調査してもらうためだ。


 結果、宰相さんは二つ返事で了承してくれた。俺は仕事を増やして申し訳ないとは思いつつも、頼るしかないと少しばかりの歯がゆさも感じた。


 ちなみにフリードさんがその光景を見たって事は、俺の後に来てくれた二番目となる。つまりいの一番に来てくれた。だから少しばかり、フリードさんのことは好感がもてたりする。


「あーそれと白鎧」


「なんだ」


 続けてフリードさんが白鎧の名前を呼んだ。みんながフリードさんを見る。


「新人が入った。しかも家臣まで居るとなると、例のアレはまだ有効なんだよな?」


 面白い物を見つけたと頬を吊り上げ、俺とリャンリャンを見ながらそう言ったフリードさん。


 俺の毒電波乳首センサーが嫌な予感の電波を受信。


「……有効だ」


 白鎧がそう言った途端、この場の空気が冷たくなった様に感じた。


「へぇー。じゃあ小難しい話が済んだらついて来いよ、ティアーウロング」


「え、どこに……」


「己の家臣ヴァッサルVS家臣ヴァッサルの親善試合……! モチロン断らないよなぁ? 新人クン」


「……」


 俺の嫌な予感はよく当たる。


 そして。


「あ゛あー液キャベってホントに効くのかよぉ。コーワの実力見えてくれぇ」グビグビ


 飲みすぎから脱しようともがくエルドラドが居た。

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