「ほらー! 痣もなんにもないです!」
その場でくるくる回転した。
「ねっ!」
と、こちらを向いて同意を求めてきた。細く白い肌が惜しげもなく晒されて、浮き出た肋骨が艶めかしさを加えている。
「わ、分かったから……!」
目のやり場に困るから早く服を着てほしい。気まずくなって目をそらすと、ポチの両手首につけられた黒い薄手のリストバンドに目が行った。上服全部脱いでも、それは外さないんだ……。そんなことを考えていると
「僕、人間とは違って、ケガしてもすぐ治るので気にしなくて大丈夫ですよ!」
彼は笑顔で、ない胸をぺちんと叩くと、もそもそと服を着始めた。
「でも、痛いは痛いんでしょ。気にするよ」
ぴたりと、服を着る手が止まった。一つ上の男みたいな絵面になる。
「……はい。まぁ、痛覚はあります」
Tシャツをすっぽりとかぶり、フード付きのスウェットジャケットを羽織った。
そして、こちらに目を合わせた。
「さっきは、かばってくれて嬉しかったです」
ポチはありがとうございます、と言ってえへへと笑った。
「私がそうしたかっただけだよ。お礼なんていらない」
この街には人を喰らう化け物――人喰が潜んでいる。
人喰管理委員会は、人喰から人間たちを守るために毎日がんばっているヒーローらしい。
私は、そのアンチだ。