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第1章 第5話 医務室にて②

「ほらー! 痣もなんにもないです!」

 その場でくるくる回転した。


「ねっ!」

 と、こちらを向いて同意を求めてきた。細く白い肌が惜しげもなく晒されて、浮き出た肋骨が艶めかしさを加えている。

「わ、分かったから……!」


 目のやり場に困るから早く服を着てほしい。気まずくなって目をそらすと、ポチの両手首につけられた黒い薄手のリストバンドに目が行った。上服全部脱いでも、それは外さないんだ……。そんなことを考えていると


「僕、人間とは違って、ケガしてもすぐ治るので気にしなくて大丈夫ですよ!」

 彼は笑顔で、ない胸をぺちんと叩くと、もそもそと服を着始めた。


「でも、痛いは痛いんでしょ。気にするよ」

 ぴたりと、服を着る手が止まった。一つ上の男みたいな絵面になる。


「……はい。まぁ、痛覚はあります」

 Tシャツをすっぽりとかぶり、フード付きのスウェットジャケットを羽織った。




 そして、こちらに目を合わせた。


「さっきは、かばってくれて嬉しかったです」

 ポチはありがとうございます、と言ってえへへと笑った。


「私がそうしたかっただけだよ。お礼なんていらない」







 この街には人を喰らう化け物――人喰が潜んでいる。

 人喰管理委員会は、人喰から人間たちを守るために毎日がんばっているヒーローらしい。


 私は、そのアンチだ。

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