「どうしてこんな状況になってんのよッ!」
アイリスは荒れていた。
「ちゃんとフラグは回収したし、必要なイベントもクリアしたはずよ」
だというのに肝心の
「中ボスが仕事放棄してるからケヴィンをけしかけただけなのに……」
エーリックルート解放の為。アイリスはケヴィンを捨て駒にした。しかし、なぜかゲームではケヴィンにベタ惚れのウェルシェはエーリックにべったり。むしろケヴィンを蛇蝎の如く嫌っていた。
「それがいつの間にかオーウェンの廃嫡に発展するなんて」
それならばとオーウェン達も
「その事をオーウェン達がずっと黙ってたせいで手を打つのが遅れたわ」
オーウェン達は心優しいアイリスが責任を感じて心を痛めるのではないかと心配して黙秘し、他に友達のいないアイリスには情報が全く入ってこなかったのだ。
「あの役立たずども!」
アイリスは爪をガジガジ噛んで悪態をついたが、全くもって自業自得の所業。
「冗談じゃないわよ。これじゃ私が王妃になれないじゃない!」
最悪の事態になっている事を先日やっとウェルシェの口から聞かされた。その件を話し合おうと彼女の家に招かれたのだが、ウェルシェの出した条件が飲めるはずもない。
「オーウェンを攻略すれば面白おかしく贅沢な暮らしができると思ったのに」
王妃は遊んで暮らせる地位だとアイリスは本気で信じていた。
「でも、まだ大丈夫。間も無く修学旅行があるもの」
これだけ追い詰められてもアイリスにはまだ事態を打開する手があった。
「例のイベントさえ発生させれば
くっくっくっ、とアイリスは黒い笑みを浮かべる。
「その事件を私達の手で解決すれば一気に名誉挽回できるわ」
自らの手で
「だけど、あのイベントすっごい高難易度なのよねぇ」
しかし、事件解決の為には自分と攻略対象の能力値が高い必要がある。だから、ゲームのようにオーウェン達を育成する必要があった。
「剣魔祭が近くって良かったわ」
そこでアイリスは剣武魔闘祭をダシにオーウェン達に発破をかけたのだ。自分の為に大会で優勝して欲しいと。すると彼らはアイリスに良いところを見せようと猛特訓を始めた。
攻略対象だけあってスペックはみんなもともと高い。アイリスに良い所を見せようと特訓を重ねて彼らはぐんぐん実力を伸ばしている。
「オーウェン達の優勝は間違いなしよね」
オーウェン達が剣武魔闘祭で活躍すればオルメリアからの評価も上がるだろう。
「それに、あのイベントはトレヴィル絡みのフラグにもなるから、解決すれば彼を攻略できるかもだし」
アイリスが立てたのは一石で二鳥も三鳥も落とせる作戦だ。
「まだまだ巻き返せるわ!」
拳を天へ突き出し気合いを入れるアイリス・カオロ、十六歳。まさに取らぬ狸のなんとやらであった。