――武闘部門剣闘の部決勝
それは三日間続いた剣武魔闘祭の締め括りの一戦。
会場はマルトニア学園内にある最大級の中央闘技場において執り行われる。今、各競技の表彰式も終えて各会場から観客が闘技場へと続々と集まっていた。
注目競技の決勝戦が大会の最後とあって、全ての試合を通して最も集客が多い。もう既に観客席は埋め尽くされようとしていた。
そんな闘技場の最上段にある貴賓席にはマルトニア国王夫妻ワイゼンとオルメリアの姿も見える。四十手前の二人だが、若々しく金髪碧眼の美男美女。威厳もあり、並んで最上階の貴賓席に座る姿はとても絵になる。
「毎年の事ながら学生のお祭りとは思えぬ賑わいだな」
「今年は特に観客が多いように感じますわ」
「確かに収容人数一万人を超える学園最大の闘技場なのに、全ての客を収容できそうにないようだ」
「それだけ注目の対戦なのでしょう」
ワイゼンとオルメリアは闘技場のもっとも高い場所から闘技台の上で対峙する
金髪碧眼の王子と黒髪黒目の王子。
どちらも目を惹くほど美しい少年。
ワイゼンは金髪碧眼の美少年を見ながらフゥっと軽くため息を吐いた。
「せっかく我が子の晴れ舞台だったのだから、エレンも来ればよかったのになぁ」
決勝を争う二人の王子の一人は、ワイゼンの寵姫エレオノーラの息子エーリックである。
「まさかエーリックが決勝まで残るとは夢にも思っていなかったんでしょ?」
こうなると知っていれば子供達大好きのあの側妃が来ないはずもない。
「応援できなかったと悔しがるだろうな」
「だから日頃から王族の行事に参加するよう言い聞かせていたのに」
「エレンは相変わらずみたいだな」
オルメリアが呆れたため息を吐くと、ワイゼンは苦笑いした。
「今日も剣武魔闘祭の最終日は王族による台覧試合があるから来なさいって言ったのよ?」
オルメリアは首に縄を付けようとしたのだが、それをいち早く察知したエレオノーラに逃げられてしまったのだ。
「あの子ったら今日は思いっきりゴロゴロするんだぁって部屋に篭っちゃうんだもの」
「ははは、エレンは
「鬼で悪ぅございましたね」
ワイゼンがまぜっ返すと、ふんっとオルメリアがそっぽを向いた。普段は超然としている妻の可愛い反応にワイゼンはくっくっと忍び笑いを漏らす。そんな夫の茶目っけを横目でチラリと見てからオルメリアも声を立てずに笑った。やり取りだけを見れば完全におしどり夫婦である。
エレオノーラという寵姫の存在のせいで国王と王妃の中は冷えていると思われがちだが、実は意外と二人の仲は悪くない。と言うより国王夫妻として長年一緒に国政を支えてきた国王夫妻の関係は戦友の如くとても良好だ。
「しかし、こうなってくると君の
「ええ、準決勝でオーウェンがエーリックに敗れた以上、貴族達はエーリックに対するオーウェンの優位性はほぼ無くなったとみなすでしょう」
もちろん剣の腕が国王にとって重要ではない。だが、大衆の面前での勝利は能力的にエーリックが劣っていないと印象付けるのに十分だ。こうなってくるとエーリックの即位も現実味を帯びてくる。
「まだオーウェンにも逆転の目はあるのだけれど」
「オーウェンは君が出した宿題の意味を全く理解できていないのだな」
二人は頭が痛いとこめかみに手を当てた。
オーウェンと側近達、そして元凶のアイリスには秘密裏に監視が付けられている。そこから定期的に連絡が入るのだが、オルメリアの期待に反してオーウェンは現在進行形で色々とやらかしているのだ。
アイリスはせっせと捏造しているのも筒抜けだ。
一つ分からない動きはルインズでの遺跡騒動だ。
どうやってアイリスは遺跡の存在を知ったのか、いったい何を企んでいるのかさっぱり分からない。だが、アイリスと
「イーリヤと仲直りすれば良いだけだと気がついていないのだもの」
「彼女の力があれば幾らでも実績なんて作れるのだが」
「もう彼女を娶ること自体が功績と言っても過言じゃないわ」
「だが、オーウェンがそれに気がついた様子はない」
「イーリヤもオーウェンにこれっぽっちも興味がないから歩み寄ってはくれないし」
その思惑を察したウェルシェがオーウェンとイーリヤの仲を取り持とうと暗躍したのだが、当の二人が全く非協力的であった為にとん挫してしまった。
「これは早いところ、エレンをどこに出しても恥ずかしくない王太后に仕立てなくっちゃ」
「君は本当にそれで良いのかい?」
ワイゼンは特に悲壮感が無く、むしろ楽しげにさえ見えるオルメリアを訝しんだ。