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第55話 その模擬店、マジ大繁盛なんですか!?

 ――マルトニア学園文化祭初日


 どこまでも高く広がる青く澄み渡った秋の空にドンッドンッと花火が上がる。瀟洒なマルトニア学園の正門には大きなアーチがかかり、生徒達の手によって色とりどりの花が飾られていた。


 アーチの下を大勢の人が潜り抜け学園内へと入場していく。その中には学園の生徒の他にも生徒の保護者、学園の卒業生OB ・OG、生徒の友人などなど招待状を貰った者達も多い。


 彼らは門を潜り抜けると大校舎へ伸びる大きな道を真っ直ぐに進んで行く。大半の催し物がそこで行われているからである。もっとも、他にもクラブハウスや校庭、大講堂などでも生徒達が考え抜いた模擬店や演劇、展示などの出し物が催されているが。


「十三時より管弦楽部によるオーケストラを大講堂にて開催しまーす」

「学内劇場で演劇部による劇を上演しまーす。是非ご覧くださーい」

「第二講堂では新アート魔術によるアニメーションを上映します。皆さまのご来訪お待ちしてまーす」

「マルトニア学園名物『殺死腕コロシアム』大闘技場で出・場・選・手・募・集・中!」


 だから、他施設を使用する生徒達が一所懸命にビラを配って客寄せを行い、何とか大校舎へと向かう客の流れを変えようと必死だ。


 こんな光景もまた文化祭の風物詩と言えよう。


「執事喫茶オープンでーす!」

「多数のイケメン達があなたをお出迎えしまーす」

「夢のような一時を味わってみませんかぁ」


 ――ザワ…ザワザワ…


 そんな呼び込みの一画に、ひときわ異彩を放つ呼び込みがいた。チラシを配って声を上げるメイド服姿の女生徒達の後ろに四人のイケメンがズラリ。


 青髪眼鏡の知性派男子、逞しい肉体派男子、天使のように愛らしいショタ系男子、そして金髪碧眼の俺様系男子。色んなタイプの美少年が執事の格好で思い思いのセクシーポーズを披露している。


 この集団に女性客が色めき立った。女性が止まれば連れ合いも自然と足を止めるもの。それまでスムーズに校舎へ進んでいた客の流れが滞った。


 もちろんこの集団はアイリス率いるオーウェン達である。


「執事喫茶『プリンス』! キュン死必然! あなたのハートを狙い撃ち!」


 片目を閉じたアイリスが両手でバキュンッと銃を撃つ仕草をして見せれば、意外にも男達までデレっとなる。


「本日九時から開店よ。みんな必ず来てね!」


 片手をひらひら振りながら、アイリスはパチンッとウィンクして校舎へと引き上げて行く。その後ろをオーウェン達が続いた。さながらお嬢様に従うイケメン従者達である。


「ほわわぁ、色男ばっかりねぇ」

「カワイイ男の子もいたわよ」

「あのピンクの髪の子、可愛いじゃん」

「けっこう好みかも」

「ちょっと行ってみましょ」


 その集団に釣られるように客が校舎へと動き出す。こうしてアイリスは初日から客を大量ゲットした。


「お帰りなさいませ、お嬢様」

「ご注文は『執事の羊肉ラムシチュー』と『メーたんオムライス』をお一つずつですね」

「お待たせしました……お前の為に作ってきたんじゃないんだからな」

「またのお帰りをお待ちしております」


 千客万来の執事喫茶『プリンス』。ひっきりなしに来客があるせいで、目の回る忙しさだ。


「ぐっふっふっふ、ボロ儲け♪ボロ儲け♪」


 アイリスも笑いが止まらない。


 なんせ羊の形をした『メェメェクッキーセット』(クッキー二枚と紅茶)でも銀貨二枚(千六百円相当)の暴利をむしり取っている。他のメニューもだいたい同じようなものなのに、どれも次々に売れていく。どれほどの儲けが出ているか推して知るべしだ。


 クラスメート達も大盛況に浮かれて忙しさもなんのその。むしろ、互いにフォローしあって結束力を増していた。だが、この中にあって浮かない顔をする者が一人。


 エーリックである。


 どうせ大して客は来ないだろうと高を括っていたのに、蓋を開けてみれば模擬店は常時満員御礼状態だ。


(これじゃウェルシェを迎えに行けないよぉ)


 ウェルシェと一緒に祭を回る約束したのに、仕事が捌けずに抜け出せない。真面目なエーリックにサボるという選択肢はなかった。そもそも連帯感がここまで強まっている中でクラスメートを裏切る度胸はエーリックには無い。


(どうしよどうしよ……ウェルシェ怒ってるかなぁ?)


 このままでは約束を破ったとウェルシェから絶縁大っ嫌いを言い渡されるやもしれない。最悪な想像にテンパってしまいエーリックはミスを連発した。


「こら、注意力が散漫になってるぞエーリック。集中して働け!」

「ご、ごめんなさい」


 オーウェンからの叱責になんとか仕事をしようとするが、気もそぞろでエーリックは事あるごとに入口に視線を向けてしまう。


 そんな入口ばかり気にしていたエーリックの青い瞳にふんわりした白銀の髪が横切った。


「ウェ、ウェルシェ!?」


 思わずエーリックの声が裏返る。そこの居たのは言わずと知れた妖精姫ウェルシェ。


「エーリック様!」


 鋭く婚約者の名前を叫ぶウェルシェは、普段のおっとりした顔と違い激おこぷんぷん状態であった。


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