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第73話 その侍女、やっぱり最強じゃないんですか?

「君達がどうしてここに?」


 赤、青、白、そして金金と彩り鮮やかな漢達にトレヴィルは驚いた。


「ふっ、愚問ですね」


 青髪の男サイモンが中指で眼鏡のブリッジをクイッと持ち上げる。


「そうだ、俺達は友達だろ」


 赤髪の巨漢クラインがサムズアップで歯を光らせる。


「まあ、一緒に執事やった仲だしね」


 白髪赤瞳アルビノの小柄な美少年コニールがつまらなさそうに言うが、その顔が少し赤い。このツンデレめ。


「そう言う事だ。俺達も一緒に戦おう」


 中心に立つ金髪碧眼の美男子オーウェンが曲剣をトレヴィルへと投げた。


「みんな……」


 剣を宙で受け取ったトレヴィルは彼らの友情に胸が熱くなった。


「何で僕までここにいるんだろ?」


 だが、その横で最後の五人目オーウェンと同じく金髪碧眼の天使のような美少年エーリックがぼやいた。


「何を仰っておられる」

「そうそう」

「俺達は同じ釜の飯を食った仲間じゃないか」

「何で僕まで同じグループになってるの!?」


 何故かエーリックまで仲間扱いにされていた。


「ありがとう……みんな……」

「よせやい」

「そうそう」

「礼なら全て片付いてからにしてください」

「よし、俺達で露払いをするぞ」

「アイリスとトレヴィルを雪薔薇の女王のところまで無事に送り届けるんだ」


 おお!と気炎を上げてオーウェン達がネーヴェに向かって土手を駆け降りて行く。その動きに合わせて、雪だるま達もネーヴェを守るように襲いかかってきた。


 コニールとサイモンの魔術による火箭が飛び、オーウェンとクラインの剣が閃く。彼らの活躍に次々と襲い来る雪だるま達をばったばったと薙ぎ払――


「何だこいつら、俺の剣を受け止めやがる!」

「ぼ、僕の魔術が全く通用しないだって!?」

「くッ、私の計算では火炎箭ファイヤアローで倒せるはずなのに」


 ――えず、大苦戦。


 ファンシーな見た目に反して雪だるま、めちゃくちゃ強い。オーウェン達は道を切り開くどころか押され気味だ。


「強さ的にサイモン、クライン、コニール三人で雪だるま一体を何とか倒せるって感じね。さすがにオーウェンは一対一なら勝負になるみたいだけど」

「あのぉ、私の目の錯覚じゃなきゃ雪だるまさん達どんどん増えているみたいだけど?」


 イーリヤの戦力分析にウェルシェの状況分析が重なると、もはやオーウェン達は絶望しかない。なんせオーウェン達が倒した端から際限なく雪だるまが沸いてくるのだ。


「このままじゃオーウェン達が押し潰されるのも時間の問題ね」

「あっ、でもでもエーリック様は奮戦してるわ」


 ウェルシェが指差す方向で、ちょうどエーリックが炎を纏った剣を振るって雪だるまを一体屠っていた。そして、また一体、さらに一体。


「魔術で剣に炎を効果付与エンチャントしたのね」

「エーリック様ぁ、頑張ってぇ〜!」


 ウェルシェの声援にエーリックは張り切って剣をブンブン振り回す。分かりやすい男である。


「エーリック様はちゃんと戦力になっているわ」

「だけど彼だけじゃ焼け石に水よね」


 雪だるまは一向に減る気配がない。エーリックの奮戦も戦線を何とか維持しているに過ぎないようだ。仕方がないとイーリヤが呪文を詠唱する。


地獄の劫火インフェルノ!」


 イーリヤの声と共に雪だるま達のど真ん中に大きな炎の柱が天へ向けて吹き上がる。一気に十数体の雪だるまが吹き飛んだ。


「それじゃ私達も参戦するわよ」

「ううっ、私あんまり戦闘得意じゃないんだけどなぁ」


 ぶつぶつ文句を言いながらもイーリヤに合わせてウェルシェも呪文詠唱を始める。


「「地獄の劫火インフェルノ!」」


 ネーヴェとアイリス達の間に次々と炎の柱が立ち上る。密集すると炎に薙ぎ払われると警戒したのか雪だるま達が互いの間隔を開け始めた。


 これなら数体の雪だるまさえ倒せればネーヴェまで辿り着けるはず。


「ほら、さっさと行きなさい!」

「分かってるわよ!」


 トレヴィルの曲刀が雪だるまを一体斬り裂く。が、すぐに周囲から雪だるま達が集まりアイリスとトレヴィルを囲んだ。


「やばっ!?」

「くっ、もう少しのところで」


 こんな状況で地獄の劫火を放てばアイリス達も丸焦げである。大雑把なイーリヤの術では援護ができない。できないならばできる者に任せるまで。


「アイリス達はウェルシェに任せた」

「ああもう……『火箭降雨フレメレーゲン』 !」


 ウェルシェの魔力が上空に炎の塊を生み出し、アイリス達を避けて周りの雪だるまに火の矢を雨のように降らせた。ウェルシェの緻密な魔力制御による火箭の精密爆撃である。


「ぜんぜん進めないわよ! もっとしっかり援護しなさいよね!」

「無茶言わないでぇ」


 だが、火力はどうしても落ちる。雪だるまをアイリス達に近づけさせないようにするので精いっぱい。


「私にお任せを」

「カミラ!?」


 せっかく助けたのに罵倒され涙目のウェルシェの横を眼鏡の侍女が走り抜けた。


 ――ふわっ


 走るカミラのスカートの裾が軽く舞い彼女の美しい脚線美が一瞬露わになる。構わず走るカミラはいつの間に抜いたのか、両手に二本の短剣を握っていた。


 頼り無さそうな短剣なのに、カミラは雪だるま達をばったばったと薙ぎ払う。完全無双状態のカミラはアイリスのところまでものの数秒で辿り着いた。


「さすがに強いわね、あんた……まあ、今は助かるわ」

「?」


 アイリスの言葉にカミラは怪訝な顔をした。が、今はそれよりもネーヴェが先だ。


「グロラッハ侯爵家ウェルシェ様の専属侍女カミラ、不肖の身ではございますがお二人をご案内させていただきます」


 優雅に一礼するとカミラはネーヴェへと向かってゆっくりと歩きだす。


 ネーヴェを護ろうと次から次に雪だるま達が襲いかかってきたが、先導するカミラは雪だるま達を瞬殺し、アイリスとトレヴィルの為の道を斬り開く。ゆっくりとした歩調で進むカミラの後を二人が追随していく様子は、まるで無人の野を道案内する侍女のようだ。


 この光景を見ると雪だるま達が弱いように思えるが、オーウェン達は未だに苦戦中。けっして雪だるま達は弱くない。それなのに、ネーヴェを護るように集まってきた雪だるま達は前に立った端からカミラの短剣の餌食になってゆく。


「私の案内はここまででございます」


 ネーヴェの目の前まで来るとアイリス達に向き直りカミラは再び綺麗に一礼した。頭を下げるカミラの横をアイリスが通り抜けていく。


「ええ、こっからは私の出番」


 アイリスはネーヴェの前に立ち、雪薔薇の指輪を目の前に差し出した。


「さあ、イベントクリアの時間よ」


 自信満々に宣言するアイリス――


「あれ?」


 ――が、何も起こらなかった。

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