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その日の夜、ブラムがひっそりとシリルの部屋を訪ねてきた。そして、一通の手紙を渡した。
「これは?」
「レヴィン将軍からお話を伺いました。他のオールドブラッドにも協力を求めて向かうのですね?」
「はい」
「これは、その者たちに。ユリエル陛下のお気持ちや、協力を促すように私の名で書いております。アデルも説得しますし、付近の家とは未だに関係がありますから容易でしょう」
「有り難うございます」
手紙を大事に荷の中にしまう。だが、ブラムはまだ何かを言いたそうにジッと見ていた。
「他にも?」
「えぇ、二~三」
「許す」
「周囲におります小悪党については、私にお任せ下さい。証拠を掴み、それをユリエル陛下への手土産として陛下の元へ行き、直接臣としての申し出を断ります」
「……やはり、手を貸してはくれないのですね」
ブラムは厳格だが、悪ではなかった。シリルとレヴィンの関係を勘ぐった時にも、上下の関係を明確とし、間違いが起こらないようにと思っていたらしい。だが既にそのような気持ちなのだと知ると、「そうですか……」とだけ言って諦めたようだった。
「時代の変わり目を感じました。新たな時代に、私のような頭の硬い骨董はむしろ邪魔なだけ。私のような者は下で国を支え、民をよく治める事を考えるほうが国の為になるのです。その代わりと言ってはなんですが、息子をお願いします」
「分かりました」
心が離れたのではない。それをブラムは示してくれた。もうそれだけでよしとしなければならないだろう。シリルはそれ以上は言わなかった。
「シリル殿下とレヴィン将軍の事を、陛下はご存じなのですか?」
「はい、知っています。僕がレヴィンさんの事を想い、レヴィンさんが僕の事を大切にしてくれること。そこに、恋情があること。全て知って、陛下は僕とレヴィンさんを一緒に旅に出しました。二人でなら、強くあれると」
「大胆な方だ。認めたということなのですね」
溜息をつきながらも、ブラムは咎めるつもりはないようだ。ただ黙って察した。
「殿下、あの男を大切に。それが、長く共にある秘訣です」
突然言われた言葉に、シリルは首を傾げながらも「はい」と答えた。