ウェーナの家を出発してからしばらく歩くと、俺たちは迎えの馬車との待ち合わせ場所となるラペルもうひとつの出入り口へと到着した。
今までずっと依頼を受けた時などはいつもの出入り口を使ってたからここに来るのは初めてなんだが、方向的には初めて受けた依頼の目的地、メディー牧場と一緒だ。
だから来た方向から見て、左側には山が見え、出入り口から続く砂利道は山沿いに続いていた。
「まだ馬車は来ていないみたいね。」
「そうだな、とりあえずあのベンチで座って待っとくか。」
「だな」「うん」
俺たちはまだ馬車の姿がない事を確認すると、出入り口からすぐ近くに設置されていたベンチに腰を下ろした。
ふぅーッ!やっぱりこれくらいの距離を歩けば体力関係なく疲れるもんだな。
俺はベンチに座るとすぐに、手足を伸ばして息を吐く。
すると、そこでちなつが今更な事を言い出した。
「今思ったけどよ――私らはまだ下級上位なのに、どうやってこの依頼で中級上位まで上げるんだろうな?」
「確かにな――まぁ依頼してきたのは中央大陸のギルドなんだし、その権利で何とかすんじゃねぇの?」
一応説明しておくと、中央大陸という強者が集まる大陸に入るには「等級中級上位以上」が条件なのだ。
なのに、まだ下級上位な俺たちを招待してきやがった。
しまいには等級を上げるために村を救えと――一体中央大陸の冒険者ギルドは何故にそこまでして俺たちを招き入れたいんだよ。
「ま、どの道この依頼で中級上位まで上がれるんなら良いじゃない。」
「私もそう思うよ!」
たく……お気楽な奴らだぜ。
するとそこで、出入り口から続く砂利道の向こうから、馬の足音と車輪が回る音が聞こえてきた。
「お、来たんじゃねぇのか。」
するとその音はどんどん大きくなっていき――
「お待たせ致しました。遅れてすいません、ラペルに来るのは初めてなもので。」
馬2頭が引っ張る、布の屋根が付いた馬車が出入り口に到着した。
「いや、全然待ってないから大丈夫だぜ。」
馬車を引っ張っている馬のすぐ後ろで2頭の手網を持っている村人にそう返す。――って、そんな事はどうでも良いんだが――
俺は目の前に現れた馬車に釘付けだった。
だってよ!あまりにもその見た目がファンタジーすぎるんだって!
なんかこれぞファンタジーって感じ!
そんな馬車に他の3人も、
「これは凄いわね……!」
「初めて見たぜ」
「わぁ!お馬さんだ!ギャンブルしたくなってきたぁ!」
なんかくるみだけ違う捉え方をしているような気がするんだが……
やっぱりいつもこんなロリな見た目を見てたら時々こいつが職業ギャンブラーなんて自分で言ってしまう程のギャンブル中毒って事を忘れちまうな。
「皆さん?乗らないんですか?」
「あ、あぁ!乗るぜ!」
この世界では当たり前なのであろう馬車を前にして興奮する28歳男性。
こりゃ恥ずかしいところを見せちまったな。
俺たちはすぐに馬車の後ろ側に回ると、中に入り、壁にもたれ掛かる形で腰を下ろした。
「それじゃあ出発しますね。」
「頼む」「了解よ」「あぁ」「しゅっぱーつ!」
こうして俺たちは、ラペルから今回の依頼の舞台、「アンテズ村」へ出発した。
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馬車が動き初めてから数十分、俺たちは目的地に着いた――なんて言えれば良かったのだが――
なんと今はあれから数時間後で、村に着いた頃にはもう夕方になっていた。――って!いくらなんでも掛かりすぎじゃねぇのか!?
「やっと着いたぜ……」
「長かったわね……」
「全くだ。」
「き、気持ち悪いよぉ……うっぷ……」
俺たちはヘロヘロになりながら数時間ぶりの地面を踏む。
なぜこんなことになったのかと言うと――途中までは順調に進めていたのだが、何しろ通っていたのは山に隣接した道だったために、土砂崩れが起きたらしく、遠回りを余儀なくされたんだよ。
いや、そのくらい少し横を通れば済むだろと言ったんだがな?馬車を動かしていた村人いわく、「草むらを馬車で進むと、車輪が草に巻き込まれて上手く進めない」のだそうだ。
だからって流石にここまで時間が掛かるとしんどくなっちまうぜ。
だが、やはりそんな俺たちに対して馬車を動かしていた村人も申し訳なさそうだった。
まぁ当然だよな、だって村を助けに来てくれた人達を速攻気持ち悪くさせてるんだもん。
「本当にすいませんでした。」
「いやいや、仕方ない事なんだから謝らなくていいって。」
「そうよそうよ」
まぁだが、今回のはこの人のせいじゃない。
だから俺たちは、謝ってくる村人にそう言った。
「ありがとうございます……では、早速村長の元へお連れしますので。」
「あぁ、頼む。」
こうしてアンテズ村に着き、速攻で疲れた俺たちは、村長の元へと歩き出した。