さて、アンテズ村の村長と話してから俺たちは夕食を食べさせてもらった。
そして食事が終わればもちろん、あれだよな。
というかまずはこれをしないと今回の依頼が始まらないと言っても良いだろう。
よし、じゃあ早速するとするか。
「おやすみなさーい!」
村長から貸してもらった宿で、俺たち4人は仲良く布団を並べて横になっていた。
いや、ちょっと!ちょっと待ってくれ!
お前らの言いたい事は分かる。まずはゴブリンの巣穴探しだろ!って言いたいんだろ?
もちろんそうなんだが――考えてみてくれ。
今はもう夜だ、こんな時間にモンスターの中でも賢く卑怯なゴブリンの巣穴探しなんて行ったら……下手したら全滅しかねんだろ?
俺たちが歴戦の猛者なら大丈夫なのかもしれんが――まだ下級上位のパーティーなんだから許してくれ。
それに、しっかりとした睡眠を取って明日に備えるというのも冒険者の立派な仕事なのだッ!!
「ふぁ〜、今日は思った以上に馬車での移動時間が長くて疲れたわ。」
「全くだぜ。くるみなんか酔ってたもんな――ってあれ?」
「すーぴーすーぴー」
「あはは、くるみもう寝てるじゃない。」
「寝る子は良く育つって言うけどよ――くるみは全然育ってないよな、特に胸が。」
おいおい、コイツら本人が寝てるからって好き放題言ってるなぁ。
大丈夫だぞくるみ。俺は小さいのも好きだ。
布団に足だけ入り、上半身を起こしている俺は、そんな美少女のやり取りを近くで微笑ましく見ていた。
どうだ?羨ましかろう?まるでエロゲだよなこのシーン。
だが、エロゲの様に上手く行かないのが現実ってもんだ。
俺の布団だけ見事に端に追いやられていた。
って言うかなんでこんな悲しいことになるんだよ!
「な、なぁ、俺もお前らの方に布団寄せても、良いかな?」
「え?ダメに決まってるでしょこの変態。」
「ですよねー」
はぁ……やっぱダメだったよ。
ま、分かってたけどな。
とりあえず、今日は早めに寝て、明日頑張るとしますかね。
「じゃあ、俺は寝るぞ。」
「えぇ、おやすみ」「あぁ」「すーぴー」
こうして俺たちは、アンテズ村に来た初日を終えた。――――と、思っていた。
---
そこからおそらく数時間後――時刻は深夜。
俺はそこが寝慣れていない場所だったという事もあり、起きてしまった。
「うんしょ……」
布団から上半身だけ起こし手を伸ばしてあくびをする。
ふぁ〜……明日から巣穴探しだって言うのに、起きちまったぜ。
こうなるとなかなか寝付けないのが俺なのだ。
そこで俺はふと少し離れたところで寝ている3人の方に顔を向ける。
「すーぴーすーぴー」
まるで幼稚園児のような可愛らしい寝顔で寝ているくるみ。
「すーぴーすーぴー」
いつもは男らしいが、こういうところは可愛いちなつ。
そして――
俺はニヤニヤしながら3人目の寝顔を見ようと視線をずらす。
するとそこには――
「ありゃ?」
居るはずのみさとの姿が無かった。
まさかあいつも起きてるのか?
たく……しょうがねぇやつだな。
俺は布団から出ると、扉の方へ歩いていく。
(ちなみに俺たちが借りている家の内装は、今居る寝室が客用に広く作られていること以外、村長の家と変わらない。)
扉の前まで来ると、ドアノブに手を掛けて開けようとする。
すると、その寸前に扉の向こうから、そこに居るであろうみさとの声が聞こえてきた。
「は――はぁ――」
「ん?」
扉が挟まれているからか、よく聞こえないな。
俺は耳をピタリと扉に付けると、聞き耳を立てる。こういう時は普通に開けて聞けば何を言ってるのかは簡単に分かるんだろうが――そういうのはあんまり面白くないだろ?
すると、扉に耳を付けた俺は、先程よりもよくみさとの声を聞き取ることが出来た。
「はぁ……はぁ…...///」
「え?」
「はぁ……はぁ……///」
完全に喘ぎ声だった。ってえぇ!?!?
ど、どういうことなんだよこれ!?
って事はこの扉の先では――――ッ!?
俺はこの扉の向こうで起こっていることに対して好奇心を押さえられなかった。
「みさとぉぉッ!!」
バタンッ!、俺は勢いよく扉を開ける。
するとそこにはやはり、みさとは居て――椅子に座ったまま手を――――ってこれ以上はアウト過ぎて言えねぇよ!!
「と、と、とうま!?!?」
いきなり後ろから現れた俺に、みさとは頬っぺたを真っ赤に染めながらそう叫ぶ。
「こんな夜中に……な、何してるのよ……?」
「こっちのセリフだぁぁぁ!!」
「だ、だって!私だって欲求不満な日くらいあるわよ!」
おいおい、今のその発言で完全にしてた事が確定したじゃねぇか!
せめて無理のあるやつでも良いから言い訳しろよッ!
「……」
「……」
そこから数秒間、俺たちは互いに何を言ったら良いのか分からず、無言で見つめ合っていた。
だ、ダメだ……気まずすぎる。
とりあえず何か言わなければ。
確かに今俺は叫んだりしたが、これだとまるでみさとが悪いことをしていたみたいになる。
あれはその――悪いことじゃないからな。
だから謝らないと、だよな。
俺は謝罪をする為に口を開こうとする。――するとその瞬間――
「皆さん!ゴブリンが出ましたッ!!」
村人が勢いよく扉を開けてそう叫んだ。