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第47話【第2試合〜瞬殺のスザク〜】


「「うぉぉぉぉ!!」」


 実況者が言い放ったみさとの勝利宣言がベイユ競技場全体に響き渡ると、観客たちは大きな歓声を上げた。


「おぉ!いきなり過ぎて分からないが、みさとが勝ったんだ

な……!」

「やったぞ!みさとぉッ!」

「みさと凄いよ!!」


 俺たちはいきなりの決着に頭が追いついていなかったが、とりあえず我がパーティーメンバーの勝利に喜ぶ。


 するとそこで、俺たちとは違い試合をちゃんと理解していたのであろうスザクが腕を組みながらボソボソと独り言を発していた。


「最初は一方的に攻撃をさせて体力を削り、最後はそのフラフラな敵に最小限の動きでカウンター、か。」

「中々やるじゃねぇか」


 スザクは少しだけ口角を上げた。


「そっかぁ、そういえば、スザクちゃんが準決勝で当たるのはぁ、みさとちゃんだものねぇ」

「あぁ、しかもあれだけ動くのを控え、体力を温存する戦い方――」

「確実にスザクちゃん、倒しに来てるわねぇ」

「だな」


 そう、この帝都ティルトル剣術祭は勝ち進めば1日に何試合もする事になる為、「どれだけ体力を温存しておけるか」「試合と試合の間にどれだけ身体からダメージを抜けるか」というのも凄く重要になって来るのだ――


 ――が、それにしてもみさとの奴、あんな迫力のある冒険者に対してよくそんなリスキーな戦法を取れるもんだぜ。


「まぁでも、とりあえずはここに戻って来たみさとにおめでとうを言ってやろう」


 スザクが言う。


「だよな」「だな」「うん!」


 よし!戦法諸々はまた聞ける時に聞くとして、まずは戻って来るみさとを明るく迎え入れてやろうじゃねぇか!


 ---


 それから数分後、まだやっと競技場全体のざわつきが収まって来たという時に、後ろの階段からみさとが上がって来た。


「――ただいま、戻ったわ」

「おぉ!みさと!お前やるじゃねぇか!」

「かっこいかったぜ!」「うんうん!」

「まぁね、今回の相手はスピードが遅かったから、ユニークスキルを使えば余裕よ」


 階段を登りきり、俺の座っている席のすぐ後ろまで来たみさとは、左手を腰に当て、右手をピースにしてこっちへ伸ばしてそう言う。


「……ッ!?」


 そこで俺は軽いめまいがした。

 こ、こんなに可愛いやつがさっきまであのフィールド上でオーガみたいな冒険者を翻弄してたなんて……

 そのギャップに、俺のちょろい恋心が奪われてしまいそうだ。というかなんで今までこいつらに対して恋愛感情が芽生えなかったのかが謎だが。


 まさか俺もマンガの主人公みてぇに「こいつらはもう家族だからな、恋愛感情は湧かねぇよ」なんて思っているのだろうか――ってそれはナイナイ。だって俺、こいつらに対して普通にムラムラするもん。


 もしかするとずっと美少女(少女じゃない年齢のやつもいるがまぁ気にすんな)3人とずっと一緒に居たからこそ、その内ひとりを好きになるなんて事にならなかったのかも知れねぇな。


 するとそこで、みさとの放った「ユニークスキル」という単語を聞き逃さなかったスザクが口を開いた。


「ん?ちょっと待ってくれ、今お前、ユニークスキルっつったか?」

「え?えぇ」

「あ、そう言えばスザクたちにユニークスキルの事言って無かったな」


 ま、エスタリたちにもこの事は言ってるし、まだ一緒に居る時間は短いが別に言っても良いんじゃないか、と、俺は思う。


「じゃあ、俺たちが持ってるユニークスキルの事、説明してやるよ」

「え!?お前ら全員ユニークスキルを持ってるのか!?」

「ま、まぁねぇ……」

「はぁ、たくとうまの奴は……まぁ良いけどよ」

「じゃあ話そう!」


 こうして俺たちは、最初の自己紹介の時と同じ様な感じで、1人ずつ持っているユニークスキルの名前と、その力をスザク、ミラボレア、あと――正直なんかめんどくさそうだから言いたくは無かったがその場に居たからついでにレザリオ、この3人に説明をした。


「なるほどな。通りでまだ冒険者になった日が浅い割に強いって訳だ。」

「だから、最後に相手の攻撃を最低限の、ギリギリで避けられる動きだけで交わせたのは攻撃の軌道を予め読んでいたからなの。」


 少し申し訳なさそうにスザクに言うみさと。

「だから、私はあなたと戦う時も完璧に避けるわ」俺にはそう言っている様にも聞こえた。


 しかし、当のスザクは全くみさとのユニークスキルに臆している様子は無く――


「なんでそんな申し訳なさそうに言うんだよ?それでもあの自ら作戦を考えて戦ったのはお前自身だろ?」

「ま、それでも――」

「俺とやる戦う時はそんなもん関係無しで勝たせて貰うしな!」


 自信に満ち溢れた瞳でそう言い放った。


「まぁそりゃ、スザクやったらそう言う思たわ」

「スザクちゃんは本当にぃ、強いからねぇ」


「――へっ」

「越えがいのある背中じゃねぇかよ……!」


 ---


 するとそこで、競技場に実況者の声が響いた。

 そうか、そういえばそろそろ次の試合の時間だよな。


『では、後5分後に第2試合を行いますので、該当選手の方はこちらが用意した武器を選び、フィールド前のエリアに移動して下さい。』


「お、もう2試合目をするのか」

「早いわね」


 この感じじゃ帝都ティルトル剣術祭自体が早めに終わりそうな雰囲気だぜ。


「――よし、じゃあ行くとするか」

「そうか、次の試合はお前なのか」

「あぁ」


 スザクは椅子から腰を上げると「ふぅ」っと軽く息を吐き、後ろの階段の方へ歩いて行く。

 そして階段を降りながら一言、こう言い残して行った。


「俺の力、よく見とけ。」


 ---


『さぁ!!では両選手準備が出来たみたいなのでこれから入場をしてもらいますッ!!』

『両選手、入場ッ!!』


「「うぉぉぉぉ!!」」


「なッ、入場だけで凄い歓声だなこりゃ」

「まぁ今回戦うスザクは有名な冒険者やからな」


 やっぱり上級冒険者は違うって訳ですか。


「相手の方はどうなんだ?」

「相手か――うん、ワイもよう分からんわ」

「んだよそれ」

「すまんな、あいつも多分第1試合のオルガ同様ワイらとは違うギルドを使ってるやつやと思うから普段交流がないんやて」


 でも、そんなレザリオでもオルガの事は知っていた。それはやっぱりそれだけオルガに実力があるって事。

 ――ますますみさとの株が上がるじゃねぇか。


『――では、両選手はそこで止まって下さい!!」』


 スザクと相手の冒険者は、先程のみさと、オルガの時と同じ様にフィールドの真ん中まで来たところで止まる。


「すごい、スザクったら全然動じて無いじゃない」


 そこで、俺の左側でちなつ、くるみと固まって一緒に観戦していたみさとがそう言った。


「ん?動じて無かったのはお前も一緒じゃないのか?」

「バカね、あそこまで色んな人から注目されて、緊張しない訳無いでしょ?」


 みさとはあの時、顔には出していなかったがめちゃくちゃ緊張していたらしい。


「ま、あの感じは実際にあそこに立たないと分からないと思うけどね。」

「ふぅ〜ん」


 まぁどの道、ものすごい重圧が掛かるのだろう。それだけはよく分かるぜ。

 ――その証拠に、


「対して相手はめちゃくちゃ緊張してそうだな」


 余裕の笑みで十文字槍(もちろん木製)を肩に乗せて試合開始を待っているスザクに対して、相手の冒険者は明らかに緊張が顔に出ていた。

 もしかしたら相手はまだ新人なのかもしれないな。

 持っている武器も俺と同じく剣に盾と、シンプルな物だった。


『ではッ!!今回優勝最有力の上級冒険者、スザク選手VSバーサスひとりでの戦闘を見せるのは今回初めての、こちらも上級冒険者、ラゴ選手の試合を開始致しますッ!』


「って、相手も上級冒険者なのか!?」


 まてまてまてまて!じゃあなんでさっきレザリオは「知らない」って言ったんだよ?普通上級冒険者なら知ってるはずだろ?

 するとそこで、レザリオが口を開く。


「ん?ラゴ……?って事はあいつまさか――」

『試合開始ッ!!』


 しかし、レザリオがその言葉を言い終わる前に、フィールド上にいる審判が開始の合図をしたのだろう、実況者はそう叫び、耳を刺す様な観客の歓声で掻き消された。


 ま、まぁ良い。どの道この試合は上級冒険者同士の物、確実に名試合に――


『おおっと!!早速スザク選手が目にも止まらぬ速さでラゴ選手を吹き飛ばしたッ!!』

『すぐさま審判がラゴ選手の元へ駆け寄って行きます!』


「な!?」


 俺はすぐにフィールドの方へ視線を向ける。

 そこには耳をほじりながら余裕で立っているスザクと、地面に倒れているラゴの姿があった。


『一瞬で終わったぞッ!!第2試合を制したのはスザク選手ッ!!』


 あの上級冒険者――一体……?



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