えなが働いている仕事場の先輩、ゆうりと共に公園を訪れてきた昼。
その日の夜からえなは公園に来なくなった。
理由は分からん。とにかく、急に我の前に現れなくなったのだ。
そして、それからそんな日が数日間続いたある日の昼間――
「っし、行ってみるとするか」
我はえなの働いている会社というところに行ってみる事にした。
実は最後に会った昼に、働いている場所を大体だが教えて貰っていたのだ。
正直、こう何日も誰とも話さなかったら流石の我もキツいし、それに前はやることがある、なんて言っていたが実際のところ本当にやる事がない。
まぁ、どの道やる事がないんだから、動いてみて損は無いだろう。
こうして我は、子供が遊ぶ昼間の公園からひとり建物群へ歩いて行った。
♦♦♦♦♦
「確か、ゆうりはこの道を左に曲がると言っていたな……」
それから数分後、公園から出た我は早速道に迷っていた。
いや、違うぞ……?決して我が方向音痴なのではない、この世界の道が難し過ぎるのだ……ッ!!
「前から思っていたが、なんなのだ……このギュウギュウに詰められた建物たちは……」
元居た世界では、確かに大きな街だと沢山の建物が集まっている事はあるが、全てがこんな感じとは……一体森や洞窟、草原はどこにあるのだ……?
これではどこにもモンスターの住処が無い様なものではないか……?冒険者はどうやって生計を立てている?
――っというか、もしかすると冒険者自体、この世界には存在しない……?
確かにモンスターや武装した人間は見ていないが……
はぁ……この世界は本当に分からんな。
「――と、とりあえずえなの職場を探そう。」
危ない危ない、色々な事を考えたせいで本来の目的を見失うところだった。
我はそう自分に言い聞かせる様に独り言を放ち、周りの人間たちに不審な目線を向けられながら(理由は分からん)道を進んで行った。
それからしばらく、あの時えなたちが話していた情報を頼りに道を歩いていると、
「――って、お!自称魔王じゃねぇか!」
「ゆうりか、って、自称では無い!我はれっきとした魔王だ!」
そこでえなの先輩、ゆうりに出会った。
「何してるんだ?」
「何って、我はえなの働いている場所にこれから行くところだ。」
「ふぅん?――あ、そっかそっか、へへ」
「?なんだゆうり?気持ち悪いぞ?」
我は意味ありげにこちらを見てクスクスと笑うゆうりにそう問いかける。が、「まぁまぁ良いじゃん良いじゃん」見事に軽く受け流され、
「あたしさ、今昼休みだからこれから昼飯でも食べに行こうと思ってたんだよね。」
「そ、そうなのか。じゃあえなは――」
「はいはい、なんでもえなえなって、ほんと大好きだな。そのことも話してやるから、ちょっと昼飯、付き合ってよ」
「ちょ、ちょ!?――」
そのまま我は服の裾を掴まれるとどこかへ引っ張られて行った。
く、くそ……ゆうりめ……我は魔王だぞ……!?そんな乱暴にするな……!?
♦♦♦♦♦
「――で、ゆうり、ここは一体なんの店なのだ……」
「はぁ?魔王、アンタ喫茶店すら知らないの?」
「だから、我は別世界の魔王なんだぞ?この世界のことは何も知らん。」
「はぁ、もうつくづくめんどくさい設定ねそれ……」
「まぁ、喫茶店ってのはお茶を飲んだり、ご飯を食べたりするお店よ。」
なるほど、要するに冒険者ギルドの近くにあったりする酒場みたいな感じという事だな。
「喫茶店のことはまぁ分かった。で、えなの事はまだ話さんのか?」
「分かってるって。でもその前に注文させてよね。――オムライスで良いかなー」
「はぁ……しょうがない女だな」
全く、我が優しい魔王で命拾いしたなゆうりよ。
それから数分後、ゆうりの注文したオムライスとやらが到着すると、やっとえなの話が始まった。
「――で、えなの話だったよね?」
「そうだ。全く、どれだけ待たせるのだお前は。」
「ごめんごめん。――で、最近、公園に来てないでしょ?えな」
「あぁ、無事ならばそれで良いのだが、もし何かがあったのなら……って、べ、別に心配している訳ではないからな!!」
く、くそ……我とした事が思っていた事をそのまま口に出してしまった……ッ!!
えなを「好き」だと思い始めてから、えなに対する思いを正直に言うのはものすごく恥ずかしい気持ちになる様になった。今まで、好きになった女にはストレートに言えていたというのに、だ。
一体この気持ちはなんなのだ?これも好きという気持ちなのだろうか。
「はは、魔王、アンタ今誤魔化したわね?――まぁ良いわ。大丈夫、えなは毎日元気に働いてるわよ。仕事の頑張り度合いならいつも以上かもしれないわ。」
「え?そうなのか?」
でも、公園には全然顔を出さないんだぞ?ま、まさかえな、我の事を嫌いに……?
もしそうだとしたら最悪だ……我、なにか悪いことをしたか?
我は頭で必死に理由を考える。
すると、そんな時にゆうりは我のでこをピッと人差し指で突くと、
「魔王、アンタ今えなに嫌われたのかもって思ってたでしょ?」
「ッ!?あ、あぁ。何故だ?なぜ分かるのだ……!?まさかゆうり、貴様実は魔法を――」
「あぁもう、かってに話をファンタジーにしないでよ、全然そんなんじゃないから。アンタの顔みたら分かるわよ。」
「でも大丈夫。えなはアンタの事嫌ってなんかいないわ。」
「えなの先輩代表のあたしが保証するッ!」両手を腰に当て、ピンと胸を張ってドヤ顔でそう言うゆうり。
「な、なぜ分かるのだ?」
「だって――」
「ん?だって、なんだ?」
「
「……ッ!!そ、そうか。」
良かった、えなは我の事を嫌ってはいないのだな。――それに、我の事を話す時、凄く楽しそうって……ッ!!!
「あっ!魔王顔赤い〜」
「は!?い、いや!?赤くなどない!!こ、これはだな!!そ、そう!!体温を上げる魔法を顔に使っているのだ!!」
「魔王、アンタ流石に嘘下手すぎでしょ……」
内心、めちゃくちゃホッとした我であった。