「魔王さんっ!あのアトラクション楽しそうですよ〜!」
「あぁ、そうだな……!」
「あ!でもあのメリーゴーランドも乗ってみたい!」
「良いではないか……!ふはは……!」
えなにいきなり抱きつかれてから数分後……今は春丘テーマパークの中心――乗り物が多くあるメインエリアに居るのだが……さっきの事があったせいか、先程から笑みが止まっていなかった。
この気持ちの高まり、そして心の奥から底無しで湧いてくる自信――まるでこの世界に来たばかりの頃の、じぶが最強で1番偉いんだと信じて止めなかった時の様だ。
まぁもちろん、今は悠介さんより全てが上だなんて事は思っていないが、それでもこの気持ちの高鳴りはその頃を思い出すな。
「?どうしたんですか魔王さん?さっきからずっと笑ってますけど。」
すると、そこでそんな我のテンションを不思議に思ったのか、えながそう質問してきた。
――どうする、我。
正直、ここで「そんなの決まっているだろう……ッ!!えな、お前に抱きつかれたからだッ!!」と言っても我らしくて良いのかもしれないが……それでは、それを聞いて我に抱きついた事を思い出して頬を真っ赤に染め、暴れる可能性がある。
ふっ……!!我は今までのバカで世間知らずな我では無い――
だからここは……
「あ、あぁ。すまない。昨日パンフレットで見たアトラクションがあまりにも面白そうで、楽しみで仕方無かったのだ。」
「へぇ……!魔王さんもこういうの、好きなんですね!――実は私、この話を聞いた時に思ったんです。「魔王さん、遊園地とか好きかな?楽しめるかな?」って、」
「でも、楽しみなら良かったです!安心しました!」
「あ、あぁ」
うぅ……少し騙している様な気分だ。だ、だがえな。お前と一緒に居られるだけで我は十分楽しいぞ。
(こう考えると我、どっぷりえなの事が大好きなんだなと思う。)
しかし、するとそこでえなが、
「――で、どのアトラクションなんですか?魔王さんが昨日パンフレットで見て楽しそうだと思ったのは!」
「――へ?」
「あれ?あるんですよね?」
そこで、上目遣いで少し申し訳なさそうな表情になるえな。
お、おいやめろその表情……!?
で、でもいきなりそんな事聞かれても実際乗りたいアトラクションなんて――
だが、そこで我の頭の中に数日前、昼休み中に悠介さんとおもむろに交わした会話を思い出した。
『――そう言えば、前ゆうりと買い物に行ったんだが服屋でどちらの服が似合うかと聞かれたんだ。』
「あぁ」
『だが、俺からしたらどちらもものすごく似合っていた。だから、こう言ったのだ。「どちらも似合っているぞ」と。』
「あぁ」
『すると、それを聞いたゆうりは急に怒り口調でこう言ってきた。「どちらか選んでよ、決められない男はだめなんだよ」――』
『だから魔王、お前が女性からなにかを尋ねられた時、絶対に「どれでも」や「なんでも」は使うな。男ならビシッと何かを選ぶんだぞ』
『あ、あぁ……』
くそ……!まさかあの時、(悠介さんは熱く語りだしたらめんどくさいぞ)なんて思っていた会話の内容を実行する時が来るとは……!!
だから、そこで我はすぐに周りを見渡すと――
「あ、あれだ!!あのアトラクションに乗りたかったのだッ!!」
勢い任せに指をひとつのアトラクションに指した。
「あぁ、あのカップに乗って回るやつですね!魔王さんってそういうの好きなんですね」
「お、おかしいか?」
「いえ、ただその、「可愛いな」って思っただけです」
「……ッ!?」
「まぁ私も好きなんで、乗りましょう」
「あ、あぁ」
こうして我とえなは、カップに乗って回るという、よく分からないアトラクションに乗る事になった。
ま、まぁ見た目は可愛いし、おそらくは大丈夫だろう。
♦♦♦♦♦
それから、我とえなはカップのアトラクションを待つ列に並び、数分後遂に乗れる番が回って来た。
このアトラクションは他のと比べて並んでいる人数が少なかったな。まぁ、早く乗れるならそれで良いが。
「ここに、我とえなが座るのか?」
「はいっ!あぁ、久しぶりだなぁ〜……!」
アトラクション内に入ると、そこを仕切っていた人間が我とえなをひとつの巨大なカップの中へと誘導する。
中は、周りが全て座れる様になっており、真ん中に円形のハンドル(何に使用するから謎)があるという作りだ。
ま、まさか、ただここに座ってえなと話すだけのアトラクションとか、そんなのではないだろうな……?
だとしたら周りに比べて人が少ないのにも納得が行くし、なによりもこれに付き合ってくれているえなに申し訳ないぞ。
しかし、そんな我の考えは良くも悪くも裏切られる事になる。
「ほら!始まりますよ!」
「始まる?なにがだ?――って、うぉ!?」
なんとその瞬間、軽快な音楽と共に我とえなの乗っているカップが回り、動き始めたのだ。――って、なんなのだこれは!?!?
「お、おいちょっとなんだこ――」
「ほらほら!もっと回しますよっ!!」
しかし、そんな我の問いに答えようともせず、えなは中心のハンドルを握ると――
お、おい……まさかそれを回したら――
「う、うぉぉぉぉぉぉぉ!?!?」
そこでカップは先程とは比べ物にならない速度で回転を始めた。
「ふぅ!!楽しいっ!!」
「と、止めるのだえなッ!?だ、誰か助けてくれぇッ!?」
この後も数分間悪夢を見る我であった。