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第16話だぞ【やるなら今】


「楽しかったですね魔王さんっ!!」

「あ、あぁ……うぅ……」


 地獄のカップから解放された我は、胃から今にも吹き出しそうな食べ物を必死に堪えながら、出来るだけえなに感ずかれない様に振舞っていた。


 ま、まさかあんな可愛らしい小さなアトラクションがここまでの威力だとは思っていなかったぞ……

 という事は、まさかこの周りにあるアトラクション全てがこれだけの威力を放つ、とかじゃないだろうな……?

 まずい、急に目眩が……


 ダメだ。これは絶対的にダメだ……ッ!!なんとしてでも一度このアトラクションエリアから出なければ……


「な、なぁえな――」


 だから我は出来るだけ平然を装いながらえなにそう伝えようとする。――が、それに対してえなはキラキラと輝いた目で、


「魔王さんっ!!あのジェットコースター乗りたいです!!」


 前方に見える、明らかに周りのそれとはレベルの違う威圧を放ったアトラクションを指さしながらそう言ってきた。

 って、あれはまさか……「春丘ドドンパ」ッ!?


 説明しよう。「春丘ドドンパ」とは、この春丘テーマパークの中にあるアトラクションで一番有名な、メインとなるジェットコースターで、ものすごいスピードが出る。――と、パンフレットに書いていた。


 いや、明らかにこの説明文だけでヤバそうな匂いがプンプンしているぞ……?

 絶対さっきのカップよりやばいだろう。

 というか、えなは怖くないのか……?


「お、おい。あれはさすがにえなも怖いんじゃないか?わ、我はあんなのれ、レベルが低過ぎて興味が無いからせめて他のアトラクションに――」

「そうですよね、、魔王さんはやっぱり私の選ぶアトラクションじゃ満足出来ないですよね……ごめんなさい……」

「……ッ!?」


 しかし、そこで我の強がりを聞いたえなは、急に俯き、申し訳なさそうな口調でそう言い出した。

 って!?なんでそうなるんだよ!?


 なんか今日のえな、テンションおかしくないか……?

 だ、だが、このままではえなが悲しい思いをしてしまう事になる。それは、我としては最も避けたい事態だった。

 たとえあの春丘ドドンパにだ。


 あぁもう……!!!


「あ、あれ?急に気分が変わってきたぞ?あ、あのアトラクションに乗りたくなってきたみたいだ。」


 だから我は、心の中で涙を流しながらそう呟いた。

 すると、案の定それを聞いたえなは、


「ほんとですか!?やった!!じゃあ行きましょう!!」


 子供の様にはしゃぎ、春丘ドドンパに並ぶ列の方へ走って行く。


「全く……」


 そんな姿を我は呆れ笑いで見ていた。――これから地獄を見る事になるというのに。



「では、お2人様は一番前の席にお乗り下さい。」

「はいっ!」

「はぁ……」


 そして、それから数十分後、遂に我とえなの番がやって来た。

 見た感じ、このアトラクションは一度に数十人乗る事が出来るみたいだが――よりにもよって一番前の席とは……つくづくついていないな、


「楽しみですね!!魔王さんっ!!」

「あ、あぁそうだな。」


 ――だが、こんなにも可愛いえなの笑顔をこうして間近で見られているのだから、結果オーライという感じだな。


 すると、そこで遂にこの様なアナウンスが流れる。


『では、安全バーを下ろします。暴れないで発進までご待機下さい。』


 そして、そのアナウンスと共に上から黄緑色の鉄で出来たバーが降りて来て、我の身体をがっちりと固定した。

 分かる……これは身体が吹き飛ばない様にする物だろう。

 要するに、これから動くという事だ……ッ!!


『では、発進いたします!皆様!楽しんで行ってらっしゃいませ〜!』


「お!動きましたよ魔王さんっ!!」

「……ッ!!」


 さぁ、来るがいい春丘ドドンパ……!!この魔王と勝負だ……ッ!!


 ♦♦♦♦♦


「大丈夫ですか魔王さん……?まさかこんなに絶叫系が苦手だなんて知りませんでした……」

「う、うぅ……」


 それから無事(ではないが)なんとか春丘ドドンパから降りた我は、出口からすぐ近くにあったベンチに寝転んで吐き気を必死に抑えていた。


 な、なんなのだあのアトラクションは……さすがに早すぎるだろう……

 全盛期我の移動速度ともいい勝負をするな……


「それにしてもあの直線、ほんと早かったですね〜!瞬間最大スピード、200kmを超えるみたいですよ。」

「も、もう我にはそれが凄いのか分からん……」


「――それにしてもえな、お前は平気なのだな……」

「私ですか?はいっ!小さい頃から大好きですっ!」


 ち、小さい頃から、だと……?化け物じゃないか……

 この世界の人間……恐ろしいぞ……


「――ですが、今回は魔王さんに嫌な思いをさせてしまいました。私がわがままなばっかりに振り回しちゃった……本当にごめんなさい。」


 すると、そこでえなはベンチで横たわる我に向かい、頭を下げた。


「お、おい、そんな真剣に謝るのではない。我はえな、お前と居られればそれだけで……」

「――え……?」

「あ、」


 しまった……!気持ち悪い事を言ってしまったか……!?

 しかし、そんな我の言葉を聞いたえなは驚きを隠しきれていない表情で頭を上げるとこちらを無言で見つめてくる。


 我の勘違いかもしれないが、頬もほんのり赤らめている様な気がする。

 まさかえな……お前も……?


「え、えな……我はお前の事が――」


 すると、そんな空気になったせいか、我の口が勝手にそう言葉を紡ぎ出す。

 ま、まずい、ほんとに勝手に――


「魔王さん、ちゃんと言って下さい。」


 そして、対してえなも真剣な眼差しでこちらを見つめる。

 あぁもう……!!こうなったら言ってやる!!

 それに、悠介さんやゆうりも言っていた、「デート中の告白が良い」と。


 だから我はそこで覚悟を決め――


「お前の事が、好――」


 パァンッ!!!


 その瞬間だった。春丘テーマパーク内にそんな爆音が響き渡ったのは。

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