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第17話だぞ【我を怒らせたな?】


 パァンッ!!!


 告白の空気になり、我がえなに気持ちをぶつける寸前、春丘テーマパーク内にそう鋭い爆発音が響き渡った。


「ま、魔王さん……い、今の音って……?」

「……ッ」


 なんだ……?今の音は……?

 この世界に来てからもうしばらく経つが、聞いた事の無い音だ。


 すると、そんな音からしばらくすると、


「きゃあああああああ!!?」


「な、!?」


 今度は音が鳴ったのと同じ方向からそう女性の悲鳴が響き渡る。

 我には分かった。今のは生半可な状況で出る声では無い。「人間が死を覚悟する時」に出る声だ。


「――ちょ、ちょっと魔王さんっ!?」

「とりあえず、我が様子を見てくる!えな、お前はここに居ろ!」

「で、でも、」

「良いから、口答えをするのではないッ!!」


 とにかく、今はベンチなどで呑気に座っている場合では無い。我はすぐに立ち上がると、音の聞こえた方へ走った。


 ♦♦♦♦♦


 そして、しばらく走ると音が鳴ったであろう場所に着く。(魔族は音や風の波を感じる事が出来る為、場所の特定が出来るのだ)

 すると、そこには真っ黒な服を着て、顔に布で出来た仮面を被った3人組の男たちが立っていた。


「あいつらか、先程の爆音を放ったのは。」


 見た感じ、分かる。おそらく――いや、絶対にこのテーマパークが用意したサプライズ的な物では無いだろう。

 雰囲気が、今まで我が対峙していた勇者たちと同じ様に、確かな殺気を周りに放っていた。


 だが、だからと言って魔力は感じないぞ……?こいつら、普通の人間だ。

 ――なら、我の相手では無い。



 (今居る場所は春丘テーマパークの入り口からすぐの広場――先程はすごく賑わっていた場所だ。だが、今は3人組を覗いて誰ひとり居ない。おそらく、先程の音で逃げたのだろう。)


「はぁ……」


 我はこの世界で生活を始めてからずっと平和に――至って普通に過ごしてきた。――が、こいつらの様な存在は、そんな我の平和を崩しかねん存在だ。

 それに、えなに迷惑がかかっても最悪だからな。


 だから、我は3人組の方へ行き、今すぐ春丘テーマパークから立ち去る様に言おうとする。

 凄く気の強そうで、悪事に手を染めていそうな風貌ではあるが、我が魔王と知ればすぐに逃げて行くだろう。


 ――だが、なんとそうしようとした寸前、


「魔王さん!!」

「って、え、えな……!?」


 なんとあの場所で待っていろと言い聞かせていたはずのえなが、後ろから我の背中を追うように走って来た。


 な、何故えながこちらへ走って来ているのだ……!?

 確かに我は先程、「ここに居ろ」と言ったはずだが……


「な、何故ついて来たのだ!!危ない可能性もあるからあそこに居ろと――」


 しかし、そうひき帰らさせ様とする我に対してえなは涙目で、


「そんなの魔王さんが心配だったからに決まってるじゃないですか!!」

「な……ッ!?」


 わ、我を心配だと……?この、我を……?

 そんなセリフ、我は長く生きて来たが生まれて初めてだった。


「確かに、魔王さんは強いです。私が公園のトイレで男の人たちに囲まれて、それから助けてくれた経験でその事はよく分かってます。でも……」


「だからって!あんな大きな音が鳴った場所に大切な人をひとりで向かわせる程、私は弱くない!!」

「……ッ!!え、えな、」


 我にそんな感情を持ってくれていたのか……それに、た、大切な人って……っっっ!?

 う、嬉しすぎる……嬉しすぎるぞ……!!!


 ――だが、それでもやはりここら一帯の安全が確認出来るまで、えなをここに止まらせる訳にはいかない。

 だから、「それでも危険だから」とひき帰らせる為に声をかけようとした、その時だ。


「――ん?ねぇ兄貴!あの背の高い白髪の男のすぐ奥に居る女!中々可愛くないっすか……!」

「確かにな……!――おい!そこの女!ちょっとこっちに来い!」


 周囲に殺気を放っていた三人組のうち、ひとりが真ん中のリーダーらしき男にそう話しかけ、それを聞いたリーダーがこちらへ歩いて来た。――が、


「おい、なんだ貴様らは?先程からここで周りに殺気を放っている様だが、まさか先程の爆発音を放ったのも貴様らか?」


 そうやすやすと安全かどうかも分からない男たちをえなに近づけさせる訳は無く、我は右手でバッとえなを庇うと、真ん中のリーダーにそう言葉を投げかけた。


 本当になんなのだ……?こいつらは。

 しかし、さっきからえなが男たちが手に持つ鉄の塊を見て異様に怖がっている。

 やはり、持っているのはこの世界の武器か?


 すると、それに対してリーダーは、


「なんだなんだ?にいちゃん?俺たちが手に持ってるもん。怖くないのか?」


 完全に我を見下した表情でそう返してきた。


「当たり前だ。人間が何を持とうと所詮は人間。我が怖がる訳無いだろう。」

「はっ、自分も人間だろうが。」「ねぇ兄貴、まさかこいつ、あの女の彼氏なんじゃないっすか?」

「だろうな。おい、お前――奥に居る女、俺たちに渡せ。」

「ひっ……」


 するとそのセリフをリーダーが我に吐いた瞬間、えなの身体が更に恐怖でプルプルと震え出したのがよく分かった。


「何を言っている?えなを貴様らごときに渡す訳ないだろう。自分の立場をよく理解して物を言うんだな、人間。」


 だから、そんなえなが出来るだけ怖がらない様に、いつもはこんな事、率先して言わないが、男たちを見下す様な口振る舞いで我はそう言った。――が、逆にそれで男たちに火が付いた。


「あ?舐めんなよお前。マジで撃ち殺すぞ。」

「もうやっちゃいましょうよ兄貴。後ろの女はそれから攫えば良い話っすよ。」


 そうして男たちは我に手に持っていた武器らしき物を向けてくる。

 するとそれと同時に、後ろからえなが、


「魔王さん!もう良いですから!!本当にあの人たち、魔王さんを撃つ気ですよ……!?」


 涙声で必死にそう訴えかけて来た。


「ははは!お前の彼女はまだまともみたいだな!」


 そして、そんなえなを笑う男たち。



 「あぁ……本当に残念だ。」


 そこで、完全に我の怒りが我慢の限界を迎えた。


「――あ?なんか言ったか?」

「我はてっきり、この世界には前の世界の様な――悪い人間は居ないのだと思っていた。誰も彼もがえなやゆうり、悠介さんの様に親切なのだと。――だが、違ったみたいだ。」


「我は今、大切なえなを――こんなにも優しいえなをこけにし、デートをめちゃくちゃにした貴様らに強烈な怒りを抱いている……ッ!!」

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