「魔王様、この様な世界に居たのですか。ずっと探しましたよ。ですが、見つかって良かった。お迎えに上がりました。」
「……ッ!!き、貴様は――」
いきなり光から姿を現したひとりの女に我はそう問いかける。
「お忘れになられたのですか?私はずっと魔王様の右腕となって働いていた――」
「魔族、ディザベルですよ。」
「ま、魔王さん……?あの人って……」
「えな、大丈夫だ。アイツは我の敵ではない」
どちらかと言うと味方。我の手下だ。
あぁ、久しぶりにその顔を見たぞ。忘れるなどあり得ん。
そう、この我と同じ白髪ロングで黒いローブを羽織った女は、前居た世界で我の右腕として働いてくれていた魔族の中でも上位のディザベルという者なのだ。
だが、なぜこの世界に来れたのだ……?
「お、おいディザベル。何故この世界に来た?――いや、正確には何故来れた?」
まず、ディザベルにそう尋ねる。
確か我が知っている限りでは世界を飛び越えて移動する魔法なんて存在しなかった筈だが――
「あぁ、それは単純な話です。習得したのですよ、世界を飛び越えて移動する魔法を。もっとも、魔王様がこの世界に飛ばれた際はまた別の方法ですが」
「習得……だと?」
さすが魔族だな(我もそうだが)そんな魔法、我でも持っていないぞ。我が持っている移動系の魔法は座標移動の魔法くらいだ。
「それに、我の時はまた別の方法って……話がさっぱり分からん。」
「まぁ、魔王様は昔から難しい話の理解はあまりなさらない方でしたからね。その事はもう良いでしょう。」
「――さぁ、帰りましょう、元の世界へ」
「「……ッ!!」」
その瞬間、ディザベルは笑顔でそう言った。
まぁだが――わざわざ我の居るところまで世界を飛び越えて来たのだ、それ以外は無いと思っていたがな。
きっと、我が居なくなってからあちらではずっとディザベルが我の代わりに魔王として世界を動かしていたのだろう。時には城へやってくる勇者共の相手をしたり、
それに、他の手下の者たちにも沢山、迷惑をかけたな。
「あぁ、やはりそうだよな。貴様は我を迎えに来てくれたのだ。良くここまで来た、我右腕ディザベルよ。」
「ふっ、当然の事をしたまでです。魔王様。」
「ちょ、ちょっと魔王さん……?ま、まさか――」
後からえながそう声をかけてくる。――が、返事はしない。
そしてそのまま、目の前のディザベルに片手をあげて突き出すと、
「――だがな、貴様には帰ってもらう。我は前の世界には戻らんッ!!」
はっきりとそう言い放った。
「――な、!?」
「確かに、我が居ないとそちらの世界は大変だろう。ディザベルも良く頑張ったのだろうな。だが、すまないが我はこちらの世界に残らせてもらう。」
「なにをバカな事を……ま、まさかその後ろの人間が……?」
「えなは関係ない。それに我は魔王だぞ?貴様は我の命令に背くつもりなのか?」
「確かに、勝手な事を言っているのは重々承知だ。だがな、この世界で我は色々な事を知り、学んだ。そして生まれたのだ、大切な――守りたいと心から思える存在が……ッ!!」
「……ッ!!ま、魔王さん……//」
だから大丈夫だえな、我はこの先どこへも行かん。
ずっと一緒だ。
しかし、そんな我の答えを聞いたディザベルは大きくため息を吐くと、その瞬間今まで感じた事の無いレベルの魔力が周囲に解き放たれ、
「魔王様――貴方には失望しましたよ。ですが、やはり私たちの世界には貴方が居てくれた方が都合が良い。無理やりにでも力でねじ伏せて連れて帰ります。」
「ほぅ?我に従えていた貴様が自ら力勝負を挑んでくるとはな、良いだろう。力の差という物を教えてやるぞ……ッ!!」
「えな、お前は後ろへ下がっていろ。今回は相手が相手だ。流れ弾から100パーセント守る事が出来ると保証は出来ん。」
「は、はいっ!!」
「では――行くぞッ!!」
「魔王様、貴方を連れ戻すッ!!」
「「はぁぁぁぁッ!!」」
そうして我と我の右腕ディザベルの一騎討ちが始まった。
が、しかし、
「はぁはぁ……」
「どうしたのですか?魔王様?もう体力の限界ですか?」
「だ、黙れ……」
「ま、魔王さんっ!!」
「えな!お前は離れていろと言っている!!」
なんと一騎討ちは我の予想に反して拮抗し、魔力勝負では我が若干上、身体能力ではディザベルが上という様な状況になっていた。く、くそ……なぜこの様な事に……
ま、まさかディザベル……我が居ない間に魔王の座を奪おうとずっと鍛えていたのか……?
いや、だがそれだとわざわざ我を迎えに来る意味が……
「ん?まさか魔王様、今私が凄く強くなったのではないか、そう考えましたね?」
「……ッ!!」
「ふっ、図星ですか。ですが魔王様?残念ながらそれは間違いです。」
「ま、間違いだと……?」
なら、なぜ我とディザベルの実力差がこんなにも――
「私が強くなったのではなく、魔王様。貴方が弱くなったのです。」
「な、!?」