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第69話

その日の夜。

湯浴みを終え、お酒を飲んでいたところに、テオが私の部屋を訪れた。


「あら?珍しいわね。入って」


「ステラ様……お酒飲まれるんですね」

部屋に入ってテーブルの上のお酒に目をやったテオは私にそう言った。

私はテオを長椅子へ案内して座らせる。


「意外?私もたまには飲むわよ。そんなに強い訳じゃないけど、社交には必要な時もあるし」


「ふーん……。俺も成人したら飲める様になりますかね」


「どうかしら?体質にもよるんじゃない?

はい、飲めないテオにはこれね」

と私がテオのグラスに果実水を注ぐ。


テオはそのグラスを手の中で遊ぶように揺らしながら、


「ステラ様は俺の事、子どもだと思っていますよね?」

と少し拗ねた様にそう言った。


「十七歳の男の子って、微妙よね。少年と呼ぶには遅すぎるし、青年と呼ぶには少し早い様に思うのよ。

後一年で成人だから大人に近いといえば近いのだけど、大人って年齢だけで区切られるものではないでしょう?」

と私が言えば、テオは少し不思議そうな顔をした。


「歳だけ大人になってもね」

と私が少し苦笑すれば、


「あの人みたいな人ですね」

とテオは私の考えを読んだ様にそう言った。

……その通りだけど、私は曖昧に微笑むだけにした。


「で、テオは何か私に話したい事があったんじゃないの?」

と私が尋ねると、


「今日の件です。俺、出しゃばり過ぎましたか?」

とテオは心配そうだ。


「まさか!アイリスさんの事は元々、テオに任せてみようと思っていたの。でも、テオが既に考えてくれていたなんて思ってなかったから、少しだけ、驚いたのは確かだわ」


「俺の判断は間違ってると思いますか?甘いって思いますか?」


「いいえ。私も同じ様に思っていたわ。アイリスさんには領地に戻って貰いたかったし、出来る事なら自立して貰いたいとも思ってたもの。

それを手助けするのは、公爵様の遺志でもあるでしょうし。甘いと言われるなら、私もよ。彼女の借金まで肩代わりしたんだし。……でもね、彼女には感謝してるのよ、これでも」


「感謝?」


「ええ。テオを生んでくれたもの。私には出来なかった事よ」

そう言って私は一口お酒を飲んだ。疲れた体に染み渡る。

公爵様が亡くなって、ずっと働き詰めだ。少し休みたいと思うのは、我が儘だろうか?


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