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第80話

「…………故意って事?」

私も小声で話す為に少しテオの方へ身を乗り出した。


「証拠はこれからですが恐らく。とにかく此処ではない何処かでお話しますね。まず……」


とテオが話し始めた時、ノックの音が聞こえ、私達は話すのを止めた。


「奥様!ご無事で何よりです!テオドール様も」

とギルバートが顔を見せた。


「ギルバートさん、どうでしたか?」

とテオが尋ねる。


「ビルはずっと家に居ました……というより寝てましたよ、私が起こすまで。彼ではありません」

と話すギルバートに、私は、


「話が聞けないのはもどかしいわね」

とため息をついた。


するとまたノックの音が聞こえ、今度はソニアが顔を覗かせた。


「護衛の手当ても終わりました。火も鎮火しましたが、家の殆どが焼け落ちてしまいましたね」

と言うソニアに、


「他の人達に怪我はない?消火活動をしてくれた者とか」

と私が尋ねると、


「殆どの者は無事です。最前線で消火していたテリーが手に少し火傷を負ったぐらいですね」

と言うソニアに、ギルバートとテオが顔を見合わせた。


その様子に私は、もしかすると私は殺されかけたのかもしれないと思い至った。


結局、夜が明けるまで寮のメグの部屋を借りて休む事になったが、流石に眠れそうにない。

テオは私の部屋を見張ると言っていたので、私はテオを部屋に招き入れた。


「眠れませんか?」

テオは寝台の横の椅子に腰掛け私にそう尋ねた。


「うん……。ここまでの悪意を向けられた事は初めてだから。ちょっとね」


はっきりと殺意を向けられたのは初めてだ。

すると、テオは


「俺……私がここに着いて直ぐ、火の手が上がる家の中にステラ様が居ると聞いて……血の気が失せました。護衛達が家の中に入ろうとしていましたが、火の回りが早くて、家の入口付近が崩れて……。水を汲んで来るのにも距離があって。家の裏に回ったら大きな木があったんで、気づいたら夢中で登っていました」


「テオが木登りが得意なんて知らなかったわ」


「店が終わっても家に帰るのが嫌で、そんな時には木に登って、日が沈むのを見てたんです」


子どもの頃の話をするテオはいつも少し寂しそうだ。


「そうだ。私、まだテオにお礼を言ってなかったわね。私を助けてくれてありがとう。貴方のお陰でこうして元気だわ」

と私が微笑むと、テオは


「貴女を失う事にならず本当に良かった」

と私の包帯をしていない方の手をそっと握る。

その手は少しだけ震えていた。



「テオ……私、歩けるわ」


「ダメですよ。足の裏を怪我しているんですから。抱っこが良いですか?おんぶが良いですか?」

と言うテオに私はため息をついた。


昨日の火事で木に飛び移った時、雨で滑って室内履きが脱げた拍子に木の表面で足の裏を怪我したのだが、かすり傷だ。

抱っこもおんぶも大袈裟でしかないのだが、テオは譲ってくれない。その上、護衛が『私が……』と言うのも全て断って自らが私を馬車まで連れて行くと言って譲らない。


テオは眼鏡が壊れたせいで、必死に前髪を伸ばして目を隠しているのだが、昨晩テオの瞳を見た護衛達は、ざわついていた。領地に到着したのが日が落ちた後だったので、他の者にはあまり見られていないようだが……テオの正体がバレるのは時間の問題の様に思える。

私は十八になる前に養子に出来ないか王都に帰って陛下に掛け合うつもりでいた。


「でも……」

と渋る私に、テオは呆れた様な顔をして


「往生際が悪いですね」

と言って私をさっと横抱きにすると、有無を言わせず馬車へと押し込んだ。

隣にテオが座り、向かいにはギルバートとソニアが座る。


怪我をした護衛は寮に残って貰い、無事な者だけ馬で付いてきていた。


「替えの馬車が直ぐに見つかって良かったですね」

と言うソニアに、


「馬車が用意出来なかったら、私が馬に一緒に乗せて移動しようと思ってました」

とテオがサラッと言った。


「テオって馬に乗れたのね」

と言う私に、


「一応。久しぶりだったんでどうかな?って思ったんですけど、必死だったんで」

と少しテオは照れた様に言った。


昨日、私を失わなくて良かったと少し震えていたテオを思い出す。

こんなにも私の事を心配してくれていたのだと分かって、素直に嬉しかった。


私達は鉱山には行かず、結局泊まる予定だった宿屋へと移動する事になった。当初の予定とは随分とかけ離れてしまったが、予想外の事が起きてしまったので仕方ない。

ゆっくりとテオの話を聞くには、それがベストだという結論になったのだ。


宿屋に着いて、改めて私とテオ、ギルバート、ソニアで話を聞くために、人払いをする。

まさかここにまで共犯者が居るとは思えないが、念の為だ。


そしてテオは今回の件について順を追って話し始めた。


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