宴席に赴いてみれば、
そこではあぶり肉が
実地で振る舞われていた。
顧栄もそのあぶり肉を貰いに行く。
すると、あぶっている人が
もの欲しそうに見ているではないか。
「私はいい。
これは、君が食べなさい」
そう言って顧栄、
あぶっている人にその肉を与えた。
この振る舞いに、
同席している人は大爆笑。
下人なんぞに何をしているのか、
と言う訳だ。
しかし顧栄は平然と返す。
「かれは、自分がどんな肉を
あぶっているのか
理解しているのだろう。
これだけの上等な肉を、
日がな一日あぶるのだ。
かれとて、そのご相伴にあずかっても
良いのではないかね?」
さて、後日。中原の争乱に伴い、
顧栄も江南に引き返すことにした。
道中、様々な危地に巡り合ったが、
側仕えが決死の体で顧栄を守ったため、
無事、顧栄は故郷に帰ることができた。
そう、あの肉をあぶっていた人。
かれがその側仕えだったのです。
顧榮在洛陽,嘗應人請,覺行炙人有欲炙之色,因輟己施焉。同坐嗤之。榮曰:「豈有終日執之,而不知其味者乎?」後遭亂渡江,每經危急,常有一人左右已,問其所以,乃受炙人也。
顧榮の洛陽に在るに、嘗て人の請うに應ず。炙を行う人に炙を欲せるの色有すを覺り、因りて己は輟め施す。同坐は之を嗤う。榮は曰く:「豈に終日にして之を執りたるに、其の味を知らざる者有らんや?」と。後に亂に遭いて江を渡れるに、危急を經るごと、常に一なる人、左右に有り。已にして其の所以を問わば、乃ち炙を受けたる人なり。
(德行25)
顧栄