桓家は没落し、とても貧乏であった。
博打に手を出してみれば大負け、
胴元からの督促が苛烈なものとなる。
どうにかしたいと思ったが、
無い袖は振れない。
遂に桓温さま、
袁耽と言えばあらゆる方面に
その才を発揮している超人。
とは言えこの時喪に服していたので、
桓温さま、袁耽に断られるのでは、と
ひやひやしていた。
が、実際に頼んでみれば、あっさり承諾。
しかも嫌な顔一つしない。
言うだけ言ってみるもんだ。
喪服を脱ぎ、喪中の帽子も懐に。
桓温さまに連れられ、
胴元のところにやってくる。
袁耽を前に、胴元は言う。
「へっへ、俺に勝ちたきゃ
袁耽でも連れて来いってんだ」
しむらー逃げてー!
さて勝負がはじまりゃ、当の袁耽さん、
その博才を思う存分に発揮する。
元手の十万銭があっという間に数百万銭。
金代わりのチップをぶちまけつつ、
「おらあ、どうじゃボケぇ!」
とイキるイキる。
ばっ、バカな、袁耽と言えば
今喪中じゃなかったのかよ、
ビビる胴元に、袁耽、懐から
喪帽を取り出し、投げつけた。
「おい、袁耽の博打がどんなもんか、
骨身に染みたか?」
桓宣武少、家貧、戲大輸、債主敦求甚切。思自振之方、莫知所出。陳郡袁躭、俊邁多能。宣武欲求救於躭。躭時居艱、恐致疑、試以告焉。應聲便許、略無嫌吝。遂變服懷布帽、隨溫去、與債主戲。躭素有蓺名、債主就局曰:「汝故當不辦作袁彥道邪?」遂共戲、十萬一擲、直上百萬。數投馬絕叫、傍若無人。探布帽擲對人曰:「汝竟識袁彥道不?」
桓宣武の少きに、家は貧し。戲せるに大いに輸け、債主の敦求せること甚だ切なり。自ら振うの方を思えど、出ずる所を知る莫し。陳郡の袁躭は俊邁にして多能、宣武は躭に救いを求めんと欲す。躭は時に艱に居り、疑を致さんとを恐る。試みに以て告ぐれば、聲に應じて便ち許し、略ぼ嫌吝せる無し。遂に服を變え布帽を懷き、溫に隨って去き、債主と戲す。躭は素より蓺に名有り。債主は局に就きて曰く「汝、故より當に袁彥道を作さるを辦ぜざらんか?」と。遂に共に戲し、十萬を一擲にして直ちに百萬數に上る。馬を投じて絕叫せるに、傍らに人無きが若し。布帽を探りて對せる人に擲ちて曰く「汝、竟には袁彥道を識れるや不や?」と。
(任誕34)
袁耽
だいぶ太く短い人生を生きた人。享年25。