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桓温37 遷都建議

桓温かんおんさまが二度目の北伐により、

洛陽らくよう奪還の偉業をなした直後のこと。


桓温さまは主張する。

「我らの都」を奪還したのであるから、

都を洛陽に遷すべきである、と。

これによって中原に拠点を築き、

五胡勢力を駆逐せん、というのだ。


だが、この主張に孫綽そんしゃくが反論。


元帝げんてい陛下が即位なされ、

 現在の繁栄をもたらしたのは、

 長江ちょうこうの天険により、

 守りを固められたがため。


 もし長江なくば、この建康けんこう周辺とて

 胡賊どもの馬に蹂躙され、

 荒廃とさせられていたことでしょう。


 我々と胡賊との武力には、

 根本的な差があります。

 我々がいつまでも洛陽を

 保持できるとも思えません。


 ともなれば、桓公の遷都建議は

 みすみすこちらから滅びに行く

 ようなものである、と申せましょう」


皇帝に奏上されたその内容は、

実に理路整然としたものであった。


内容そのものには桓温さまも、

うぬぬ、と唸るしかない。

だが、反論されたことはムカつく。


てめえこの俺様に反論するとは何様だ、

そんな感じの書状を使者に持たせた。


そこには、こうある。


「お前、自作で隠遁したいって

 言ってたじゃねえか。

 なんで今頃になって国のことに

 口出ししてきてんだ?」




桓公欲遷都、以張拓定之業。孫長樂上表諫此議、甚有理。桓見表、心服而忿其為異。令人致意孫云:「君何不尋遂初賦而彊知人家國事?」


桓公は都を遷さんと欲し、以て拓定の業を張らんとす。孫長樂は上表して此を諫ず。議せるに甚だ理有り。桓は表を見て心服せど、其の異を為せるに忿る。人に令し孫に意を致しめて云えらく「君は何ぞ遂初の賦を尋がずして、彊いて人の家國の事を知るや?」と。


(輕詆16)




孫綽さんの遷都反対の上表文は


 中宗龍飛,實賴萬里長江,畫而守之耳。

 不然,胡馬久已踐建康之地,

 江東為豺狼之場矣。


と言うものだったそうです。

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