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袁宏2  水鏡

孝武こうぶさまが孝経の勉強をする。


この講義のため、謝安しゃあん謝石しゃせきは自宅で、

仲間とともに孝経の読み合わせをした。


この読み合わせの時、車胤しゃいん

いろいろな疑問を抱くのだが、

あまり謝氏兄弟を質問攻めにするのも、と

憚り、隣にいる袁宏えんこうに打ち明ける。


「いろいろ質問をして、孝経に関する

 重要な示唆を学びたいのです。

 しかし、質問をしてしまうと、

 謝氏のお二方にご面倒を

 掛けてしまうのでは、

 と思うと、踏み出せずにおります」


すると、袁宏は答えた。


「ご遠慮なさる必要はありませんよ」


「何故、そのように

 仰れるのでしょうか?」


「鏡は世界を照らすのに

 飽きるでしょうか?

 清流がそよ風に波立たされるのを

 憚るでしょうか?

 そういうことです」




孝武將講孝經,謝公兄弟與諸人私庭講習,車武子難苦問謝,謂袁羊曰:「不問則德音有遺;多問則重勞二謝。」袁曰:「必無此嫌。」車曰:「何以知爾?」袁曰:「何嘗見明鏡疲於屢照,清流憚於惠風?」


孝武は將に孝經を講ぜんとす。謝公兄弟ら諸人と私庭にて講を習う。車武子は謝に問うに難苦し、袁羊に曰く「問わざれば、則ち德音に遺らす多く有り。問わば、則ち二謝に勞を重めさしむ」と。袁は曰く「必ずや此れを嫌う無からじ」と。車は曰く「何をか以て爾れを知らんか?」と。袁は曰く「何ぞ嘗て明鏡の屢ば照らすに疲れ、清流の惠風を憚るを見んや」と。


(言語90)




謝石

謝安さまの弟。当代のトップ風流人と言ういで立ちだが、淝水ひすいの戦いの大将軍の一人としても出陣してるんだよなあ。この人があんまり目立ってないのもったいないよね。というかこの人については大好きな逸話がある。桓温かんおんの弟、桓豁かんかつが「前秦ぜんしん苻堅ふけんを倒すのは諱に石がついた奴だ!」って予言を聞いて、二十人からなる息子全員に「石」字を入れた。が、実際に淝水で苻堅を破ったのは謝石でした、というもの。桓豁死後の話なのがまだよかったね、と言う。存命中なら桓豁さんちへど吐いて死ぬがな。


車胤

微賤の出。しかし「蛍の光」の語源ともなったレベルの猛勉強(蛍を集めて明りの代わりとした)を経て、当代トップレベルの文人の勉強会に参加するにまで至った。そう言う背景を踏まえると、二謝に質問しまくりたい、と言う車胤の気持ちがすっごくいじらしくて良い。ただ、その人生はあまり幸せなものでもない。謝安死後、宮中を専横する司馬元顕しばげんけんを告発しようとして失敗、自殺に追い込まれるのだ。


袁宏

初登場は曹操そうそう12。まーちょっと覚えてるのきついっすよね。ちなみに改めて調べたらこの人は三国志での名臣二十選というのをやっていた。おもしろかったのでのせておくね。


魏 荀彧じゅんいく荀攸じゅんゆう袁渙えんかん崔琰さいえん徐邈じょぼう

  陳羣ちんぐん夏侯玄かこうげん王経おうけい陳泰ちんたい

蜀 諸葛亮しょかつりょう龐統ほうとう蒋琬しょうえん黄権こうけん

呉 周瑜しゅうゆ張昭ちょうしょう魯粛ろしゅく諸葛瑾しょかつきん

  陸遜りくそん顧雍こよう虞翻ぐほん


自分は袁渙、徐邈、王経辺りの認識が薄かった。これ三国志に詳しい人が見たらどんな印象になるのかしら。

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