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第17話 底辺回復術師のおっさん、バグってうっかり最凶になる 其の四

 右手の霊子結晶を起動し、ステータスを開いてみると、『禁術師 レベル1』という項目が一番上に見えた。


 オレとレラは顔を見合わせると、同じ方向に首を傾げた。


「禁術師なんてクラス、聞いたこともないぞ? レラはなにか知っているか?」


「いいや、ボクも分かんにゃいよ? ていうか、ボク、ハンターにどんなクラスがあるのかも全部把握しきれていないからにゃあ」


 何故、そこで口調が猫言葉になるのかという疑問はさておき、オレよりも格上のハンターであろう、レラですら知らないのであれば、恐らく、これは隠しクラスの可能性が高くなった。


 ハンターには通常クラスの他に、様々な隠しクラスが存在している。と言っても、誰しもが隠しクラスを手に入れられるわけではない。現在、隠しクラスを所持しているハンターは世界中でもごくわずかである。その理由として、隠しクラスはS級ハンターしか所持していないからだ。


 世界的にも有名な日本最大の規模を誇る『神威ギルド』には六人ものS級ハンターが在籍している。そこには日本に存在するS級ハンターの約半数が神威ギルドに所属しており、日本国内では最強の名を欲しいままにしていた。


 S級ハンターは今では国宝指定されるほどの存在であった。それは一言で『最強』の二文字で表現することが出来た。


 世界中から見てもA級までのハンターの数は多く見られるが、S級ハンターの総数はほんの一握りだ。


 今や国家間の力はS級ハンターが握っていると言っても過言ではない。過去には核の保有数が国家の力の象徴であったが、魔王門ゲートの出現以来、S級ハンターは核兵器を凌駕する力の象徴になっていた。ゲートブレイクを防ぐことが出来るのはハンターだけであったのだから、そうなったのはある意味必然だっただろう。


 そして、下位ハンターと比べてS級ハンターが最強と謳われる所以は、ひとえに彼等しか所持していない隠しクラスによるところが大きかった。


 例を挙げると、日本最強のハンターと呼ばれる『林崎 蒼真』は世界唯一の『勇者』の隠しクラス所持者である。

 その他にも『竜姫』は拳闘士の究極到達点である『拳皇』の隠しクラス所持者であるし、『桜花』は剣士クラスの究極到達点である『剣聖』の隠しクラス所持者である。


 つまり、S級ハンターになるには隠しクラスを手に入れることが必須条件なのだ。いや、それは必須条件ではなく必然であろう。ハンターを極める過程で自ずと隠しクラスに覚醒してしまうのだからだ。


 隠しクラスの出現方法やその種類は未だに全て確認されていない。そして、ここ五年間は新たな隠しクラスが出現したというニュースは聞いたことが無い。新たな隠しクラスが出現するということは、それは同時に新たなるS級ハンターが誕生することも意味するのだから、その時は世界的大ニュースとして大騒ぎになるのは確実だった。


 ということは、禁術師とかいう隠しクラスを手に入れたオレも、今日からS級ハンターになったってことなのかな?


 隠しクラスの所持者=S級ハンターという公式が当てはまれば、の話ではあるが。


「まあいい。ここでうだうだ考えているよりも、禁術師がどんなものか見てみよう」


 ステータス画面を見ると、『禁術師 レベル1』の項目の下にスキル一覧表があることに気付いた。この辺は普通のステータス画面と同じだった。恐らく、スキル名をタップすると、スキルの詳細が記されたウインドウが出現するはずだ。


 どれどれ、どんなスキルがあるんだろうか? 禁術師というんだから、相当凄いスキルがあるに違いない。不安より好奇心が上回り、期待のあまり動悸が少し荒くなるのが分かった。


 そんなことを考えながら、一番上のスキルに目をやる。


『1、神々の黄昏ラグナロク


「ラグナロクだって? おいおい、何だか物騒な名前のスキルだな」


「ねえ、師匠? ラグナロクってどゆ意味なん?」レラは目を点にしながら、頭の上に沢山の疑問符を浮かべていた。言葉の意味をこれっぽっちも理解していない様子だった。


「簡単に言えば世界の終わりっていう意味かな?」レラに説明しながら、改めて物騒な名前のスキルだと思い、思わず顔を引くつかせてしまった。


「それって、どんなスキルなの? まさか発動したら世界が滅ぶとか、そういうんじゃないよね?」


「はは、まさか。いくら隠しクラスとはいえ、そんな魔王みたいなスキルを人間如きが扱えるわけがないだろう?」


 オレがスキル名をタップするとウインドウが出現した。中を覗き込むと、予想通り、そこにはスキルの詳細が記されていた。


神々の黄昏ラグナロク→このスキルを発動すると、異世界より神の軍勢を召喚し、召喚者の支配下に置くことが可能になります。ただし、神の軍団は貪欲に人間の魂を要求するため、悪魔の軍団と戦う度に大量の生贄が必要になります。一回の戦闘につき、百万人分の生贄をご用意ください。生贄にする知的生命体は人間に限らせていただきます』


 スキルの説明書きを読んだ後、オレは理解が追い付かず、笑顔のままフリーズ状態になった。


 スキルを使用する度に生贄が必要だと? しかも一回使う度に百万人の生贄が必要って、頭がおかしいんじゃないだろうか?


「うーん、よく分からないけれども、とにかく、このスキルだけは使ってはいけないってことだけは理解出来たぞ」見なかったことにしてウィンドウを閉じた。


「ねえ師匠? まさか、このスキル、使わないよね?」レラは怯えた様子で、不安げにオレの顔を覗き込んで来た。


「いやいや、流石に使うわけないだろ!? 一回スキルを使用するだけで百万人の生贄が必要って、意味が分からないぜ」オレは慌ててそれを否定した。もし、このスキルの内容が本当だと仮定したならば、それを躊躇なく使用するのは狂人か独裁者のどちらかだろう。いや、両者は同じ意味を持つ存在なのかもしれないな。


「だよね。師匠、ごめんなさい。変なことを聞いちゃって」オレの言葉を聞き、ホッと安堵の息を吐いた。


「い、いや。気持ちは分かるよ。オレが同じ立場だったら、多分、同じ質問をぶつけただろうからな」ははは、と上擦った笑いを上げた。


 すると、オレたちは無言のまま、ステータス画面から視線を逸らす様に顔を俯かせた。何とも言えない重たい空気が漂っていた。今となってはレラにもステータス画面を見せたことを後悔していた。これは誰にも知らせず、オレだけの秘密にすべきだったのだ。


「そ、それじゃ、次、行くか。レラ、嫌になったら外で休憩していてもいいんだぞ?」


「いや、大丈夫。このまま見せてください。今のはちょっと驚いちゃっただけだから」双眸に不安な色を浮かべながらも、レラは勇気を振り絞る様にステータス画面に目をやった。


「なら、行くぞ。なになに? これは……!?」


 二番目に記されたスキル名を見て、オレは瞬時に言葉を失った。


 ラグナロクのスキルを見た時とは真逆の感情が心の底から湧き上がってきたのだ。


 見ると、レラも驚愕のあまり顔を強張らせ、オレと同様に言葉を失っているみたいだ。身体は歓喜に打ち震え、瞳は大きく見開かれていた。


 これを見たら、ハンターでなくとも誰しもが驚愕することだろう。レラの反応はもっともだった。


『2、死者蘇生魔法』


 それは、有史以前より全人類が求めてやまない究極の奇跡のスキルであった。


 オレの胸の動悸は治まるどころか、段々と激しさを増していった。

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