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第5話 八雲の創造

―――ベッドで二人、横になっている八雲とノワール。


Level.100を目指す決心をした八雲に、ノワールはご褒美と称して、その見事なプロポーションの身体を八雲に押し付けている。


「おお、何これ天国?柔らかい」


押し付けられた柔らかな胸がムニュリ♪ と変形していて、それがワザとだということは八雲にも察しがついていた。


「ふふっ♪ 喜んでもらえて嬉しいぞ。だが、まだまだ、これからだぞ♡ ほれっ♪ 好きなだけ我の胸を触っていいのだぞ♪」


「えっ?マジ!?―――モミをムネムネしていいのか!?」


「おい、落ち着け。言っていることが何かおかしいぞ?」


しかし、興奮した八雲はそんなノワールを抱き起して自らのベッドに向かい合って座らせると―――


「八雲!―――いきまーすっ!!」


―――気合いを入れて両手をノワールのたわわな胸へと一直線に伸ばした。


「―――あんっ♡!/////」


美しい曲線を描く胸に、ピッタリと貼り付いたレースクイーンのようなスーツの上から両手を当てた瞬間―――


「うわっ?!指が沈み込んでいく……」


―――鷲掴みにしたノワールの胸に沈み込む八雲の指達を眺めて感動する八雲。


その手をゆっくりと動かし始めると、ノワールからけしからん声が漏れ出す―――


「あっ、んんっ、あんっ!/////」


―――そんな巨乳の感触に安心感と至福を同時に感じた八雲は、


堪能したまま睡魔に襲われていき、やがて疲れを癒すように再び眠りにつくのだった―――






―――ノワールの胸のおかげで心地の良い眠りについていた八雲は二時間ほど眠って再びゆっくりと目を覚ました。


ほぼ同時に同じベッドで眠っていたらしきノワールもやがて目を覚ます。


何となくお互い照れ臭い気持ちに飲まれていたが、八雲は気持ちを切り換えるため、


「よし!それじゃノワール、加護の『創造』で武器を造ってみたいから、素材があるところに案内してくれるか?」


「う、うむ!そうだな!では城の工房に向かうとしよう/////」


まだ少し照れているノワールだったが、ここは話題を変えて話を進めようと考える八雲は先ほどの「工房」という言葉に引かれた。


「―――この城、工房なんてあるのか?」


「ああ、もちろんあるぞ。そこに金属の素材なんかも置いてある。お前の練習にも丁度いいだろう」


身なりを整えて、部屋を出てからそのまま中央の城を出たノワールについて行くと、城を出てすぐのところにある別の建物に向かい、その中には工房と呼ばれるだけのことはあって、職人気質な装備のハンマーやバールのような物を腰のベルトに差し込んだ人々が八雲の目に入る。


背は低く筋肉はガッチリムキムキの体格をした種族、八雲は頭の中でおそらくドワーフと呼ばれる種族ではないか?と思ったが、その職人達が八雲とノワールに視線を向けだした。


「おお!ノワール様!それと、そっちの兄さんが御子様ですかい?」


髭面のドワーフの一人が八雲を見ながらノワールに大きな声で問い掛けた。


「うむ。我の御子となった八雲だ。皆これからよろしく頼むぞ」


おお!!!と、ほぼドワーフ全員が一斉に返事するところを見ると、ノワールはドワーフ達に敬意を持たれていることは八雲の目にも一目瞭然だった。


「それで、シュティーアはどこにいる?」


「姐さんなら、工房の奥で叩いてますぜ」


聞いたことのない新しい名前がノワールの口から飛び出して、八雲はまた龍の牙ドラゴン・ファングの誰かなのか?と予想する。


「そうか。邪魔するぞ」


そう応えてノワールは工房の奥へと進んでいく。


勝手のわからない八雲は黙ってノワールの背中について行くしかなかった。


数十人ほどいるドワーフの間をすり抜けて、建物の奥にどんどん進んでいくとカァン!カァン!カァンッ!と一定のリズムで金属の打ち合う音が耳に入って来た。


「邪魔するぞシュティーア」


奥の廊下を曲がると広い部屋に繋がり、シュティーアと呼ばれた女性が目にしていたゴーグルをクイッと頭の上に持っていった。


「これはノワール様!こんな暑苦しいところに態々いらっしゃらなくても、お呼び頂けたら、こちらから伺いましたよ?」


アリエス達と同じメイド服を着ているが、腰には三本のベルトが巻き付いていて、それぞれに何かしら使うのだろうハンマーなどの工具が刺さっている女がそこにはいた。


手には分厚い革製の手袋、頭にはホワイトブリムにさっきのゴーグルを上にずらして額に乗せている赤い瞳に赤い髪をポニテ―ルに纏めた身長はノワールより少し高めの美女がノワールに気をつかった言葉を投げ掛ける。


「いや今日はこの八雲を紹介するのと、八雲の加護『創造』の力で自分用の武器を造らせてやろうと思ってな。お前に色々と面倒を見てほしいんだ」


「八雲……様の加護ですか?!『創造』なんて加護を持っている人間がいるんですねぇ。初めて聞きました」


そこで初めて八雲も挨拶を交わす。


「初めまして。九頭竜八雲だ。あ、八雲が名前だ。よろしく」


「初めまして。アタイはシュティーアだ。左の牙レフト・ファングの序列4位だよ。ここの工房をノワール様から任されて統括してるんだ。武器や防具のことなら何でも訊いてくれて構わないよ!」


気さくな性格がわかる言葉使いで、そういって手袋を外して八雲に握手を求めたシュティーアだったが、慌ててその手を引っ込めてしまう。


「どうした?」


握手しようと手を伸ばしかけていた八雲が尋ねると、


「いやさ、アタイの手、鍛冶で豆とかいっぱいでゴツゴツしてるからさ、御子様に……失礼だろ?」


と言って恥ずかしそうにしているシュティーアに八雲はそのまま前に出て、そっとその手を取って握り締めた。


突然、引っ込めた手を握りしめられて、シュティーアは驚いた顔をする。


「この手は鍛冶師としてお前が頑張った証しだろう?だったら恥ずかしいなんて思うな。俺はこの手を馬鹿にしたりしないし、むしろ尊敬する」


「八雲様……」


俺の言葉にシュティーアは一瞬クシャっとなった顔を、すぐに笑顔を戻して、そんな二人の様子にノワールはコホン!とひとつ咳払いいをすると、


「こういうヤツだから、心配無用だシュティーア。それじゃあ八雲の『創造』の練習を始めたいのだが?」


「あ、はい!ええっと、それじゃまずは素材ですよね?」


手を慌てて離したシュティーアは、手をワタワタとしながら部屋の中を見回していた。


「あ、あったあった!まずはこれで試すっていうのはどうでしょう?」


「これは、鉄の玉鋼か?」


ノワールの見立てにシュティーアが頷いて応える。


「はい、『創造』という加護にどのくらいの加工する能力があるのかわかりませんから、まずはこれで加工が出来るか見てから、今後のことを考えた方がいいでしょう」


「なるほど……て言っても、この『創造』て加護をどう発動したらいいのかもわからないんだよなぁ……」


「そのための練習だろう。まずはそれで作りたいものを思い浮かべてみろ。反応するかどうか試してみないとな」


ノワールに促されてシュティーアから玉鋼を受け取り、ジッとそれを見つめながら、これで作れそうな武器を思い浮かべる。


日本人として、道場の孫としては、やはり思い浮かぶのは日本刀だった。


実家の道場では祖父が国の許可を取って所有していた日本刀を何度も見せてもらい、手入れもしたことがある八雲は、きちんとした手入れの仕方まで教え込まれていたこともあって、その刀身については隅から隅まで想像が出来た。




すると―――八雲の掌の玉鋼が光に包まれた。


そして―――輝いたと思った瞬間、みるみると形が伸びる。


さらに―――反りが入って瞬く間に八雲が想像した通りの日本刀が、そこに出来上がった。




鏡の様に美しい刀身に入った波打つ刃紋、八雲はそのまま刃を上にして掌に乗せ、真っ直ぐ出来ているかをその目で確認する。


手で握る部分が剥き出しの刀身の状態だったので、


「柄と鍔は別で作らないとダメか……」


そう言って八雲が軽く日本刀をビュン!と振っていると、それまで目を点にして『創造』の加護の力を目の当りにしていたノワールとシュティーアは―――突然大声を挙げて再起動する。


「―――何なのだ今のは!!」


「―――何ですか今のは!!」


「―――うおっ?!何?なんだ?どうかしたのか?」


大声に驚いた八雲だったが、


「どうしていきなり剣になった?普通は玉鋼を叩いて伸ばして剣にするだろ!」


「そうだよ!そんなやり方で武器作られたら、アタイらの存在意義がなくなるだろ!」


と、完全にアウェイに立たされた八雲だったが、


「神のご加護なんだろ、知らんけど……」


そう応えるしかなかった―――そもそも神の加護に理屈をつけようとすること自体、無理な話というものだ。


「はぁ……しかし、それは随分と細い剣だな。見た目は美しいが、そんなに細いと鎧なんかにぶつかったら、へし折れるだろう」


「確かに見た目は美しいですねぇ。武器というより儀礼用の剣?みたいな芸術的な要素を感じますね……」


ノワールとシュティーアの反応に八雲は日本の刀について、その造りから戦闘時の使用方法、完成した姿は鍔や鞘、柄が付くことを説明した。


「はぁ~刀、ですか。あ、だったら鞘の素材や鍔の素材なんかがあれば完成するの?」


「そうだな。たぶん出来ると思うけど―――」


―――八雲が言い切る前にシュティーアは高速で姿を掻き消して、様々な素材を持って再び現れる。


八雲は突然姿を消して目にも止まらぬ動きをするあたり……流石ノワールの竜の牙ドラゴン・ファングの一員だな……とひとり強引に納得した。


「この素材を使って、完成品を見せてもらいたいんだけど!いいかな?」


鍛冶師の魂に火が着いたのかシュティーアは鼻息が荒く、そして八雲自身もまたこうして日本の造形に触れて懐かしく感じながら、シュティーアのその気持ちは伝わってきていたので彼女が持ってきた素材を色々吟味して、白い鞘、銀の鍔、白に揃えた柄まで全て『創造』した。


初めに思っていたよりもあっさり、簡単に『創造』できることに驚きながら、八雲はそれぞれ必要な細かいものまで造っていく。


そうして出来上がった完成品の刀を見て、シュティーアは「ほおお~」と感心した声を上げて感動していた。


だが―――刀は斬れ味を試してなんぼだ。


八雲はシュティーアにいらない鎧を用意してもらって、人型に着せて人を模した兜と鎧の前に立つ。


「え?まさか、ちょっとその刀で―――」


シュティーアの声を最後まで聞かず、


「―――ふんっ!!」


居合いの構えから抜いた刀で鎧の胴を横薙ぎに斬り飛ばして、さらに空中に浮いた上半身部分を兜から真っ二つに斬り裂いた八雲。


「……」


ノワールもシュティーアも声一つ上げることが出来ず、斬り裂かれて崩れ落ちた鎧を見つめていた。


「ふむ……どうやら刃こぼれはしてないみたいだな。いい出来みたいだ」


掌に刀身を乗せ、刃を上にして確認した刀には刃こぼれ一つしていなかった。


「ウオオオオオッ!!スゲェーーーーー!!!」


突然の大声に、振り返れば向こうの工房にいたドワーフ達が、群がるようにして覗き込んでいた。


「御子様!その剣、どうやって作ったんです!?」


「御子様!それの素材は何なんです?まさか、オリハルコン……」


「バカ野郎!!あの斬れ味はきっと―――」


「―――いや、只の鉄だけど?」


「……」


八雲の何気ない返事にドワーフ軍団はピタリと静かになって、直後に、


「ウホオオオオオッ!!!マジですかい!?鉄?ただの?スゲエエエエッ!!!」


と、皆お祭り騒ぎに雄叫びを上げだした。


「こら!お前達、ノワール様と御子様の前で行儀が悪いぞっ!!」


シュティーアが慌てて制止しようとするが、ドワーフ達の興奮はなかなか収まらない。


「よいよい。我も目の前で起こったことに目玉が飛び出すほどの驚きだったからな。ドワーフどもが興奮するのも仕方あるまい」


ノワールはクックッと笑いを溢しながらドワーフ達の興奮振りを面白がっている。


八雲はその手の刀をスッとシュティーアに向けて差し出す。


「よかったらこれ、ここの工房にあげるよ。思ったよりいい出来だったし、俺の国の鍛冶師たちは工房に御神刀として刀を祀る風習があるんだ。よかったら飾ってくれ」


八雲の差し出す刀をおどおどとして両手で受け取ったシュティーア。


「い、いいのかい?こんなすごい武器を貰っても?」


「もちろん。でも代わりに強力な武器を造れそうな素材を分けてもらえると嬉しい」


八雲の返事にシュティーアはニコリと笑みを浮かべながら―――


「ここはノワール様の工房だよ!だったらここにある素材だって、その御子の八雲様のものだから!こんな立派な刀を貰ったんだ!何でも用意するよ!」


―――興奮しつつも、しっかりとそう応えた。


「あ、そうだ!ノワール様、八雲様ならノワール様のアレを加工出来るんじゃないですか?」


「ん?ああ―――アレか。確かに。八雲の『創造』なら可能かも知れん。よし、すぐに用意しよう」


八雲は蚊帳の外で、ノワールとシュティーアが何やら楽しそうに……いや何か悪巧みする子供のようにニヤニヤとして話し合っていた。


「なんだ?内緒話かよ?」


そう訊ねる八雲に二人はますますニヤニヤ顔をしながら、


「いやそうではないよ。実はシュティーアでも加工するのが無理な素材があってな。だがお前の加護なら、その素材も容易く加工出来るのではないかと、そう話していたのだ」


「へえぇ、そんな素材があるのか?」


八雲は俄然その素材に興味が湧いた。


「ああ、ちょっと待てよ」


そう言うとノワールは空間に穴のようなモノを形成して、その穴に手を突っ込むと何か大きな物を引っ張り出してきた。


「んしょ!―――これだ!」


可愛い掛け声とは裏腹に、その床にドオオーン!と重量感抜群の音を響かせ、立てて置かれたのは真っ黒で畳二畳くらいの面積がある、分厚い鉄板のような物質だった。


「おお?何なんだ、これは?」


「うん、我の鱗だ!」


「え?ノワールの鱗って……黒神龍の鱗ってことか?」


「ああ、そうだ。我の本体の身体を覆っている世界一硬い鱗だ。だが、世界一硬いが故にシュティーアであっても加工出来なかったのだ。だが、神の加護をもった八雲なら、我の鱗でも武器や他の道具にも加工できるんじゃないか?」


なるほど確かにこれは強力な武器を造るには最高の素材だが、問題は八雲の加護で世界最硬のノワールの鱗が加工出来るかどうか、という点がポイントだった。


「まぁ、物は試しだ。やってみる価値はあるな」


そう言いながら床に突き刺して独立した黒神龍の鱗に向かい合って、そっと手を伸ばした八雲は先ほどの刀と同じく、鱗を刀に加工するイメージを浮かべる。


すると鉄の玉鋼の時のように、鱗全体が光に包まれて、徐々にではあるが加工が始まった。


だが、さきほどの玉鋼の時とは違って、八雲はこの鱗に対して、


―――この大きなサイズの鱗を、とにかく圧縮して集中させるイメージを伝える。


―――そうして玉鋼ほどではないが、それに近いくらいに圧縮された鱗の玉鋼と言える物質が完成する。


―――次に今度は鱗の玉鋼を、さきほどと同じ工程で刀の形に仕上げていく。


鉄の玉鋼の時と違って精神的に集中しているせいか、その疲労感がかなり襲ってきた。


―――圧縮して、圧縮して、より硬く、より強く、そしてしなやかな刀身に……


ノワールにシュティーア、工房のドワーフ達も皆、固唾を飲んで黙ってその光景を見つめている。


考え得る全ての希望を吹き込むような思いで、八雲は遂に刀身の形に仕上がったそれを手に取って、目の前に掲げてみる。


まるでクロムメッキのような黒い鏡面仕上げの刀身に薄っすらと浮かぶ刃紋。


さきほどの刀よりも、畳二畳分あった鱗を圧縮しているため、かなり重量があるが、Levelの上がった八雲にとっては片手で振っても、とくに問題はない。


八雲はさっき刀で造った時と同じく、残っていた素材で鞘、鍔、柄を『創造』して取り付け、黒き刀はここに誕生した。


「ウオオオオォ―――!!!」


工房のドワーフ達はまたもお祭り騒ぎで八雲達の前で奇声を上げ捲っていたが、今まで工房を任されているシュティーアでも加工出来なかった黒神龍の鱗が、目の前で武器に形成されたことに歓喜せずにはいられないのだろう。


「凄い……本当にノワール様の鱗を……」


シュティーアも感動しているようだったが、八雲からすると『神の加護』という、いうなればチート能力の力なのでドワーフ達がいうほど凄いわけじゃないと自分を戒める。


「さて、それじゃ試し斬りするか?」


ノワールが自分の鱗で造られた刀の斬れ味を早速試してみて欲しそうで、ソワソワしだした。


きっと尻尾でもあれば期待でフリフリしていそうなくらいニマニマした表情をしてソワソワしているノワールと、同じような雰囲気を醸し出しているシュティーアを見て、八雲は吹き出しそうなのを我慢しながら、


「それじゃ、早速試し斬りといきますか」


笑顔でそう応えていた―――



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