どうも、メガネです。
自前の寝間着を見られたくなくて、黒ジャージで寝ていたメガネです。
さっき同じ部屋の人が体調不良を訴えたので、今から先生に報告に行こうとしてるところです。
(えっと、まずは
ボクは薄暗い旅館の廊下を歩いていた。
正直、岩田先生に良いイメージはありません。
あの時、とても強引に席替えさせられたことを忘れていません。
(確かJ部屋に泊まってるはずだけど……)
薄暗い廊下を進みゆく途中のことだった。
「ねえ……ワタシと遊ばない……?」
とても線の細い声で、背後から話しかけられた。
振り返ってみると、見たことのないセーラー服姿の女の子がそこに立っていた。
おかっぱで小柄なその女子は、とてもあっさりとした顔立ちだった。
薄く笑みを浮かべたまま、女子は続ける。
「キミ……もう帰れないかもね……」
クスクスと、女子は笑った。
「……あの……どちらさま――」
でしょうか、と言おうとした時、ボクは気づいてしまった。
女子の足が、透けていることに。
(えっ……これって……)
気づいたボクの表情を見てか、女子はクスッと笑った。
「ねえ……分かっちゃった……?」
ククククク……と女子は笑った。
うん……間違いない……。
幽霊だね、彼女。
うん……でも何だろう……。
「えっと、幽霊ですよね?」
「ええそうよ。驚いて声も出せないようね」
いや出してますよね。自分でもビックリするくらい冷静なんですがこっちは。
「ふふっ。さあて、どうやって恐怖のどん底に陥れようかしら」
……なんだか向こうの幽霊さん……。
ボクを怖がらせようとしてるけど……。
全然怖くないわ。
そりゃそうだよ。
フルアーマー系女子とか極悪非道六神獣及び魔王とかに会ったり課外授業撲滅委員会との銃撃戦とか経験したらそうなるわ。
幽霊なんか可愛いくらいだよ。
誰か元のボクに戻してくれませんか?
そうすりゃ空気読んで怖がるから。
ウッキウキで登場した幽霊さんの役割果たせるから。
「ククッ……恐怖で動けない人間……。なんて滑稽なのかしら」
もうノリノリだよ幽霊さん。何かを成し遂げようとしてるよ幽霊として。
「じゃあまずはファーストフード店にポテトでも買ってきてもらおうかしらね」
怖がらせ方が独特すぎない?
「まあどうせ動けないだろうけど」
ごめんなさい動けます。ラジオ体操完走できます。
「あの、サイズはSで良い?」
なに聞いてんのボクううううううううううう?
反射的にサイズの話に移行しちゃったよ。
だってたまに家族にそういうお使い任せられるんだもん。
クセになってんだ、ポテトのサイズ聞くの。
「え、ええと、やっぱりポテトはいいかな……」
ボクがあまりにも自然にサイズ聞いたせいで幽霊さんキョドった上に要求取り消したんだけど。
すみません空気読めなくて。
「ワタシ……幽霊なんだよなあ……。あっ、ヤベッ……足透けてるの見えちゃったかな~……」
露骨に幽霊アピし始めたんだけど。
分かってるから。キミが幽霊なの分かってるから。
つーかさっき幽霊ですよねって言いましたよねボク?
人の話聞かないタイプ?
「ワタシ、かなりの数の呪術師を葬ってきたんだけどな~」
呪術師?
「超Sランク的な、その……幽霊なんだけどな~。だってかなりの霊媒師……あっ、やべっ、間違えた。呪術師を葬ってきたしな~」
設定ブレブレだよ。
こんなすぐバレる嘘つく生命体人間でも見たことないよ。
「あ、じゅ、呪術師でお願いします。れれれ霊媒師は聞かなかったことにして」
テンパらせる存在であるべき幽霊がテンパってるよ。
「あらメガネくん、もう消灯時間過ぎてるわよ? どうしたの?」
と、不意に誰かが声をかけてきた。
岩田先生だった。
髪を後ろに束ねた上に旅館の浴衣姿だったので、セクシーだった。
(……げっ……)
ヤバいヤバいヤバい。
なんでこのタイミングで来ちゃうんですか岩田先生。
ややこしいこと起こるって絶対。
なんでこの学校の教員はスゲータイミングでボクと合流すんの?
え、そういう訓練でもしてます?