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第50話 人外魔境メガネ決戦②(sideM)


「あなたが規則を破るとは考えにくいけど……」


 岩田いわた先生はとても意外そうな顔で言った。


「あ、えと、その……」ボクは幽霊と岩田先生を交互に見て、「同じ部屋の人が体調不良を訴えて……」


「あら、それは大変! 今すぐ学年主任に向かわせるわね」


 岩田先生はスマホを出して、通話を始めた。


「――ああ私です。――いえ、M部屋の生徒が体調不良を」


「あのあの、ワタシ、幽霊なんですけど――」


 幽霊が口を挟むと、


「ちょっと静かにしなさい!」岩田先生は叫んだ。「今大事な話をしているところでしょう? 非常識な人ね!」


 なんかナチュラルに幽霊叱ったんだけど。つーか岩田先生こそうるせえよ。今ので何人かの宿泊者目覚めたんじゃない?


「……ごめんなさい……」


 幽霊は消え入る声で謝っていた。

 もはや幽霊が可哀想なんだけど。


「――ええ、そうです。――いえいえ、それではお願いします」


 岩田先生は通話を切った。


「安心してメガネくん。今主任が向かったから大丈夫よ」


「あ、はい……。それで、ですね……その……」


「あなたが言いたいことは分かってるわ」


 岩田先生は幽霊の方に視線を移した。


「で? なんなのこの幽霊は?」


 なんなのこの幽霊はって何?

 なんで幽霊と認識した上でこんな冷静でいられるの?

 いやまあボクも人のこと言えないけど。


「まさか降霊術でもしたんじゃないでしょうね?」


 しませんし出来るワケないですよね。そんな質問する教師地上であなたか鬼の手を宿した地獄先生くらいですよ多分。


「あの……さっき廊下で偶然会って……」


「あら。じゃあ野良の幽霊ってことね」


 野良の幽霊って何?


「それで幽霊さん。なんの用があってメガネくんの前に現れたの?」


 さっきから引っかかってるんだけどさ。

 ボクの本名メガネじゃなくて早乙女さおとめ勇気ゆうきなんですよね。


 担任の先生にこそ本名で呼んでほしいんですが。

 まあいいや今は幽霊の処理だ。


「あ、えとえと……特に用は無くて……」


 幽霊は両手の指をモジモジ絡ませながら言った。すると岩田先生は鬼の形相になって、


「用も無いのに現れたですって? いい加減にしなさい! せめて誰かを怖がらせるとかそういう目的を持ちなさい!」


 いやうるせえし言ってることメチャクチャなんですが。


「あのあの……最初は怖がらせようとしてたんですが……」


「そんなフツーの姿のアナタを見て誰が怖がるっていうの!」


 やめたげてえ。もうこれ以上の死体蹴りは(相手幽霊だけど)。


「アナタなんかより夏のボーナスの少なさの方がよっぽど怖いわよ!」


 なんの話ですか?


「幽霊なんだから、要求を受けなきゃ呪うとか言って怖がらせるとか、そういう設定で行きなさい!」


 なんのアドバイスしてるんですか岩田先生。つーかさっきからうるせえよ。スゲー響き渡ってますが。


「じゃ、じゃあ、今からワタシが食べたいモノを言うので、それ持ってこなかったら呪うっていう感じで……」


 幽霊さんが言うと、岩田先生は「ほう」と声を出した。


「なかなか良いアイディアじゃない。アナタにしては上出来よ」


「あ、ありがとうございます」


 何を見せられてるのボクは?


「で? 何を持ってこればいいのかしら?」


「えとえと、じゃあポテトで……」


「分かったわ、ジンギスカンね!」


 あなたの耳は節穴ですか?


「あのあの、ポテトを――」


「ジンギスカンね……。安心して。ちょっと用意が難しいけど、不可能ではないわよ」


 さっきからポテトっつってますよね。え、ポテトがジンギスカンに変換されるソフトでも脳に内蔵されてます?


「あの味ってクセになるわよねえ。分かるわ食べたい気持ちも」


 だからポテトですって。幽霊さん逆にジンギスカンって言ってみて、多分ポテトに変換されるから。


「じゃ、じゃあジンギスカンで……」


 よし良いぞ幽霊さん、多分ポテトに変換――


「そこまで言うなら仕方ないわね。ジンギスカン、早急に用意するわ!」


 関係ねーのかよ。えっ、じゃあ何でさっきから頑なにジンギスカンに変換?

 先生もしかして食べたかったりする?


「私の力ではどうしようもないけど、大丈夫、この学校にはあの人が居るから」


 言うと、岩田先生はスマホを取り出して通話を始めた。


「――夜分遅くに失礼します。――いえ、実はワケあってジンギスカンを用意してほしいのですが」


 ボクと幽霊さんは、岩田先生を見守る(なんだこの時間)。



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