「アナタたち、朗報よ」岩田先生はこちらを向いて、「教頭先生が用意してくれるらしいわ」
ここで教頭おおおおおおおお?
ジンギスカンも用意出来るのかよ。
マジで何なら出来ないのあの人ぉ。
「――はい、ありがとうございます! ――え? メガネくん? はい、居ますよ? なぜ分かったんですか? ――なるほど、宇宙の波動を読み取ったんですね」
何が『なるほど』なの?
ツッコミどころ多すぎて付いていけないんですが?
「――へえ、メガネくんには正体を明かしてるんですね。――ええ、出来ますよ」
岩田先生はスピーカーモードに切り替えた。すると、
『やあメガネくん、元気かね?』
教頭の声だ。
「は、はあ……まあ……。教頭先生は何してるんですか?」
『なあに、ワタシは今、北海道に来ていまして』
え、えええええええええええええええええええええ?
教頭先生マジで北海道に行ってたぁ。
ぶっ壊れたコスモレーダー頼りに極悪非道六神獣及び魔王を求めて北海道行ってたよ。
『なかなか極悪非道六神獣及び魔王は見つかりませんが』
そりゃあね。
『ですがメエーメエー安メエーメエーさメエーメエージンギスカンに関しメエーメエーてはメエーメエーご安メエーメエー心をメエーメエー』
なんかメエメエ聞こえますが?
ごめんなさい何言ってんのか分かりません。
もしかして羊の群れにでも襲われてます?
『あ、ちょっメエーメエーこちメエーメエーしばらくメエーメエー』
ここでメエーメエーと鳴き声だけが続いたのちに……。
『チュドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!』
大きな爆発音が、スマホから聞こえてきた。
そして、
『申し訳ありません、先ほどから雑音を届けてしまいまして。もう大丈夫ですよ』
なにやったんですか教頭?
『ご心配なく。ただ、スマホゲーム内で大量発生した羊を根絶やしにしただけです』
現実でその辺に居た羊を根絶やしにしたとしか聞こえませんが?
ボクの考えすぎですよね? そーですよね?
『丁度いい。これだけの羊の肉は現地のドワーフにも食べきれませんし』
ドワーフ?
『ですのでジンギスカンの件はご心配なく! 明日の朝までには届けますぞ!』
ではまた! と教頭は通話を切った。
ツッコミどころぶん投げて通話終わったよ。大丈夫なのこれ?
「というわけだから、幽霊さん。明日の朝には届くから安心して」
「あ、はい、えとえと、ありがとうございます」
顔が引きつってるよ幽霊さん。そりゃそうだよあんな通話聞かされたら。
『ドン! ドン! ドン!』
と、ここで廊下の先から大きな物音が。
(……な、なんだ?)
ドン! ドン! と物音を立てて、何かがこちらに近づいてくる。
明らかになったのは、なんと、信じられないことに、金剛力士像だった。
体長一八〇センチサイズになった、金剛力士像だった。
何度確認しても、金剛力士像だ。
金剛力士像が大きな足音を立てて、こちらに歩いてきているのだった。
(え、えええええええええええええええ?)
なんかもうワケ分かんねー物体来たんですけど。
岩田先生もビックリ――
「ぎゃああああああああああああああ!」
と真っ先に悲鳴を上げたのは、幽霊さんだった。
(え、ええええええええええええええ?)
おめーが驚くのカヨ。同族っぽいの見て悲鳴あげるの何なの?
もはや幽霊でも何でもないんじゃないのこの人。
「ちょっと!」岩田先生が言った。「ドンドンドンドン足跡鳴らして! 他の人の迷惑でしょ!」
いやそれ以前に問題なところありません? つーか先生が一番うるせーんだけど。
「ふっふっふっ」
と、金剛力士像は笑った。人間と同じように口を動かして。
「気の強いオナゴよのお。倒しがいがありそう――」
金剛力士像の言葉を遮るタイミングで、岩田先生は廊下に飾られた絵を手裏剣のようにして投げた。
ギュルルルルル! と回転しつつ、絵はややカーブして金剛力士像の脳天に突き刺さった。
「ぎいやああああああああああああああああああ!」
絵を頭に突き刺したまま、金剛力士像はあたふたする。
(え、えええええええええええええ?)
先生なにしてんのおおおおおおおおおおおおおお?
え、くノ一の末裔か何かですか?
「これ以上騒音を出してみなさい!」岩田先生が叫ぶ。「アナタの体を内部から引き裂くわよ!」
なにとんでもないこと言ってんですか?
つーかさっきから一番うるせえの岩田先生なんですが?
「ちょ、ちょ、あの」金剛力士像の頭には絵が突き刺さったままだ。「いや、ほらほら、オイラを見て驚くとか、ね? そういうリアクション……」
「あのね! 教師やってたら色んな生徒と出会うの! アナタ如き可愛いくらいよ!」
いや多分岩田先生くらいですよ。金剛力士像見て怯まず先制攻撃すんの。
あとマジでうるさいんだけど岩田先生。もうちょっと声のボリューム落としてくんない。みんな目覚めるから。