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第52話 人外魔境メガネ決戦④(sideM)


「ぐぐぐ……さっきから下手になってるからって調子に乗って……」


 金剛力士像は怒り心頭といった感じだ。


「こうなったら金剛力士クロスレーザーをお見舞いしてやる!」


 なんですかそれは?


「くらええええええええええええええええ!」


 金剛力士像の両目がピカーッと、黄色く光り始めた。

 ヤバいヤバいヤバい。

 金剛力士クロスレーザー放たれるって。

 どうすれば――


「メガネくん、今よ!」岩田いわた先生は叫んだ。


「……へ?」


「いいから私たちの前に立って!」


 金剛力士クロスレーザーを浴びろと?


「え、でも」


「大丈夫よ! 自分を信じて!」


 何を信じろと言うのですか?


「いいからほら!」


 岩田先生はソッと、ボクの背中を押した。ボクはその勢いに乗って、岩田先生と幽霊さんの前に立った。


「行っけええええええええええええええええええ!」


 金剛力士像が叫んだ。

 間もなく、金剛力士像の両目から黄色いレーザーが放たれた。


 二つのレーザーは地面を這いながらクロスして、ボクに直撃……!


「はーっはっは! 粉みじんになるがいい!」


 直撃……したかと思った。


 終わったと思った。


 一瞬だけ花畑が見えた。


 でもレーザーは、ボクに直撃などしなかった。


 逆に……レーザーはボクのメガネに吸収された。

 後に、レーザーがボクのメガネから放出っ!


「な、なにいいいいいいいいいいいい!」


 金剛力士像は叫んだ。

 レーザーは廊下の壁や床を乱反射しながら、金剛力士像に直撃した。


「ぎいやああああああああああああああああああああああ!」


 金剛力士像はブスブスと黒い煙を上げて、ドッターン! と倒れ込んだ。


(え、ええええええええええええええ? てか、ええええええええええええ?)


 なにこれええええええええええええええ?


「ぐぐぐぐ……」金剛力士像は、苦しそうに起き上がる。「ま、まさか八咫鏡ヤタノカガミを持っているとは」


 八咫鏡って何?

 ただのメガネですが?


「私の生徒をバカにしないでくれる?」岩田先生は言った。「アナタのようなものが来ても引き下がるような人間じゃないし、そんなチンケなレーザーなんて跳ね返せるわよ。私の生徒は全員」


 そんなことないと思いますが?


「どうしてそういうことが出来るか、分かる?」


「ぐぐぐ……。オイラには分からん……」


 金剛力士像は中腰で苦しそう。


「勉強から逃げなかったからよ。毎日毎日、嫌なことから逃げずに努力したからよ。そして競争率の高い高校に受かった。そういう子は強いの」


 だから、と岩田先生は金剛力士像を指さす。


「アナタのようなものが来ても……そう、どんな障害が襲ってきても、乗り越えられるのよ。レーザーなんて跳ね返せるのよ!」


 ……え、これツッコンじゃいけない?


「ぐぐぐ……努力……か……」


 何かを悟ったように言うと、金剛力士像はスッと、静かに消え去ったのだった。


「分かった? メガネくん、あなたも自分に自信を持ちなさいってこと」


「えっと、はあ……」


「なあに、そのリアクションは? もしかして私が生徒を盾にしようとしたとでも思った?」


 ごめんなさいそう思うのが普通です。


「ま、何はともあれ、生徒『たち』を守れて良かったわ」


 ……たち? と一瞬引っかかったけど、多分寝ている他の生徒のことだろう。

 その時のボクはそう軽く考えていた。


「無事で良かったわね。そこのアナタ」


 と、岩田先生は幽霊さんに優しく言った。


「あのあの、ありがとうございます……」


 幽霊さんは指をモジモジ絡ませながら言った。


「ふふ、きちんとお礼を言えてよろしい! じゃあこれ、約束のもの」


 岩田先生は、ふところからファーストフード店のポテト(Sサイズ)を幽霊さんに手渡した。


「……え? これ……」幽霊さんはとても驚いている。


「欲しかったんでしょ?」


「……あのあの……ありがとう……ございます……」


 すると、幽霊さんの全身が、スウッと透けていった。


「あら、もう良いの?」


「……はい……。あのあの、ワタシとお話ししてくれて……ありがとう……」


「なあに? 私はちゃんとお話しした覚えはないけど?」


「ううん……。怖がらずに厳しくしてくれたり……。普通に接してくれたのが……その……嬉しくて……」


 ふふっと、岩田先生は笑った。


「どういたしまして。メガネくんにもお礼、言うべきじゃない?」


 ここで、幽霊さんは、ボクに向かって微笑みかけた。


「あ、ありがとう、メガネくん……」


「いえ、その……うん……」


 ボクは照れ隠しに頭を掻いた。幽霊さんの体が、どんどん透けていく……。


「ねえ幽霊さん。私ね、ずうっと教師やってると思うわ。この先、ずうっと」


 だからね、と岩田先生は続ける。


「生まれ変わったら、私の所に『ホントの生徒』として来ることを約束してほしいな。清キラに受かるのはそう簡単じゃないかもしれないけど、どう?」


 幽霊さんは、パアッと表情を明るくした。


「あ、あのあの……はい! 必ず!」


 スッ……と、幽霊さんは姿を消した。


「ありがとう」


 その一言を置いて。


「ふう。一件落着ね早乙女さおとめくん」


「はい……って、え? あれ? ボクの名前……」


「あのねえ。知ってるに決まってるでしょう? 担任よ?」


「じゃあ何でさっきまでメガネって……」


「悪い幽霊に名前を覚えられたら危ないでしょう? まあ今回は良い子だったけどね」


 ……だからか……。


「あの~、もしかして最初のクダリから見てました?」


「ええ。幽霊がポテト欲しいって言ってたところもちゃんとね。だからポテトも用意出来たのよ」


 ……この時、ボクはとても感動していた。

 岩田先生って……。

 凄い先生だなって……!


「さっ、早く寝ないと寝坊するわよ? 早乙女くん♪」


 ご機嫌に言うと、岩田先生は自分の部屋へ歩いて行った。


(幽霊とか、金剛力士像が動いてたこととか良く分からないけど……)


 良く分からないけど……。

 岩田先生は良い先生だと思いました。

 そんな夜でした。


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