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第61話 ささやかで、大きな願い(sideM)


「よお、メガネくん」


 と、城ヶ崎じょうがさきくんが声をかけてきたのと同時、


早乙女さおとめくん、奇遇ですね、こんなところで会うなんて」


 ギシュリと鞘師さやしトアリさんも登場。二人はそれぞれお土産が入った袋を持っている。鞘師さんの袋からは『破魔の矢』と木刀がはみ出ている。


「あ、二人とも……。もうお土産買ったんだ?」


「ああ。ついでにお参りも終わらせといた」


 な? と城ヶ崎くんが隣の鞘師さんに言った。


「早乙女くん。あそこの神社、『なんでも願いが叶う』らしいですよ」


「えっ、何でも?」


「ええ」鞘師さんはギシュリと頷いて、「さっそく、城ヶ崎くんがGから人間になれるように願ったら人間タイプGになりましたし」


「だから俺はもとから人間だっつの!」


 ツッコむ城ヶ崎くんを、鞘師さんはサラリとスルー。


「早乙女くんは何か叶えたいこととかあります?」


「え、ボク? まあ、そりゃあ、うん。ある……かな」


 へえ~、と声を揃える城ヶ崎くんと鞘師さん。

 なんだかんだで息がピッタリだなと、ボクは笑みを零してしまっていた。


 それを見てか、城ヶ崎くんと鞘師さんは頭に「?」を浮かべて顔を見合わせていた。


(うん……ボクの願いは一つだけなんだ……)


 人は『ささやか』だと笑うだろうけど、ボクにとっては大きな願いがあった。


「ま、いっか」城ヶ崎くんは言った。「とにかく時間までには戻って来いよ。バスに置いてかれるぞ」


 隣で鞘師さんがギシュリと頷く。


「じゃあまた後でなメガネくん。ほら行こうぜトアリ」


 歩き出した城ヶ崎くんに、鞘師さんが続く。


「またお会いしましょう、早乙女くん」


 すれ違いざまに、鞘師さんは言った。


「うん。またね、城ヶ崎くん、鞘師さん!」


 城ヶ崎くんは背を向けたまま手を振り、鞘師さんはギシュリと親指を立てて去っていった。


「ていうか城ヶ崎くん、メガネくんじゃなくて早乙女くんですよ」


「んなこと知ってるっての。ワリーけど俺はもうあだ名で呼べるくらいの仲なんだよ」


 というやりとりが、かすかに聞こえてきたのだった。


(ふふ……。またね……二人とも……)


 神社に向かう途中、信じられないくらいの速さでボクの横を女子が駆け抜けていった。

 それが加藤かとう律子りつこさんだということに、ボクはワンテンポ遅れて気づいていた。


(気のせいかな……)


 加藤さんは、やってやったぞと言わんばかりの笑みを零していたかのように見えていた。まるでピンポンダッシュに成功した子どものように。


「あら早乙女くん。あなたもお参り?」


 そう声をかけてきたのは、岩田いわた先生だった。今日も黒スーツをバッチリ着こなしている。


「あ、はい。岩田先生もですか?」


「ええ。ま~あんなのに頼らなくても私は大丈夫だけどね」


「へえ……。何を願ったん――」


 ですか? と聞こうとしたら、


「……知りたい?」


 と、岩田先生は獲物を見つけたアサシンのように、どす黒く笑いながら言ったのだった。


 これは、聞いたら、あかんやつや、とボクの本能が言っていた。


「あ、いえ、全然!」


「そう?」岩田先生は表情をパッと柔らかな笑みに変えた。「人には知らない方が良いことがあるからね?」


 何を願ったんですか?


「じゃあ早乙女くん、集合時間には戻るのよ?」


「あ、はい……」


 ニコッと笑った岩田先生と別れ、ボクは奥の神社に入った。

 そして賽銭箱の前に立ち、ゆっくりと願う。


「……二年生でも担任は岩田先生で、城ヶ崎くんと鞘師さんと一緒のクラスになりますように」



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