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【第2部】

第63話 フランスの魔王、降臨(sideG)


 まさかあの日本で暗殺の依頼を受けるとは。

 本当にツいてる。


「あの平和ボケした国で、ね」


 飛行機の窓際で、俺、マルセルはつい笑みを零していた。

 楽勝すぎる……。

 この俺に……。

 裏の世界では『極悪非道六神獣及び魔王』と恐れられている俺に……。

 日本の高校の教頭を暗殺しろだって?

 なんてイージーな依頼だ。

 しかも他の国なら十人分の報酬だぞ。


「くっくっく……」


 二十四歳にして中二病発症しちゃうくらい楽勝だよ。

 ちゃっちゃと暗殺して、アキバ観光でもしてフランスに帰るか。


 暗殺のためというより、俺は観光のために日本語をマスターしていた。

 日本がどういう国かなんて知っている。


 褒められるのは治安が良いってことくらい。

 故に皆、平和ボケしていて、危機感が全くない。

 暗殺にはうってつけの国だ。


「ねえ、あの人」


「うん、かっこよくない?」


 と、近くの日本人女性二人組が、俺をチラチラ見ている。


「金髪サラサラ!」


「青い瞳もカッコイイ~。どこの国の人だろ?」


「ちょっと話しかけなよ」


「えー? 無理だってぇ」


 などと、キャッキャ言いながら俺をチラチラ見ている。


(そして消極的な人間性、と)


 日本人はどうしても『自分から』というのが無いらしい。

 まったく。

 あんな平和ボケした奴らなんて、俺たちの世界なら一瞬で命が無くなっているぞ。


「さっさと終わらせるか」


 日本に到着した。俺はホテルで黒いトレンチコートに着替えた。

 現場に向かう途中、依頼主の部下から拳銃とナイフを受け取り準備OK。


「さて」


 もう夕方が近い。

 暗殺は明日にしよう。


 今日のうちに現場の下見だけでもしとくか。

 必要無いだろうけど、念のため、な。


「ここか」


 俺は武器はホテルに置いて、例の高校に辿りついた。

 名はきよキラ高校。

 日本でトップクラスの高校らしい。


 まあ、いくら頭が良くても、その辺に居るボケーっと平和ボケした大人にしか成長しないというのだから可哀想だ。


「ほら見ろ……」


 すんなりと校門を通れたし、校舎にも入れた。

 黒いトレンチコートを着た部外者が、いとも簡単に侵入できてしまった。


(まったく張り合いの無い……)


 授業中のため、廊下は静まり返っていた。時間帯的に、今は本日最後の授業時間かな?


 廊下でたまに生徒とすれ違ったが、新しい外国語の教師だろ、とか軽く考えているらしく、挨拶までしてくる始末。


 本当に危機感が欠如している……。

 俺は来客用のスリッパをペタペタ鳴らしながら、校内の散策を続ける。


(……ん?)


 不意に、背後から異音が聞こえてきた。

 ギシュギシュという音。


 納豆でも作る音かな? と俺が冗談めいて振り向くと……。

 そこには白い物体があった。


 いや違う。


 白い……何だアレは?

 ……人? 

 人間だ。

 防護服を着た人間だ。


 見間違いじゃあない。

 防護服を着た人間がそこに居る。

 今から汚染区域にでも行くのかと聞きたくなるほど重厚な防護服だ。

 拳銃の弾すらはじき返しそうなくらい分厚い防護服を着た人間が、そこに居る。


(え、ええええええええええええええええええええええ?)


 ここは日本ですよね?

 え? もしかして上陸国間違えた?


(ヤバいヤバいヤバい)


 俺は咄嗟に近くの理科室に隠れた。そしてソーッと扉を少しだけ開けて、白い防護服を着た人間を観察。


(な、何なんだアイツは……)


 ま、まさか……。

 どこかしらで俺が暗殺しにくる情報を得て、あの武装を……?


 いやそんなはずはない……。

 この情報をリークできる者なんて限られてるし……。


(まさか依頼主が……? でもそんなことしたら俺にヤられることは明白……)


 俺が色んな可能性を考えていると、


「課外授業楽しかったなー」


 と、防護服を着た人間は、聞こえよがしに言った。

 女の子の声だった。

 防護服のせいで少しこもっているが、可愛らしい声だった。


(か、課外授業?)


 なんだアイツは急に。

 誰も居ないところで喋りだしたぞ。


 つーかオマエ生徒だよな?

 なんで当たり前のように授業サボってんの?


「課外授業、ホントに楽しかったなー」


 なんでまた同じこと言ってんの?

 なんでそんな聞こえよがしに言ってんの?


「課外授業、楽しかったですよねー」


 もういいから。

 楽しかったのは分かったから。


 つーか何なのキミは?

 なんでそんな暗殺跳ね返すほどのフルアーマー状態なの?


「課外授業、楽しかったのは認めますけども」


 もういいっつってんだろがああああああああああああああ。

 なんなのコイツううううううう。

 どんだけ課外授業楽しかったことを虚空に向かって言ってんの?

 え、オレもしかして幻覚でも見てます?


「なんでやねん! 課外授業、楽しかったって、なんでやねん!」


 こっちが『なんでやねん』なんですけど。


「あ、間違えた。奈良に行ってたから関西弁が抜けてなかった。標準語に直さなきゃ」


 いやさっきからずっと標準語でしたけど。急に『なんでやねん』ぶっこんできただけだろ。もしかして『なんでやねん』って言いたかっただけ?


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