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第74話 現実ですよ。


「マジか……」


 そういえば課外授業後、関節痛がするなあと思ったら……。

 原因はこれか。


「一六五……間違いない……」


 身長が……。

 身長が伸びてるううううううううううううううううううう。


 中一ん時から毎日測ってたけど、トアリと会ってから測ってなかったんだよね。

 自分より、アイツのことに精一杯で……。


「マジですかスカ……」


 早く起き過ぎて時間が余ったから、何気なく測ってみたんだ……。

 そしたら一六〇から五センチ伸びてたことが判明。


 ヤベーよ号外だよ。

 城ヶ崎じょうがさき俊介しゅんすけ、ついに壁を超えたって一面になるよ。

 各局で緊急テロップ出てんじゃないのコレ?


「ふっふっふ……」


 清キラに入学して約二週間……。

 その間に五センチ伸びたってことは、もしかしたら卒業する頃には二メートルはイってんじゃないの?


 あ、でもデカすぎるから一八〇くらいで止めとくか。

 三高のラインに乗るだけで充分だし。


「くっくっく……」


 隠しきれない微笑みと共に、俺は通学路を歩いていた。

 しかし学校に近づいた時、


『おはようございます。生徒会副会長の加藤かとう律子りつこです』


 校内放送が俺の勢いを止めた。

 そうだった。

 俺には極悪非道六神獣及び魔王っていうめんどくせー二つ名があるんだった。

 それを何とかせねば……。


『皆さん、極悪非道六神獣及び魔王には』


 注意しろだろ、はいはい。


『感謝しましょう』


 そうそう感謝しましょう……って、え?


「……え?」


 俺は思わず校門の前で立ち止まった。


『皆さん、極悪非道六神獣及び魔王に感謝しましょう』


聞き間違いじゃあない。加藤は確かにそう言っている。


(……あり?)


 え、なに?

 どういうこと?

 なにが起こったの?


 もしかして加藤の奴、メッチャ高熱出して脳みそバグってる?

 いや脳みそバグってんのはいつもか。


(じゃあ何だ?)


 俺が立ち止まっていると、すれ違っていく皆がチラチラ見ながら、


「お、おい、アイツ」


「ああ、極悪非道六神獣及び魔王だ!」


「昨日、学校を危機から救ってくれた!」


「救世主だよな!」


「かっけー……」


「学校の裏の番長ってやつ?」


「まだ一年だってよアイツ」


「え、マジで?」


「スゲー!」


 と男子たち。

 女子たちの反応は、


「ねえねえあの人」


「極悪非道六神獣及び魔王でしょ?」


「学校を支配しようとしてるみたいだけど、ヤルときはヤッてくれるんだね」


「ね~、ちゃんとピンチには守ってくれるっていうね~」


「頼もしい~」


「ちょっとカッコイイよね」


「悪いけどファン第一号は私よ」


「はいはい」


「え、あの人まだ一年生なの?」


「すごーい」


「ウチのクラスのボンクラどもに見習ってほしいよね」


 と高評価。


(え、えええええええええええええええええええええ?)


 なにこれええええええええええええええ?

 この俺がこんな称賛されるって何?

 俺ってそんな奴じゃないよね。


 自分を貶めてるようでアレだけど、素朴な俺がこんな風になるのおかしいよね。


 ……夢?


 いや、明らかに夢じゃない、現実だ……。

 え、俺もしかして異世界転移した?


(と、とにかく職員室に行こう……)


 配布するプリントを受け取らなきゃだし。

 俺は沢山の『称賛ヒソヒソ』を浴びながら歩を進めた。


「失礼します」


 一礼してから職員室に入り、岩田いわた先生のデスクに向かった。


「あら城ヶ崎くん、お疲れ」


 岩田先生は微笑んだ。デスクには、ノートパソコンが開かれている。


(うーん)


 いつもの岩田先生だ。黒スーツをバッチリ着こなしてるし、美人だし……。

 変な所は無い……。


 何かが反転してるとか、異世界にありがちな『違和感』が無いから……。

 やはり現実だな、ここは。


「ちょっとなあに? 人のことジロジロジロジロ、やらしいわよ?」


「……へ? あ、いえ、別に全っっっ然そんなつもりで見てたんじゃなくて!」


「あら、それは一体どういう意味かしらん?」


 岩田先生は邪険な笑みを浮かべる。


「つまり『アナタにはそれほどの価値はありません、自意識過剰もほどほどに』ということかな城ヶ崎くん?」


「え、ええ? 違いますよ! ただ……」


「ただ、何?」


 ずいっと岩田先生は顔を近づけてくる。


「いえ、こっちの話でして……。そ、そんなに怒らないでくださいよ。美人が台無しですよ? ね?」


 岩田先生は俺にデコピンを放ってから、椅子に座りなおした。


「まあいいわ。じゃあこれ、HR始まるまでに皆に配っといてね」


「あ、はい……」


 うん、いつもの岩田先生だな……。

 ここは現実だ。

 そう確信し、俺はプリントを手に教室に向かったのだった。


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