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第76話 黒の一手


「まあいいや……。はいこれ、今日のプリントな」


 俺は両隣の二人にプリントを渡した。


「ふむふむ、なるほどね」


 こう見えて加藤は超真面目で、いつもプリントを受け取るとそれを隅から隅まで真剣に読みだすのだ。


「……ほう。ゴキブリには注意しましょう、ですか」


 トアリはプリントを読みながら言った。


(……んなこと一言も書いてねえよ……)


 ふんわり言うと、ゴールデンウィーク羽目を外さないようにって書いてあるだけなんだけど。


 え、何なの?

 マジで何でもかんでもゴキブリに変換するソフトが脳内に内蔵されてんじゃねーかコイツ?


 MRI検査してこいGW中に。多分ゴキブリソフト見つかるから。


城ヶ崎じょうがさきくんはゴキブリウィークの予定空欄でしたよね確か」


 GWのGはゴキブリのGじゃねーよ。 

 ゴールデンのGね。


 てかゼッテーその流れ来ると思ったわ。

 分かりやすっ。


 どんだけ読みやすい手を打ってくんの?

 将棋だったら一手目で詰むレベルだぞ。


「私は神の一手を研究しようかなあ、将棋で」


 凡の一手しか生まれないよ残念ながら。


「Gの駒って斜め前に駒を飛び越えて移動できるから強いですよねー」


 それ桂馬ね。


「あと全方向に一マスずつ移動できますし」


 それ王将。


「真っすぐなら縦横に制限なく動けますし」


 それ飛車。


「斜めにどこまでも移動できるのも良いですよねえ」


 それ角。


「一歩ずつしか前に進めませんが、成り上がると強くなるのも良いですよね」


 それ歩。


「前進しか出来なくても使いようによっては脅威ですし」


 それ香車あああああああああああああああああ。

 全部ゴキブリじゃねえかあああああああああああああああああああ。


 盤面真っ黒なんだけど。そんな黒く染めたきゃオセロでもしてろ。


「そうやって一歩ずつ進み、盤面を飛び出て生まれたものがゴキブリだという言い伝えがあります」


 そんな言い伝え無えよ。


「そう、つまり城ヶ崎くんは盤面を出ることに成功した、ごく一部の生命体なのです」


 誰がゴキブリだ。


「なので恥じることはありません(笑)」


 自分でも笑っちゃってんじゃねーか。完全にバカにしてるよね、防護服の中でニヤけてるのが鮮明に分かるんだけど。


 ここまで表情見えないのにどんな顔してるか分かる人間オマエしか居ないぞ。


「ふふふふふふ……」


 テメー(加藤)もコッソリ笑ってんじゃねーよ。

 マジで俺の周りの世界だけ変わらず通常運転なんだけどぉ。

 むしろ悪化してね?


「将棋よりシンプルですが、囲碁って奥深いですよね」


 今度は囲碁か。

 来るんだろ?

 どうせ来るんだろ?

 囲碁の黒石を絡めた『あのネタ』が来るんだろ?


「囲碁はルールがシンプルですが奥深いですよね。一手一手に打つ人の性格が出るって言います。ゲタやシチョウで相手の石を確実に取るテクニックや、定石を覚えたら楽しいですよね」


 ゴキブリはあああああああああああああああああああああああああ?


 なんかフツーに囲碁のこと語りだしたんだけど。


 期待したじゃねーかゴキブリネタを。

 いやゴキブリ所望してる俺も俺だけど。


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