72. Story.6 ~【初恋ダイアリー】~①
あたしは早速家に帰り、サキちゃんにすすめた【初恋ダイアリー】を探す。あたしはその時は百合小説だけど、映画化もされたいい作品だから買った記憶がある。いわゆる流行りにのっただけだ。
「確かこの辺りにしまったような……あった。」
少し埃をかぶっているけど、間違いなく【初恋ダイアリー】だ。表紙には可愛らしい女の子が描かれている。これが主人公である。
まさかあたしが女の子と付き合うなんて、この当時のあたしは微塵も思ってなかっただろうな。だから今この【初恋ダイアリー】を違う気持ちで読めるような気がする。あたしは小説のページをめくる。
【初恋ダイアリー:あらすじ】
恋愛経験が全くない女子高生の前澤詩織(まえさわしおり)は、ある日を境にクラスメイトの女の子、深山歌音(みやまかのん)に惹かれていく。同性に対する恋愛感情。その想いを伝えることもできずにいた時、教室の自分の机の中に見知らぬ一冊のノートを見つける。そこには歌音への気持ちと、日記が書かれていた。詩織はそのノートに書かれていることを実行することで、自分の恋を叶えようとするのだが……。
何これ?すごく面白いんだけど!こんなの読んだら続きが気になるじゃん……。なにやってんだ昔のあたし……。とりあえず読みすすめていこう。
見知らぬノート、それは未来の主人公が書いた日記。最初はそれの通りに行動していくけど、ある日主人公はその日記の結末を見てしまう。それは「別れ」。主人公は好きな人と結ばれたいという願いのために日記とは違う行動をしていく。ふむ。なんて切ない話なんだ……これは泣ける。
そして主人公の想いは届くのか!? 読んでいるこっちまでドキドキしてくる。早く次を読みたいけど、もう遅いので寝ることにした。
翌日。あたしは小説演劇同好会の部室にいる。結愛先パイは用事で少し遅れるって言ってたので、待っている間に【初恋ダイアリー】を読むことにする。
「そういえば結愛先パイの用事ってなんだろう?というか結愛先パイって友達とかいるのかな?全然聞かないけどさ……。」
そんなことを呟きながら本を読んでいた。すると突然ドアが開いた。誰か来たようだ。そこに立っていたのは……結愛先パイだった。
「遅くなってごめんなさい。」
「大丈夫ですよ。それより用事は終わったんですか?」
「えぇ、なんとかね。」
結愛先パイは席に座る。あたしの横を通った時に結愛先パイのいい匂いがする。やばい……。落ち着け自分……。
「そういえば麻宮さんは結局どうしたの?デート断ったのかしら?」
「あぁ、あれですか……。断ったみたいですよ?」
「あら、そうなの?でもまぁよかったんじゃない?」
「はい、そうですね。ところで結愛先パイはどうして遅れたんですか?」
すると結愛先パイの顔色が明らかに変わる。何かまずかったかな? しかし結愛先パイはすぐにいつも通りの表情に戻る。それから少し沈黙が続く。しばらくしてから結愛先パイが口を開く。なんか怖い……?
「ちょっと天道真白に呼ばれてね?私は嫌だと言ったのに、文化祭の準備をするように言ってきたのよ。本当に面倒な子。」
「ん?結愛先パイって天道生徒会長と同じクラスなんですか?」
「そうよ。しかも隣の席。私にだけうるさいのよねあの子。」
初耳なんだけどさ……。あたしは結愛先パイの交友関係って知らない。聞ける範囲で聞いてみよう。
「結愛先パイって仲のいいお友達いるんですか?」
「いないわよ。」
「即答すぎ!」
「だって事実だし仕方ないじゃない?それに私はあなたと一緒にいて楽しいと思っているもの。だから問題ないわ。」
それはそれで嬉しいんだけどさ……。その後しばらく雑談をして、あたしはまた【初恋ダイアリー】を読み始める。
「あら?ずいぶん懐かしいの読んでるわね?」
「あっはい。昔流行った時に読んだんですけど、今ならまた楽しめるかなって思って。」
「その小説は私がまだ紗奈の事を好きだった中学三年生の時に流行ったやつよね?一緒に映画も見に行ったわ」
結愛先パイはいつもの悪い顔をしながらあたしに言う。わざとだ。あたしを嫉妬させようとしてる!あたしが不機嫌そうな顔で睨むと結愛先パイは満足げに微笑む。結愛先パイはホントに意地悪だ……。でも大好きだから仕方ない。
「あたし嫉妬しませんからね!」
「あら。つまらないわね。」
「結愛先パイの初恋は紗奈さんですよね?」
「さぁ?ご想像にお任せするわ。」
結愛先パイははぐらかすように答える。絶対そうだ。あたしをからかって楽しんでいるだけだよ。あたしの初恋は……結愛先パイになるのかな……。だから少し悔しい。中学生の時はカッコいいなと思う男子はいたけど、付き合いたいなと思ったことはない。
「あたしがもし、紗奈さんより先に出会ってたら付き合ってましたかね?」
「どうかしらね?今のあなたなら間違いなく好きになったかもね?あなた以外考えられないし。」
「っ!いきなりそういうこと言わないでください……。照れるじゃないですか……。」
「ふふ。ごめんなさいね。つい可愛いと思って。」
やっぱり結愛先パイには敵わない。あたしは顔を赤くしながら下を向いてしまう。そんなあたしを見て結愛先パイは笑っているのでした。