73. Story.6 ~【初恋ダイアリー】~②
今日は文化祭の準備をクラス全員でやることになっている。あたしたちのクラスは喫茶店をやる。しかも『貴族喫茶』。よくあるやつだ。男子が執事、女子がメイドにコスプレをしてもてなすのである。
もちろん接客係もくじ引きの結果だが、接客係になった男子は大喜びだった。なにしろかわいい女の子たちがみんな着飾って、一緒に給仕してくれるのだ。これはもう天国以外の何物でもない!とかあたしは誰目線なんだ……。
「はい。次は新堂さん。くじを引いて下さい。」
「はいはい。」
あたしはくじを引く。誰もあたしのメイドなんて見たくないと思うから、接客係以外でお願いします!とかフラグを立てる。結果は……。
あたしは接客係になってしまった。無事フラグ回収……。まぁいいか。この前のスピーチ大会に比べれば接客くらい。……と自分を慰める。ちなみにサキちゃんと春菜ちゃんと衣吹ちゃんも接客係になった。
とりあえず採寸のために、さっそく更衣室に向かう。そこで制服を脱ぎそして用意されたメイド服に手を通す。
ふむ。なかなかいい感じじゃん。サイズはぴったりだし……胸のあたり以外は。スカート丈もちょうどよい。ちょっと短いけど、そこは仕方がないよね? あたしは鏡の前でくるっと回ってみる。うん。かわいい!
「これ胸のところがきついなぁ……直してもらわないと。」
「水瀬さんには確かにキツいかもね。私はちょうどいいし!可愛い!」
「ねぇ……これスカート短くない?私恥ずかしいんだけどさ……。長くしてもらおう。」
「ダメ!何言ってんの!そのくらい普通だって!サキちゃんはいつの時代の女子高生なの?」
なんだかんだみんな可愛い。それにしてもよくこんな衣装を作ったものだ。そのあとは教室に戻ることにする。そういえば結愛先パイのクラスは何やるんだろう?気になるな。あとで聞いてみよう。
教室に戻り、まずは看板と内装を準備する。『貴族喫茶』だから、それらしいものにしないと。まずは看板作りだ。みんなで看板のデザインを考えることにした。しかしこれが意外と難しい。あたしたちは必死になって考えた。結局2時間ほどかかってようやくデザインが決まった。
デザインは衣吹ちゃんが書いたもので、白を基調とした中に金の模様が入ったものに仕上がった。所々にティーカップなどが描かれていてすごく可愛いしオシャレだ。さすが美術部。
「こんな感じかな?」
「おぉ!すごいよ水瀬さん!めちゃくちゃかわいい!」
「ありがとう!結構大変だったんだよ~。でもみんなの協力があったおかげで完成した。本当にありがとう!」
「うぅ……なんか泣けてきた……」
「わかる……。私も感動した……。」
みんな泣きながら笑っていた。こうして看板が完成した。次に内装だ。これもまた一苦労だった。というのもこのクラスの出し物は『貴族喫茶』なので、各テーブルごとにテーマカラーがあるのだ。例えばあたしたちの席ならピンクと水色という具合である。これを全部決めなくてはいけない。
「これはどうしようか?」
「そうだなぁ……。せっかくだからここはやっぱり……」
「じゃあこれに決まりだね!」
そんなこんなであっという間に時間が過ぎていった。そして帰り道。あたしはサキちゃんと共に帰っている。
「サキちゃん。【初恋ダイアリー】読んだ?」
「うん。少しずつね。でも人を好きになる気持ちって百合小説でも変わらないんだねって思った。相手の性別じゃなくて、その人を見てる。なんかいいよね。そういうの。」
「そうだね。」
「そういえばさ……凛花に聞きたいんだけどさ……。」
急にサキちゃんの声のトーンが変わった。真剣な雰囲気が伝わってくる。なんだろ?
「あのさ……違ったらゴメン。凛花もしかして彼氏できた?」
「ええ!?いや、彼氏なんていないよ!」
「そう?なんか何冊か恋愛小説を私も読んだことあるけど、その恋してる主人公に似てるんだよね?」
「そ、そうかな……」
春菜ちゃんに続けてサキちゃんにまで……バレるのも時間の問題かも……。
「そうなの?ごめん変なこと聞いちゃったかな……?」
「全然大丈夫だよ。ただあたしは今まで恋をしたことがないからよくわからないけど、きっとそういう風に見えているのかもしれないね。あははっ」
あたしは笑ってごまかす。本当は内心めっちゃ焦ってますけど……。そしてサキちゃんと話ながら駅で別れる。ふぅ。なんとか乗り切ったぞ。これからはもっと慎重に行動しないと……。でもあたしはバレそうだし……。うん。気にしないことにしよう!変なことした方が危ないと思うし。