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「洞窟を進むと…」

  さて…今の俺は、カルス村を出てとりあえずサント王国を目指しているところだ。村を出て進んでいくと、店で聞いた通りの洞窟が見えてきた。ここを避けて王国へ行くのは無理そうなので、洞窟に入って進んでいく。


 あの瘴気にまみれた闇の地底と違い、割と明るくて空気も普通だ。その理由は、冒険者か王国の兵士かの誰かが作ったのか、あちこちに松明が設置されている。ここにいる生物たちは火が怖いのか、松明の近くに痕跡はない。洞窟内はけっこう人の手が加えられていて進みやすくはなっている。サント王国を行き来するからだろうな。


 しばらく進むと狼っぽい獣族が群れをなしてやってくる。洞窟に棲む魔物とかはどうにも出来なかったらしく、松明が近くにないとこうして魔物と遭遇する。

 「鑑定」でステータスを見る。と、一匹の平均レベルは5。それが7体か匹いる。召喚されたばかりのクラスメイト1人では敵わないレベルだな。

 固有技能は特に珍しいものは無いな、なら軽くひねるか。そう思い、戦闘態勢に入る。


 「脳のリミッター30%解除」


 この程度の奴らなら、ほんの少しの解除でいい。地面を蹴り、接近した狼どもに足刀蹴りを放つ。蹴りをまともにくらった狼は声もなく落ち、蹴りの衝撃波で周りの狼も吹き飛んで壁に叩きつけられる。残りの狼たちは低く唸りながら俺から逃げていった。俺に立ち向かってくる獣や魔物は基本こうやって相手するが、逃げてくれるなら放っとこう。いちいち殺すのめんどいし。


 その後、巨大ヤスデや蝙蝠、ネズミなど様々な種の生物が出てきて、いずれも適当に倒したり無視したりした。

 時間的に、今洞窟内をうろついている人って俺しかいないみたいだ。洞窟入った時も、その後しばらく進んでも全く人と遭遇しない。完全に貸し切り気分だ。

 だから、松明に照らされた先に人骨が転がっていたことに軽く驚いた。さっきから人がいないのはそういうことなのだろうか。

 その先を進むと、死体がいくつか転がっていた。中には強そうな防具を着た男の死体もあり、レベル20以上はありそうな奴らの死体をちらほら見かけた。

 どれも鋭利な刃物で抉られたような傷跡が見られる。モンストールが紛れているのか?と推測するが、犯人は全く分からない。いずれにせよレベル30以上の魔物かモンストールがうろついていそうだ。


 「あ、こいつらは…!」


 さっき見た死体をよく見ると、それらは村の店で俺に金を恵んでくれた髭冒険者パーティだった。先に進んでいたと思っていたらこんなところで死んでいたのか。

 髭男には軽く黙とうをして残りのメンバーは無視して去った。あいつら俺のこと軽く嘲笑ってたしな、黙とうなんかしてやるもんか!


 さらに奥へ進むと、先程までの明るさが無くなった。壁を見ると、松明が消されたような痕が見られた。故意に消したっぽいな。相手は暗闇でも目が利くタイプか。

 「夜目」を発動して、周りを注意深く見て進んでいると、同時に発動していた「気配感知」に何かが引っかかった。30m以内だ、近いぞ。

 相手に敢えて聞こえるよう足音を立てながら、気配がする方へ。徐々に姿があらわになる。



 「っ...!...誰!?」


 と女の声がする。件の殺人犯は女だったのか。そしてようやく姿がはっきりと見えた。

 肩に届くくらいの長さの赤い髪をし、身に着けているものは薄汚れた布服の女は、振り返りこちらを見据える。

 そして彼女の足元には―洞窟に生息する生物たちの死体がたくさん転がっている。どれもレベル10はありそうな奴らだ。だが、俺は彼女の口元に注目していた。

 彼女の口周りは血で真っ赤だった。さらに彼女の両手には肉片らしきものがあった。この格好と状況を見るからにして分かることは……


 「まさか、ここの魔物どもを食ってたのか...!?」


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