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「クィンの依頼」2

 とりあえずは手がかりを見つけられる可能性は得られたな。確信できることは何一つも無いが、かもしれないってことがあるだろうからな。

 いつの間にかクィンは俺のすぐ近くに移動していた。真剣さを帯びた目をこちらに向ける。


 「その代わりコウガさん。ドラグニア王国へ共に行き、モンストールの群れから王国の人々を守って下さい!もちろん私も共に戦います、力はあまり及ばないと思いますが……」


 俺の手をガシッと握ってそう言う。逃がさないと言わんばかりに強く握ってくるクィンに、俺はああと答える。


 「条件を飲んでくれると言った以上、依頼任務を引き受けるさ。人を守りつつモンストールを討伐する……良いぜ。やってやろうじゃねーか、残りの群れ殲滅を」

 「ありがとうございます……!!」


 クィンは希望に満ちた顔で礼を言った。よほど嬉しいのか握った手を上下にブンブン振ってくる。


 (依頼は受けるさ、とりあえずな。元の世界へ帰る手がかりがどこにあるか分からない以上、大国が保有している機密情報を暴くこともやってやるさ。

 まあ別に…………)


 早速出発するとのことで出発の支度をすると言って使っている部屋へと向かうクィンの背を見ながら、俺は…………


 (今回の依頼クエストを…!ここはとりあえずOKとだけ言っておけばいいや)


 またニヤリと笑うのだった。


 十五分後、しっかり装備して万全状態のクィンが再び俺のところへ来た。俺の装備は昨日と同じ軽装だ。


 「昨日の傷はもう癒えたのか?」

 「はい。完全に治ったわけではありませんが、体力と魔力は十分に回復してますので」

 「そうか。まあ危なくなったら俺のところに来い。やられないように守るから」

 「は、はい…よろしくお願いします」


 少し赤くなったクィンに待ったを言って、アレンのところへ行く。彼女はまだ脚に包帯を巻いていてベッドで安静中だ。


 「今回はここでお留守番してくれ。だいぶ回復してるみたいだが昨日みたいな戦いはまだ無理そうだしな」

 「むぅ………分かった。ここでコウガたちの帰りを待ってる」


 同行できないことを不満がっているアレンに苦笑して、行ってきますと告げて病院施設を出る。鬼族たちもこの村に滞在させる。アレンの看病もして欲しいしな。


 「じゃあ行くか、ドラグニアへ」

 「はい!」


 そういうわけで、俺とクィンでドラグニア王国へ向かうことになった。引き続きモンストールの群れ退治といきますか。




                  *


???視点


 あちこちに同胞の死骸があるな……まあ死骸と言ってもあるのは同胞たち体の部位が少々ってところだが。

 数は……ここに向かわせた連中全てか。復活を恐れてか、脳や心臓といった重要な器官は全て消え去っているな。

 だが死骸を見ていくと、その一つに妙な痕が残っていることに気づく。


 「これは……噛み痕?それも、嚙み千切った肉を…食ったようにも見えるな…」


 食ったというのか。俺たち以外の種族にとっては毒にしかならない同胞の肉を。奴らを食らってなお、平気でいられたというのか。過去に魔物が同胞に噛みついてその肉を食らったことがある。その結果魔物は絶命したがな。

 魔物、魔族、そして人族にとって、俺のような種の肉は食えたものではないはずだが…。もし肉を捕食して生きていられているというのなら……待てよ。

 そういえば以前、俺の体を嚙み千切ってその肉を食っても平気そうにしていた人族と遭遇したな…。あの地底…俺たちのホームで。

 初めて遭遇した時…その人族は俺の攻撃をくらっても死ぬどころか倒れることさえなく俺から逃げ切ってみせた。

 しかしその後俺のもとに自ら現れたかとおもえば、人族の領域を超えた身体能力を発揮して俺に奇襲をかけて、俺の肉を食らった。

 それだけでも驚愕すべき出来事だったのに、そいつはなんと、俺の固有技能を習得したらしいのだ。

 あんなことは初めてだった。非常に興味が湧いた。百数年ぶりに俺の好奇心に火がついた。まあ、結局そいつにはまた逃げられたが。

 だが、こうして痕跡を残してくれた。奴は俺の存在には気付いていないようだ。


 「面白い…。地底にいた同胞だけでなく、俺の指示で地上に侵攻したこいつらをも難無く殺してきたみたいだな…。感じるぞ……お前はあの時よりもさらに強くなっている!」


 ここからでも分かる、あの人族が今どこにいるのかが。奴の戦気と……“俺の臭い”がよく分かる。逃げることは出来ないぞ。

 何せあの時、俺の肉を食らったのだからな。

 奴は今……ドラグニア王国に向かっているな。あそこにも今、同胞を数十体送り込んでいる。なるほど、お前の次の獲物はあいつらか…。


 「なら今から挨拶しに行こう…。

 、という問いに、今度は答えてもらおうか」


 そう呟いた俺は、新たな同胞どもを率いて……


 道中たくさん滅ぼしてきたからもういくつ目かも分からなくなった、人族の村の跡地を発って、次の目的地……ドラグニア王国へ移動した――



 皇雅による活躍で滅亡を免れたはずのドラグニア領域内の村や町のいくつかが消えて無くなってしまっていたことが世間に知らされるのは、これからドラグニア王国で起ころうとしている惨劇が終わってから数日後のことになる。



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