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「ドラグニアとの決別」2

 俺に睨まれたクィンは再び怯えた反応をする。しばらく俯いて、振り絞るように言葉を発する。


 「それでも……あなたが今日やったことは、正しいことではありません。敵を増やすだけです。私さえも、敵に回すことになるかもしれないのですよ…?私は、そんなことは望んでません…!」

 「それはお前がそう思ってるだけだろ。けどまぁ旅の仲間が敵になるってのは確かに残念だよな」


 でもそれだけだ。正直クィンのことは、「失ったら残念だなー」って思ってるだけで、絶対に敵に回したくない、消えてほしくないってまでは思っていない。彼女のことはそこまで大切には想ってはいない。だからクィンが望む望まないなんて、俺には関係無いのだ。


 「はぁ、この話はどこまでいっても平行線になりそうだな。もういいだろ。俺はあいつらを殺さなかった。もうそれで良いだろ。あいつらが馬鹿で愚かじゃなけりゃ、これ以上おれに関わろうとはしないだろ。他の大国に呼びかけることもしねーはずだ。死体の数が増えるだけだって判断できるはずだ」


 話は終わりだと切り上げて、勝手にすたすたと歩き出す。この国と決別すると決めた以上さっさとここから立ち去りたいしな。


 「コウガ、さん……」


 クィンもしばらくしてから俺の後をついて歩き出した。

 しかし再び歩き出してから一分も経たないうちに、俺たちはまたその歩みを止められることになってしまった。



 「待って下さい!」


 呼び止めてくる声に振り返るとそこにはミーシャ・ドラグニア王女がいた。走ってきたのか若干息を乱している。


 「ミーシャ王女様…!どうされたのですか?」


 俺の代わりにクィンが用件を尋ねてくる。ミーシャは早歩きでこっちに近づいてきて、俺の前で止まってジッと見つめてくる。


 「ごめんなさい…こういうことはすぐに言うべきでしたのに、あの時は気が動転していて言うタイミングを逃してしまいましたから…」


 前置きっぽいことを言ってからミーシャは俺に頭を下げてきた。


 「カイダさんが来てくれなければこの国はモンストールに滅ぼされてしまっていたかもしれませんでした。あなたが来てくれたお陰でこの国は今もこうして残っています

 私たちを……ドラグニア王国を救って頂き、ありがとうございます!!」


 丁寧なお辞儀をしながらそんな感謝が込められた言葉をはっきりと告げるミーシャを、俺はふーんといった様子で見つめ、クィンはやや呆気に取られていた。


 「わざわざそんなことを言う為だけにこうして走って来たのか?」


 どういたしましてなんて言葉をかけることなく無関心そうに尋ねてみる。


 「いえ、違います。用は他にもあります。カイダさんに会わせたい人がいるのですそれと同時に……」


 ミーシャは再び俺に頭を下げてきた。


 「あの実戦訓練の後、カイダさんにいったい何があったのか、教えていただけますでしょうか!?私は、どのような経緯を経て今のカイダさんが在るのか知りたいんです。

 カイダさんのことを知りたいんです…!」

 「おおう……」

 「……!」


 ミーシャの最後の一言に思わず反応してしまう。クィンも何故か反応する。

 俺は異性交流に関してはプレイボーイでも何でもないただの男子高校生だから、本物のお姫様に「あなたのことを知りたいです」なんて言われたらドキッとしてしまう。

 それにミーシャは美少女だ。アニメに出てくるような……いや、アニメの美少女キャラよりも可愛いかもしれない。けど、死んだことで人の感情がある程度抜け落ちてしまった今の俺にはそこまでときめくことはないがな。

 いやそれよりも、今度はミーシャが俺がどうしてこんな力を得たのかを尋ねてきた。まったく、家族揃ってそんなに俺の力について知りたいのか。どうせあれだろ?この力を丸々ドラグニアの戦力に充てようって魂胆なんだろ?見え透いてるんだよ、あのクズ国王どもの考えてることは。


 「言ったよな?もう関わってくるなと。あの言葉はお姫さん、テメーにも言ったんだ。何でいちいち教える必要がある?どうせクズ国王どもから聞いてこいって言われてきたんだろ?こんなクソな王国の為に教えることは何一つもねーよ。テメーが会わせたい人とやらにも興味無いしな。もう帰らせろ、そして二度と関わるな」


 冷たく突き放すように口早に言ってやる。悪気がなかったとはいえ、この世界に呼び出されることになったのはこの少女の提案がきっかけだった。こいつも俺が死んだ要因に数えられる。憎んでいい存在だ。

 立ち去ろうとしたが、俺の後ろ袖をキュッと掴まれる感触が。ミーシャが掴んで止めているのだ。


 「お願いです…!カイダさんにはきちんとした謝罪とお礼がしたいのです。ちゃんと……お話をしておきたいのです!」


 振りほどこうと思えば簡単に出来るわけだが、ミーシャからは必死さが何となく伝わってくる。はぁ……めんどいな~。何をそんなに必死になって俺に関わろうとするのか。鬱陶しいから投げ飛ばそうかなぁ、クズ国王のところまで。


 「コウガさん、その……ミーシャ王女の要望に応えていただけないでしょうか」

 「えぇ……何で?」

 「この方なら、色々教えても大丈夫かと。ミーシャ様は軍略家だけでなく政治面でも優れた才がおありです。何より……失礼になりますが、ミーシャ様はカドゥラ国王やマルス王子と違って、信用出来るお方だと思うんです」


 本当に失礼になる発言をしたクィン。しかしミーシャがクィンの言葉に不快感を示すことはなかった。

 それにクィンの言うことには……まぁ、同感なんだよな…。

 ミーシャからは悪意が一切感じられない。彼女は最初からそうだった。彼女だけは俺を見下したりも罵ったりもしなかった。対等に見てくれてる。会話に誘ってきた。クズ国王とクソ王子とはえらい違いだ。俺にとってこの国の良心とも言える存在が、彼女だ。


 「…………会わせたい人ってのは、誰だ?」


 ミーシャとクィンに見つめられ続けた俺は、溜息をついてミーシャに問いかける。


 「私のお母様……この国の王妃であるお方です」


 そういえば会ったことないな。いないと思ってたが、いたんだそんな奴が。

 しかしどうするかね。ミーシャに付き合っても俺に得はなさそうなんだが。せいぜい金をふんだくることくらいしか出来ねーかもな。それにミーシャはこうしてずっと下手に出てお願いしにきてる。年下の少女が…だ。

 …………俺がどうなったかくらいは、教えておくか。


 というわけで、ミーシャと密会することになった。


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