「なあ、この大陸で何が起こってたのか、知ってるか?」
「え……そ、そうだわ!今朝…船での移動中で国王様から知らせが届いたの。ここに災害レベルのモンストールがたくさん出現して、ドラグニア王国にもそれらが侵攻してきているって!だから途中から急いで戻って来て―――」
「なるほど、そこは知っていたのか。良いか藤原、よく聞け。そいつらはもう全部いなくなった。この地に敵はもういない、一体もな」
「え……そ、そうなの?」
「はい、アルマー大陸の各地に発生したモンストールの群れは全て殲滅しました。主にコウガさんのお陰です。
そして私は、サント王国の兵士団副団長を務めております、クィン・ローガンと申します」
藤原の言葉にクィンが丁寧に答える。ついでに自己紹介もした。アレンも少し前に出て簡単な自己紹介をしていた。
俺のお陰で、という部分を聞き取った藤原はビックリした様子だ。まあそこについても“何も知らない”から無理もないか。
「そうだな……いちいち分けて説明するのもめんどいから、合流させてから全部まとめて説明するか。こっちだ、ついてこい」
そう言って背を向けて来た道を行く。藤原は色んな要因(モンストールのこと、俺のことなど)に戸惑いながらも後を追ってきた。
「コウガさん、あの方もコウガさんと同じ……」
「ああ。藤原美羽、異世界召喚で一緒に来た奴だ。お前が今まで見てきた異世界人たちにとっては先生って立場の人間だ。年はたぶんクィンと同じくらいだな」
道中クィンの質問に答えてやる。クィンは時々藤原をちらちらと見ていた。藤原もまたクィンとアレンに気になるって感じの視線を向けていた。
そしてミーシャやセンたちがいる場所に戻ってくる。
「これは………どういう、こと……………?」
藤原が最初に愕然とした要素は、形も影も無くなった王宮の跡地を目にしたことだ。彼女にとっては遠征前はここには立派な王宮が建っていたはずだった。それが今ではただの瓦礫の山となってしまっているのだから、愕然とするのも無理ない。
「フジワラさん!ご無事で戻って来られて何よりです!」
「ミーシャ、様…。それに貴方は、シャルネ王妃、ですか?」
駆け寄ってきたミーシャに呆然とした目を向ける。シャルネ王妃も彼女にお辞儀をして挨拶する。
「ミーシャ様……王宮は、ドラグニア王国はいったいどうなってしまったのですか…?」
藤原の問いかけに、二人は悲しげに俯くことしか出来ない。
「ドラグニア王国は見ての通り、滅亡した。国王と王子が惨殺されて王宮が破壊されたことでな。それをやった奴は何とか退けたけどな」
代わりに俺が答えてやる。藤原は首を錆が生じた機械のように動かして俺を見る。
「甲斐田君………クラスのみんな、は……?」
ようやくその質問がきた。俺は躊躇うことなく淡々とその事実を告げる。
「あんたと、あんたとは別の国へ遠征任務へ行った5人のクラスの奴以外の異世界召喚組…3年7組の生徒29人は、全員死んだ。Sランクモンストールどもに殺された。今ここにいる日本人は俺と、あんただけだ」
「―――――」
藤原は時が止まったかのように立ち尽くす。俺の声ははっきり聞き取れたはずだ。聞こえた上でその反応なのだろう。ミーシャとクィンはそんな藤原を悲しげに見つめている。
「あとな、もう一人死んだ奴がいる………俺だ」
「………!?」
ようやく藤原が動く。顔色が悪くなって見える。
「そう、俺はあの最初の実戦訓練で、逃げ遅れたことで生贄としてモンストールごと地底へ落とされて、そこで力尽きて死んだんだ。あんたらに見捨てられた俺はあの時確かに死んだんだ。今の俺は動く死体ってやつだ」
それを聞いた藤原はとうとう両膝を地につける。目からは光を失い、次第に体を震わせる。
「王国が滅んでいた………甲斐田君は死んで、いた……………ここに残っていたクラスのみんな、は全員……………………………………………………」
うわごとのように呟き項垂れる。そして今度は両手で頭を塞ぐように当てて、慟哭した。
「あ、あああああ、ああああああああああ……………あああああああああああああああ………………………………………………………………っ」
俺も、誰も、そんな藤原に声をかけることはなかった。俺以外は皆、彼女を悲痛な目で見ていた。
俺から聞かされた内容はどれも、藤原美羽にとって残酷な事実だった。