アルマー大陸の港区域に行くと、そこには人も魔族も誰もいなかった。先日のモンストールの群れの侵攻から逃げ出したことが原因だろう。よっぽど慌てていたのか、商品の船もいくつかそのままでいる。
このまま借りパクしようとしたが藤原に止められたので、金を置いて十数人は乗せられる船を購入した。
俺、アレン、セン、ガーデル、ルマンド、ギルス、そして藤原。うーん、旅メンバーにしては多いなやっぱ。俺はゾンビだから食う物には困らないから平気だが、他の皆はそうはいかない。毎度宿と食べ物に気を配らなければならない。
「あんた、お金の持ちようはどうなんだ?アレンはそれなりにはあるから問題無いが。この先の旅がどれだけ続くかは不明な以上、蓄えが無いとキツいぞ?」
「それなら問題無いわ。ドラグニア王国からも任務で滞在していたハーベスタン王国からもかなり支給されたから当面お金の心配は無いわ。他の皆の為にも使うだけの分もあるし。………それより」
藤原は少し寂しそうな顔を向ける。
「その、私の呼び方…。あんたって言うのはちょっと距離を感じるなぁ。せめてまた“先生”って呼んでくれない?」
「………先生、ね。俺にとってクラスの連中とは縁を切ったつもりだ。もちろんあんたもその一人だ」
「甲斐田君…」
「でも今はあんたは旅の同行者だ。他人ではない。だからまぁ……藤原でどうだ?」
「苗字呼び捨てかぁ…。もう先生って呼んでくれないんだね」
「………俺はもう3年7組の生徒じゃねーから」
それきり藤原との会話は途切れ、アレンと話しながら海を眺めていた。
航海途中(船の速度に藤原は驚嘆していた)はやっぱり魔物やモンストールが出現して襲い掛かってきたので戦闘もあった。その際に藤原の実力を測ってみた。
「―――“
藤原が持つ魔法杖(彼女の場合、回復魔法の杖とも言う)から濃密な魔力で生じた炎熱と光の複合魔法が放たれ、モンストールを数体同時に灰にして消した。
「ミワの魔法の威力…凄い。なんて高い魔力なの!?」
「確か彼女は回復術師だったよな?どうなってんだ?」
「バリバリ魔術師じゃんか!なのに回復術師!?」
センとガーデルとギルスが藤原の魔法攻撃を見て仰天していた。
「凄いね、コウガの先生だったミワは。魔法合戦ならルマンドといい勝負できそう」
「そうだね…。思わぬライバルの登場かな。頼もしくもあるけど」
アレンとルマンドも藤原を高く評価していた。
「さすがは異世界召喚された中の年長者。ヒーラー枠に留まらず主戦力にもなれてる。アレンたちも褒めてるぞ」
「年長者って言い方なんか嫌だなぁ。私まだ新卒の歳なんだよ?」
そんな感じで、Aランクの敵が出てこようと難無く撃退して船を進めていく。
戦闘を挟んだことで緊張やシリアス空気が解けたのか、藤原は俺にやたら話しかけてきた。主に自分がどんな敵と戦ってきたか、どんな固有技能を得たかを、こっちが質問したわけでもないのにたくさん喋ってきた。
さらには何故か俺の恋愛事情についてたくさん質問してきた。クィンとは何も起こらなかったかとか、ミーシャについてどう思っているか、さらには何故か高園縁佳についてまで聞いてきた。
話を聞いたアレンが自分が俺の一番だと主張して乱入してきたものだから話が大きくなってしまった。アレンのことを聞いた藤原が何か色めき立ってきたところでめんどくさくなった俺は彼女から離れた。
そんなこんなで、日が沈む前にはオリバー大陸に到着して陸地を渡り、夜にはハーベスタン王国に入国した。
藤原が先頭に立って門番に話しかけると、門番は彼女に敬礼で挨拶をして、俺たちの入国を許可してくれる。
どうやら藤原は先の滞在任務でハーベスタンでは有名人となっているそうだ。顔パスで入国出来るくらいに。
ハーベスタン王国。この国はドラグニアやサント、イードといった他の大国と比べて見た目が変わっていた。国へ入る為の門を起点に堅牢な石壁がぐるりと展開されていて、上には東京ドームの屋根のような天井が造られており、この国を包むような形となっている。こんな造りじゃ洗濯物が乾きにくいだろうなぁ。人間だって日光を浴びないと不健康になるって言うし。
何でこんな造りなのかと呟くと、藤原が聞いた話だと三年程前からモンストールの侵攻を防ぐ手段としてこの国には「魔力障壁」が纏った石壁が設置されるようになったとか。他の大国と比べてここハーベスタン王国はモンストールの被害がいちばん深刻だったのが原因だからそうだ。
「まるで要塞の国だな。よほど追い詰められていることが分かる。人族の大国の中でここがいちばん深刻な問題を抱えている…か」
「私も同じことを思ってたわ。けど、数日前に私が国周辺のモンストールを全て討伐したから、今は平和な方、だと思うわ…」
「平和、ね…」