「藤原あああああ!!」
藤原の奴、俺に
ちくしょう!学校で雑談してた時、彼女にラノベ知識なんか教えるんじゃなかった!絶対ファンタジー要素を思い出して創りやがったな!?
つーかマジでラノベとか読んでたのか?俺の影響で?くそっ、気になるが今はそれどころじゃない。カミラの話によると、今後は俺やモンストールども対策としてさらに多くの「聖水」が作られることになるだろう。あれって魔人族にも有効なのかな?
色々気になるが全て後回しだ。このまま行くと足元掬われる羽目になる。このまま浸かってれば体が溶けて動かなくなる。その隙に捕らえられてはたまらない。その場で思い切り跳ぶ。全力で跳んだので地上からさらに数百mは跳んだ。
ひとまずは第一の罠を突破した。風と重力の魔法を使って上空に浮かびながら思案する。
今までに無い戦い方をする敵だ。入念にこちらの対策を練って、罠を敷いて俺を嵌めにくる。単純な武力勝負だと分が悪いと予め予測していたあいつらは、頭をフルに使い、弱点を的確に突きにくる。
力任せできたモンストールや魔物、
すると今度は頭上から無数の矢が降り注いでくる。こんなものいくら放ったって効果が無い表示しか出ねーっての。そう思いながら矢の雨を平然と歩いて弓兵どもを叩きに行こうすると、体からまたも煙が上がった。
「まさか、この矢にも!?」
この矢全てに「聖水」塗っているようだな。今も降り続けている矢にも全部聖水付きのようだ。流石の徹底ぶり!次から次へと初めてされる攻撃ばかりだよ。
矢を抜いて、急いで矢の雨から避難する。が―――
「ッ!また落とし穴ぁ!?」
矢の包囲網から抜けた先にはまた落とし穴が。これは……前もって作ったやつじゃないな。ついさっき即席でつくったみたいだ。じゃなきゃ味方が落ちるだろうからな。
俺が穴に落ちたと同時に、兵士どもが水や土魔法で大量の水や土砂を落としてきた。生き埋めにするつもりらしい。そして降り注いでくる水と土砂にも……やっぱり「聖水」付きだったー!体がシュウシュウと鳴って煙が出ている。
地中に潜ったまま、土を思い切り蹴って真横に跳んで、そこから真上に浮上。二回目の落とし穴トラップを破る。
と、俺の目の前に手榴弾が飛んできて直後爆発。破片とともにこれまた聖水が出てきて全身にヒット!立て続けに聖水を浴びたせいで俺の体はもうぐちゃぐちゃだ。まぁ「自動高速再生」で元に戻るのだが……って普段より再生が遅い?
脳のリミッターを外し過ぎると反動で再生に時間がかかることは知ってるが、今日はまだ一度も使っていない。あれ以外で再生が遅くされる要素ってあったのか?
……ああ、そうか。これも「聖水」の仕業か。まさか俺の固有技能にまで干渉してくるとは。完全に意表を突かれたよ。
上空に視線を感じ、見上げるとそこに鳥型の召喚獣に乗ってこちらを見下ろすカミラの姿が。ここで仕留められたと思っていたのか、若干焦りが見えた気がする。
「ここまでやってまだ捕らえられませんか…。再生機能もあるようで、本当に厄介で困難ですね」
カミラは驚嘆が混じった声で俺に言葉をかける。だがまだ万策尽きたってわけではないようだ。それよりも気になってることがある。上空のカミラに問う。
「さっきの突撃といい、矢の雨の先にあった落とし穴といい、そこから脱出した直後の手榴弾。俺の行動に合わせてことごとく仕掛けてやがった。まるで俺の動きを予め予測していたようだった。そこのところどうなんだ?」
俺の問いにカミラは簡単な答えです、と答えを述べる。
「私の固有技能『未来完全予測』。対象の未来の行動を数秒単位から分・時間それぞれに亘って予測できるものです。対象の人数とその行動時間帯が少なく短いほど予測できるものが増えるのです。
例えば行動の他に、対象の思考や心理さえも予測できるといった具合に。今はあなた一人に発現させているので、今言ったことが可能になっています。」
おいおーい。それめっちゃヤバい固有技能じゃないか?こんなん作戦立てる意味全く無いじゃん。全部筒抜けになるんだから。だから的確に落とし穴や爆弾を仕掛けられたのか。
しかもあの女にはずば抜けた策謀をも展開してくるとこれほど恐ろしいことは無い。エーレを人間にしたような奴だな。
こんな奴がいれば、大した武力差が無ければどんな戦争にでも勝てる。敵にするとヤバい奴だ。幸い今の敵どもは、あの程度のものだからまだ余裕あるけど。
もし魔人族にあんな奴がいれば……俺は確実に負けるだろう…!
そう思ったからか、次の言葉が口から勝手に出てきた。
「スゲェよテメーは。恐ろしく策謀に長けた女だ、カミラ・グレッド!こんなにも兵士どもを上手く動かして俺をこうやって追い詰めているのだから。
戦えない身でありながら、たくさん努力してそうとう場数踏んでそこまで上ってきたんだろ?認めるよ。テメーは世界トップの軍略家だって!」
素直に、彼女を評価していた。言わずにはいられなかった。
「……!!」
俺の唐突な高評価発言にカミラは少し戸惑いの反応を見せる。戦いの最中でこう見降ろされてたら普通、ふざけるな!だの、降りてこい!だの、見下してんじゃねぇ!だのと怨嗟の言葉がかけられるのだろうから、俺みたいに評価する言葉をかけられることに慣れていないのだろう。まぁどうでもいいが。
「つーかさっきから“聖水”思い切り使ってね?俺が消滅するとか考えてないわけ?」
「………あなたはSランク冒険者。これくらいの武装は必要だと考えていますしあなたもこれくらいで消えることもないと予測してますから。実際その通りでしたし」
どこか照れた顔でカミラはそう答える。褒められ慣れてないタイプか?
それにしてもこれは手強い。生前の俺だったら簡単に詰んでた。カミラ・グレッド、まさに異世界の孔明だ。
「普通の人間だったら、この辺りで倒されていただろう…普通なら、な」
だが今テメーらが相手しているのは、世界そのものを滅ぼし得る力を持ったチートゾンビ!どれだけ策を張り巡らせても、超圧倒的武力でそれらをぶっ潰す!
テメーらにとって最悪に相性が悪いもの、それは「理不尽な力」だ。それを、今から見せてやろう。
どんなに頭のキレが良くこちらの行動思考心理が読めても、埋めることが出来ないどうしようもないチート級の力を!
そして俺は、
「そんな、馬鹿な………っ」
「はいおしまーい」
圧倒的理不尽な力によってカミラが率いる兵士団をねじ伏せたのだった。
*
一応兵士どもは全員殺さず済ませている。奴らも殺す気はなく俺を捕らえるつもりできていたからな。まあこっちは「聖水」で消されかけたんだけどな…。
「あんな力…聞いてない!次元が違い過ぎる。行動が読めてもどうにもならない……力が強過ぎる。この兵士団の質や量では対応出来ない……!」
カミラは冷静さを失い、うわ言のように呟いている。全くその通り、次元が違い過ぎている。作戦・対策・知略どうこうが通用しない理不尽な相手。
SF映画でよく出る地球侵略モノのそれと同じだ。敵は理不尽級に強い。それに対抗するには、ずば抜けた知能と柔軟に対応できる策謀知略、そしてそれを補う武力だ。フィクション映画ではそれで敵をうまく撃退してきたが、ここは現実(俺にとってはこの世界もフィクションそのものだが)で、相手はフィクションを凌駕する理不尽さを持つチート人間。
所詮は虫けら1匹と巨象との綱引き勝負と同然。勝てる要素など無い。そいつが主人公でない限り、勝つ要素は無い。
今回は勝てた……俺が、主人公だからだ!
へたり込んでいるカミラに近づいて見下ろす。彼女は俺を見ると恐怖に震えだす。
「俺の戦力を、見誤り過ぎたな。テメーがどんなにこちらの意表を突く軍略を発揮しても、こっちとしては‟“驚かされた!”で終わりだ。それくらいに、武力に差があり過ぎたんだ。とりあえずせっかくだから、俺のステータス見せとくか。ほら」
カミラの目線と同じ高さになるようしゃがんで彼女にステータスプレートを見せる。
「………こんなの、どうしようもないじゃないですか…。どんなに軍略の練りに長けていても、武力が足らなすぎる。初めから詰んでいたのですね…。どれだけ策を攻してもこの結末は確定されていたということだったのですね…」
「まあそういうことだな。あんたは凄いよ。けど、強くはなかった。だから負けた。それだけだ」
プレートを懐にしまって立ち上がって俺は冷たく吐き捨てる。
「馬鹿、な……!我々兵士団の総力を以てして、奴には全く敵わないというのか…!」
狼狽した声を上げてここに来たのは、謁見部屋で俺に特攻してきた奴だ。確かこいつが兵士団団長だったか。見ると「聖水」が付与されている剣を手にしているが俺に攻撃する気配は全く無い。すっかり戦意を喪失してしまっている。
さぁて、こいつらはどうするかねぇ?