目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

「敵対してくるならやるしかない」

 デカい。

 突如現れた化け物どもを見て思ったのがそれだ。以前の戦いで見たGランクモンストールでさえ10mはある大きささだったのだが、今いるこの化け物どもはあいつらを上回るデカさだ。まずSランクと見て間違いないだろう。体から瘴気も出ていて不気味さがさらに増している。

 何故突然、地上に出てきたのか?災害レベルのモンストールどもは基本、地底を主に活動地としていて地上に出ることはまずない。先日Sランクモンストールが数体ドラグニアに現れたが、あれは魔人ザイートが引き連れてきたからであって自発的に出て来たわけではない。


 「ん?あのモンストールは……」

 「確か、魔人族の長を連れて逃げた……!」


 数体いるSランクモンストールの中に見覚えがある……というか、先日出くわしたモンストールがいた。アレンが言った通り、奴は先日手負いのザイートを回収して俺たちから逃げ去ったモンストールだ。

 デカい口と無数の足をもった、山椒魚とムカデを合成したような化け物。今ちゃんと見てみるとやっぱり気持ち悪い形してるな。


 「こいつがいるってことは……もしかしたらザイートの野郎が命じて寄越した可能性があるな。本格的にこの世界を潰しにきてるのかも」

 「そうなんだ……魔人族はいないね」

 「みたいだな。今回はモンストールの群れだけだ。それも――」


 さらに地鳴りがして地震も発生して、国の中と国の外からいくつもの生体(というか死体?)反応を感知した。予想通り、地上に大量のモンストールが出現した。その数は――


 「百数体規模の群れがな……!」


 中からSランクモンストールが、外からはBランクからGランクのモンストールが出現した。その総数は百体を超えている。今まで遭遇した群れの規模はぶっちぎりの最多だ。


 「馬鹿な!?“魔力障壁”は地下にも幾重にして展開していたというのに、それらを破ってここに現れたというのか!?」


 なるほど、地下にも障壁を張ってたのか。けど甘いな。「魔力防障壁」くらいは展開しないとSランク級の敵を防ぐのは無理だ。防衛力が不足していたな。

 つまり、今国内に侵入しているモンストールはSランク数体のみ、外から侵入出来ずにいるモンストールはSランク以外全て。その数は90体以上。十分脅威だ。


 「何で……何でこんな規模の群れがここに……っ」


 カミラは顔を真っ青にさせて悪夢を思わせるモンストールの群れを見る。ニッズ国王も平静さを欠いて呆然とその光景を見ている。カミラや国王の反応はまだマシだ。他の王族や貴族なんかは完全にパニックに陥って何か喚いている様だ。兵士団も団長のトッポ以外の兵士は皆戦意を喪失しかけていた。

 うーん、これはドラグニアよりも戦力が下だな。さっきの兵士団との小競り合いもそうだったが、あれならドラグニアの方が質はまだ高かった。

 要塞国とはいっても、外には強くても中は弱いんじゃあ話にならない。まあ兵士団を弱くさせてしまったのは、俺がさっき兵士団の鼻っ柱を折ってしまったせいなんだけども。


 「フ、フジワラ殿……。無理は承知で言う、あの群れをどうにかしてもらえないだろうか?もちろん兵士団も総力挙げて出動させる。彼らと連携してどうにか……」

 「もちろんそうするつもりです。ですが………Sランクモンストールが数体、この規模だと流石には……」

 「ぐ、う………そうであるな」


 藤原は申し訳なさそうに国王にそう言う。国王はやや絶望した顔をするようになった。国王がそんな顔しちゃおしまいだなぁ。


 「く、そ……止むを得まい。この地を捨てて群れから逃げるしか…!民や冒険者たちに大至急このことを……」

 「私たちだけでは厳しいですが、ここにいる甲斐田君たちがもし協力してくれるなら……この状況何とかなると思います…!」


 藤原は俺に視線を寄越す。つられて国王たちも俺に視線を寄越してくる。


 「おいおい、俺も戦えと?これってハーベスタン王国の問題であって俺たちは無関係なんじゃね?」


 俺はめんどくさいと言わんばかりに参戦を拒否する。


 「甲斐田君……国王様たちを見捨てると言うの?」

 「だってこいつらは俺を捕縛しようとしたじゃん。言わば敵みたいなもんだ。そんな奴らの為に戦えって言われてもなぁ。モチベなんか全く湧かないし、むしろさっさとここから消えようって思ってるくらいだし」

 「そんな……!」


 藤原は悲しそうな顔をする。国王たちははっきりと絶望顔をした。

 あいつら全員と戦うこと自体は簡単だ。ただこいつらの為に戦うのが嫌だってだけの話。そういうことなら俺はアレンたちを連れてここからとっとと抜け出ることにする。

 そう考えていたその時――


 「ギャオオオオオオオオオオ!!」


 ドシドシとデカい音を立てながら、顔がいくつもある牛と豚の合成モンストールが俺に襲いかかってきた。いくつもの顔が大口を開けて俺に突進してきた。皆は既に全員俺から離れて攻撃から避難している。


 「んだよ、何だテメーはいきなり」


 俺は左腕を「身体武装硬化」させて魔力も纏わせる。


 “絶拳”


 ボォン!!


 さっと簡易的な「連繋稼働」を発揮して渾身の左ストレートを放って、モンストールを返り討ちにしてやった。モンストールの胴体に大きな風穴が空いて、力なく倒れ伏した。そこに炎熱魔法を放って灰にして消し去る。はい終了。

 と思ったら次は胴体が蛇で顔が蛙の巨大合成モンストールが、ゴム弾のような舌を伸ばして攻撃してきた。

 それに対し俺は左腕を日本刀に変えて、迫り来る舌をズバンと綺麗に斬ってやった。

 しかし斬ったそばから舌が再生されて、俺をぐるぐる巻きに縛る。俺を縛った舌を勢いよく戻して、蛇蛙は俺を丸呑みにした。体内からは強い酸があっという間に発生して俺を溶かそうとする。


 “魔力大爆発だいばくはつ


 ドオオオオオオオオ―――


 対する俺は…自爆した。ゾンビだから滅ぶことがない俺だから躊躇うことなく使える攻撃だ。木端微塵になって死んだ蛇蛙から出てきた俺のところに、さらにSランクモンストールが襲ってきた。

 しつこい襲撃にイラついた俺は、敵が何なのか確認することなく速攻で返り討ちにした。脳のリミッターを1000%くらい一気に解除して殴って蹴って思い切り爆散させた。

 わずか三分程度で三体ものSランクモンストールを消した俺を、遠巻きながら藤原やカミラたちは唖然としていた。


 「………まあ、俺に敵意を向けて殺しにかかってくるってんなら、話は別になるけどな」


 つーか何で俺にばっか襲ってくるんだよ…………ああそうか。半端な屍族だから変に襲ってくるんだっけ。ザイートもそんなこと言ってたような。


 「甲斐田君、その力が……!」

 「ああ。死んでゾンビとなって、地底でたくさんのモンストールを喰らって経験値と固有技能を奪った結果がこれだ。あんたもこの力をちゃんと見るのは今日が初めてだったな」


 俺のところへ来た藤原にそう軽口をたたく。


 「甲斐田君、ニッズ国王様が言ってたわ。このモンストールの群れを撃退してくれれば、パルケ王国の国王への謁見に私たちを通してくれるって。だから、これは君が戦う理由になれるんじゃないかな?それに今の甲斐田君、無性に戦いたそうだって、アレンちゃんが言ってたよ?」

 「………アレンには敵わないなぁ。それにまあ、確かに手続き無しで亜人族の国王と話が出来るのも有りだな。アレンたちの為に…」


 藤原の言葉に俺は少し考えて、よしと決断する。


 「分かったよ、やりゃ良いんだろ?旅メンバー全員でこいつらを殲滅するぞ」

 「…!ええ、一緒に戦いましょう!!」


 藤原が嬉しそうに声を出したとほぼ同時にアレンたちも俺のところへ来た。全員戦う気満々だ。

 この国に来るまでの船旅を経て、全員レベルが10近く上がっている。ステータスも良い感じに伸びている。これならSランクモンストール一二体くらいには通用するだろう。彼女らにも戦わせるか。

 とはいえ今回はさすがに数が多い。ここは少し彼女の手を借りるとしよう。


 「カミラ・グレッド!テメーの力を貸せ!俺たちの頭脳になれ!」

 「え………?」


 こうして俺たちは過去最多のモンストールの群れと戦うことになった。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?