苦痛に歪んだ顔、しかしそこにはこれ以上ない怒りも見える。相手はブチ切れ寸前だ。
「き……さまぁ!」
「戦いはもう始まってるって言ったのはテメーだぞ。何呑気にくっちゃべろうとしてんだよばーか」
煽るのを止めない。こいつは短気な性格だとさっき分かったから、こうやって煽ってこっちのペースに乗せてやる。
「今、何をした?離れてるにもかかわらず、拳で殴られた感触がしたぞ」
「知りたいか?特別に教えてやるよ。嵐魔法で――」
――と続きを言おうとしたころに、ミノウの触手が眼前に迫っていた。
「死ねぇ!! “
そして間髪入れずに触手が大爆発した。その威力はSランクの魔物でも即死するくらいと見た。
「馬鹿が!誰が教えて欲しいと言ったか!この俺を相手に余裕かましてるから死ぬんだ!」
ミノウは勝った気になって俺を罵りだす。馬鹿な奴だな。俺は……
「誰が死んだって?」
「何……?」
全くの無傷だってのに。「未来予知」で奴がああするって分かってたから余裕で対処できたし。というかそれ以前に、
「俺がさっきやったことをテメーがやろうとしてたことくらい簡単に分かるっての。同じ手が通用するわけねーだろ。テメー頭悪いな?」
「…………ッッ」
ミノウの顔が怒りで赤くなった。あれはもう切れたな。
「…………。“
ミノウは無言のまま触手を背中から瞬時に生やす。それら全てが俺に向かって一斉に魔法攻撃を放ってきた。
炎、嵐、雷、氷、闇……10本からバラバラの属性魔法が飛んでくる。俺じゃなかったらきっと誰もがこれでジ・エンドだったろうな。
“拒絶”
バァアアア……ン
10にものぼる魔法攻撃全てを、強力な重力魔法で全て弾いてやった。魔法攻撃は全て空に向かって飛んでいった。
「馬鹿、な……!?」
ミノウは自分の攻撃を容易く破られたことに動揺する。しかしすぐに気を取り直して新たな触手を生やして今度はそれらで直接攻撃しにきた。十数本あるその触手には大地魔法がコーティングされており鋼鉄の鞭と化している。
“
四方から一斉に俺の命を刈り取りにきた鋼鉄の触手を、
“廻烈”
――シパパパパパ……ッ
猛回転で繰り出した回転蹴りで全て破壊した。足先を刃武装させたので触手はバラバラに切断されている。
「ぐ、ぬ!?」
またも自身の攻撃が簡単に破られたことに動揺する。
「何故だ……!?魔人族でもない貴様如きが、俺の攻撃を……!」
「あー、あのさぁ………」
俺はミノウのステータスを「鑑定」する。そして確信する。
ミノウ 120才 魔人族 レベル200
職業 戦士
体力 150000
攻撃 229000
防御 201000
魔力 271000
魔防 205900
速さ 200900
固有技能 触手生成 怪力 瞬神速 気配感知 魔力防障壁 全属性魔法レベルⅩ
魔力光線全属性使用可 瘴気耐性 限定進化
「テメーじゃ俺に勝てねーわ。諦めろ」
俺の一言にミノウは目を見開く。口をわなわなと震わせる。
「な………」
背中から、さらには地面からも大量の触手を生やして殺気も放ってきた。
「舐めてんじゃねええぇええええ!!」
怒号とともに触手が魔法攻撃と鞭撃を同時に放ってきた。
「あーあームキになっちゃって。じゃあ相手してやるよ」
*
センたちと途中で別れたスーロンとキシリトとソーン。彼女たちは今、十数体ものモンストールの群れと戦っている。
“
スーロンの全身が大地魔法で生成した岩石で覆われていく。鎧と化した岩石はスーロンの身体能力を数倍に強化させる。
「ふっ!はあっ!!」
磨き上げた鬼族の拳闘術を存分に振るい、B~Aランクのモンストールを単独でいくつも討伐していく。
「…!Gランク」
続いてスーロンの前に現れたのは巨大な体躯の狼型のモンストール、Gランクだ。スーロンは一歩下がって構えをしっかりとる。
しかしその背後から別のモンストールが襲い掛かってきた。が……
“魔力光線”
そのモンストールの正面から赤い「魔力光線」が飛び、モンストールを射抜いた。
「後ろはやらせない」
キシリトだ。3人の中で魔力が最も高い。「魔力光線」をくらったモンストールもGランクだ。キシリトは両手から魔法攻撃を放つ準備をとる。
先に仕掛けたのはスーロンだ。前足を武器に突撃しにかかるモンストールに弓なりに引いた右拳を全力で放つ。
“
スーロンの拳はモンストールの胴体に正確に命中し、内臓を破壊する。モンストールの口から夥しい血が噴き出て苦悶の叫びを上げる。
モンストールが反撃に出ようとするもそこにスーロンの姿はない。彼女は既にモンストールの真上に跳んでいた。
“
両拳を岩石で肥大化させて思い切り振り下ろした一撃。モンストールの頭部は粉々に砕けて討伐された。
「一体討った!そっちは!?」
「まだだ!けど問題無い!」
キシリトは返事しながらモンストールに向かって複合魔法を放つ。
“
両手から黒い炎の魔力弾がいくつも放たれる。モンストールの全身を余すところなく撃ち抜く。
「やっぱりまだ死なないか。Gランクはタフだな!けど、もう終わりだ!」
“
一息入れる間もなくキシリトは二つ目の複合魔法を放った。全身に闇の力を帯びた雷撃がモンストールを蹂躙していく。モンストールは断末魔の叫びを上げた後絶命した。
「よし、倒した!けどまだ数体残ってるよな……」
キシリトは「限定進化」を発動して一気に片付けようと考えたが、
「いや、あと一体だけだよ兄ちゃん!私がほとんど討伐したから!」
既に「限定進化」したソーンがキシリトの隣に立つ。キシリトが目を移すとAランクのモンストールの死骸がいくつもあった。ソーンが一人で全て討伐した跡だ。
「無茶してないか?」
「大丈夫!まだいけるよ!」
「凄いわね、数日前よりさらに強くなってるんじゃない?才能って怖いわね」
スーロンが感心しきった様子で話しかける。ソーンは3人の中では実力はまだ下の方だが、彼女の潜在能力は二人を凌駕している。成長速度も尋常ではない。
「じゃあ最後はあいつだけか」
キシリトが前に出て魔法攻撃を放つ。最後のモンストール(見た目は虎に近い)は難無くそれを破ってみせる。続いて「魔法光線」を撃つも、同じく「魔法光線」を撃って対抗する。わずかにモンストールが競り勝ち、3人はギリギリで躱す。
「こいつ……Sランクに近いGランクだ。進化しないと厳しいな」
「じゃあ本気出して早く倒しましょう!行くよ!」
スーロンの言葉に頷いたキシリトは彼女と同時に「限定進化」を発動する。二人とも体が一回り大きくなる。スーロンの体はバレーボール選手ですら見上げてしまう程の身長になりモデルも憧れる程のスラッとした体型と化す。しかしその中には膨大な力を宿している。
「よし……とっ」
準備を終えたスーロンは瞬時にモンストールの懐へ潜りこんで攻撃を繰り出す。
“銅鑼撃”
内臓にダメージを与える打撃技がきれいに入る。日々の鍛錬であらゆる技を数百本繰り返して行っているスーロンの技はどれも超一級品だ。
スーロンの攻撃を口火に二人も一斉にかかる。
「はぃい!!」
ソーンが螺旋状の水を纏った拳による正拳突きを繰り出す。「魔法拳闘」とも呼ばれるこの技はソーンの得意技だ。
モンストールは獣の身体能力を十二分に活かしてソーンの拳を躱す。柔軟性が利いた動きで体勢を即座に整えて、ソーンに殺人クローをぶつける。
しかしモンストールの真下から地面がもの凄い勢いで盛り上がり攻撃が外される。スーロンの大地魔法で地面を隆起させたのだ。
「こういうギミック技も得意なのよね!キシリト!」
スーロンの合図に応えるべくキシリトが上にいるモンストールに向かって雷の「魔力光線」を思い切り撃つ。モンストールは「魔力防障壁」で防いでみせる。しかしバランスを崩して落下してしまう。スーロンがわざと地面を脆くさせたのだ。
「兄ちゃん、風!!」
「おう!」
ソーンに応じてキシリトは風を発生させてソーンを上へ飛ばす。上昇と加速が加わったソーンはその勢いのままモンストールの眼前に接近し、その顔面に渾身の蹴り技を放つ。
“
踵に全体重を乗せた全身全霊の蹴りがモロに入る。骨が砕ける音が鳴り響く。
顔面から夥しい血を流すモンストールだが、まだ絶命はしていない。咆哮を上げながら両の前足でソーンを拘束し、彼女を下にして急降下する。身じろぎするも拘束から抜け出せないソーンは、思い切り地面に叩きつけられる。
さらに追い打ちをかけるべくモンストールは魔力を纏った爪で容赦無くソーンを抉ろうとする。
が、その寸前でモンストールの動きが鈍くなる。正確に言えば力が抜けたと言うべきか。
「私に、触れるな。化け物!!」
ダメージを負っていたはずのソーンは力が漲った様子で拘束から抜け出す。彼女の拳からは淡い光が漏れ出ていた。
「
吸血をくらったモンストールはもう瀕死状態だ。あとは、3人の一斉攻撃でモンストールは討伐された。
「これで、ここに現れたモンストールは全部終わったね」
「ええ。アレンたちのところへ行きましょう。あっちの方が強い敵がたくさんいるはずだから」
3人とも「限定進化」を解くことなく次の戦場へ全速力で駆けた。