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「vs“幹部”」

 「―――つまり、あの気持ち悪い瘴気を噴き出している獣の連中は、半モンストール化してると言っていい」


 俺はクィンたちに黒い瘴気を纏った獣人族どもの正体を教える。3人ともショックを受けたり生理的嫌悪をもよおしたりしている。分かる、俺も気持ち悪いと思う。

 モンストールの力を取り込んでいる獣人どもの固有技能には「超生命体力」 「瘴気耐性」、そして 「不死レベル1」があった。


 (不死………“レベル1”か)


 「不死レベル」は俺にも発現している。そのレベルは最大の3だ。ここまでいくと本物の不死身……ゾンビになることができるみたいだ。

 いわばこの獣人どもは俺の下位互換。殺せばちゃんと死ぬただの化け物だ。


 「まあ要は、ちょぉぉっと頑丈で中々死なない奴になった集団だ。

 が、こいつらの強さはせいぜい上位レベル程度。お前らがちょい本気で戦えばどうにでもなる。ただし、瘴気を纏ってる奴らはちゃんと殺さなきゃだが」


 襲い掛かってくる獣人の攻撃を躱し、魔法攻撃で返り討ちにする藤原とクィン。その威力はもう容赦などなかった。


 「殺す覚悟はもうできたみたいだな。ところで、俺は必要か?」

 「私は大丈夫。クィンさんと組んで戦うから。だから甲斐田君は、縁佳ちゃんの援護をお願い」

 「俺が…?」

 「お ね が い ね」


 笑顔で圧をかけて、クィンとともに駆け出していく。俺の近くにちょうど高園が弓矢を構えている。


 「はぁ……」


 気乗りしない状態のまま、高園に「迷彩」を付与して彼女の姿を獣人どもから消してやる。


 「今のうちに“隠密”を発動しろ。それであいつらから完全に感知されなくなる」

 「か、甲斐田君……?」

 「さっきみたいに離れたところへ行ったらどうだ?テメーが力をもっと発揮できるのは遠距離からだろ?」


 獣人どもは高園を見失いきょろきょろ見回している。その様子を見た高園は獣人どもをかき分けて遠くに行こうとするが、数が多くて中々進めないでいる。


 「世話する気はなかったんだけどなー」


 そう愚痴りながら、高園に重力魔法と嵐魔法をかけて遠方へ一瞬で飛ばす。


 「ひゃ……!?」

 「そこからならいけるだろ。ほらさっさと射殺せ」


 高園はしばし俺に驚いていたが、すぐに狙撃態勢に入る。武器を狙撃銃に変えて魔力を循環させている。銃を構えたところで彼女は深く息をつく。


 (まだ……殺しを躊躇ってるか)


 と、思っていたが、高園の目には動揺も迷いも感じられなかった。魔力で輝く狙撃中の引き金を引いた―――


 “多連狙撃マルチショット


 銃口から幾多の魔力が込められた弾丸が放たれる。十……二十はある弾丸が不規則な軌道をえがきながら、標的となる獣人どもを正確に貫いた。


 「「「「「――――っ」」」」」


 しかも命中したのは全て別々の獣人で、さらにはそいつらの……頭を撃ち抜いていた。


 「「……!」」


 その光景に藤原とクィンは思わず注視する。この同時大量射殺を一人でやってのけた、元は女子高生だった高園の狙撃の腕と、人を殺す覚悟を決めた彼女自身に、二人はたいそう驚いていた。


 「それでいい。やればできるじゃねーか」


 俺は無表情な目でぽつりと呟いた。



                  *


 一方、鬼族と獣人戦士の幹部たちとの戦い―――


 「ば……か、な…!?」


 4人の幹部たちは血を流し、戦闘服もズタズタになり、砂や泥で汚れていた。全員既に「限定進化」形態になっており、その体は通常の倍程度大きくなり、力もSランクに近い。

 しかしそれでも彼らはズタボロになり膝を地につかせている。

 彼らの目線の先には、同じく「限定進化」を発動している鬼たちの姿があった。


 「テメーらがズタボロになってんな」

 「ざまぁないわね」

 「ペアを組んで戦ってるんだからこっちが圧倒的有利なのは当然なのにね」


 進化して体が一回り大きくなった鬼たちはまだまだ力を余している様子だ。傷もほとんど負っていない。


 「おかしい、そんなはずは!モンストールの力を取り込んで大幅にパワーアップした我らが!こんなことになるはずがあああ!?」


 ミノタウロスの獣人ブルゴが目を血走らせながら左右の手に持っている大きな金棒を振り回しながらセンとガーデルに突進する。


 スカッ 「ガッ…!?」


 しかしブルゴのGランクモンストールをも粉砕する金棒の二撃は空振りに終わる。


 「どこに金棒振ってるの?」


 誰もいない空間を凝視しているブルゴの両隣からセンとガーデルが武の構えをとっている。


 「お前は初めから私たちの“幻術”に嵌まっている。面白いくらいにね」

 「最初の私たちの“咆哮”をまともに受けた時点で、もう終わってんのよお前」


 二人は一斉に接近して、必殺の一撃を同時に放った。


 “銅鑼撃どらげき

 “弩蹴撃どしゅうげき


センの溜めが利いた拳の一撃が左側にきまり、ガーデルの大弓を思わせる蹴りの一撃が右側にきまる。皮膚を破り、頭蓋を砕き、その衝撃波がブルゴの脳を破壊した。


 「―――っ」


 頭から盛大に血を噴出させて、ブルゴは絶命した。




 「ぉぉおおおお!!」


 大熊ヒグマの獣人レイルの口から業火が吐き出される。さらに両腕を振るって高魔力がこもった嵐の刃も飛ばす。


 “獄炎槍ごくえんそう

 “圧縮風砲ブロックエアロ


 業火を黒い炎の槍が刺し貫き飲み込み、嵐の刃は風の塊の砲弾にかき消される。ギルスの炎とキシリトの風がそれぞれの攻撃を上回ったのだ。


 「ぐっ!? ガアアアアアアア!!」


 さっきから悉く魔法攻撃を破られているレイルは、全てをかなぐり捨てた「魔力光線」を二人に放つ。


 「ふっ―――」


 ギルスの前にキシリトが立ち、その手から同じく「魔力光線」を放つ。レイルの光線をあっという間に飲み込みかき消す。そのままレイルをも撃ち抜いた。


 「全身焼き焦げたくらいじゃ、死なないんだったよな?」


 黒焦げとなったレイル目がけてギルスは駆けて跳び上がる。レイルの真上から水魔法を放った。


 “豪水連弾ごうすいれんだん


 両手から純度100%の水の「魔力弾」を無数に撃ち放つ。集中豪雨のように降り注ぎ、レイルの全身をあっという間にミンチにする。さらに止めとして、闇属性の魔力を纏った腕を振るって、レイルの首を刎ねてそれをキシリトに飛ばす。

 既に攻撃のスタンバイをしていたキシリトは飛んできた頭部に「魔力光線」を撃って消し飛ばした。

 お互いのコンビネーションを讃え合うべく二人は拳を合わせて鳴らし合った。




 3対1の構図。大猿の獣人ケオナはスーロンと打ち合っている。しかし互角とはいえなかった。


 ドンッ 「ぐぉえ……っ」


 スーロンの蹴りがケオナの腹を刺して吹っ飛ばす。


 「技だけじゃなくて、力まで私に劣ってるじゃないの」


 しなやかな脚を伸ばしたスーロンは蔑んだ視線を飛ばしてケオナを貶める。吹っ飛んだケオナの先にはルマンドがいる。


 「っこのぉ!先にお前から…!」


 空中でも体を自在に動かすことが出来るケオナは即座にルマンドに武器である短剣を向けて斬りにかかる。


 ピタッッッ 「っ!?」


 ルマンドに接近する寸前、ケオナの全身が空中で張り付けられたかのように止まる。身動き出来ないケオナの手から短剣が落ちる。


 「やっぱりその剣、毒が塗ってあるのね。そんな危ないものを向けてしかもその汚れた身で私に近づかないでよ」


 よく見ると青黒く塗られている短剣を「神通力」で破壊するルマンド。ケオナを縛っている力も同じものだ。


 「こ……の………っ」

 「ソーン」

 「うん」


 ルマンドの合図を受けたソーンが、ケオナの背後から腰に引いた拳を正拳突きとして打った。


 “瞬突しゅんとつ


 「神速」と「金剛力」を掛け合わせた、まさに神速の一撃はケオナの後頭部を正確に打ち込み、脳に深刻なダメージを与えた。


 「ん……硬い。まだ殺せてない」

 「分かったわ。後は私が」


 ルマンドは普段からは思わせない冷酷な表情を浮かべて、「神通力」でケオナの全身を捻じ切り、脳も超能力パワーで破壊した。





 「お、おのれぇ……!!」


 「限定進化」を発動したことでGランクモンストールと並ぶ体躯を持ったゴリラの獣人ゴレッドは、頭や口、腕や脚から血を流して荒く息を吐く。体の至る所に骨折による腫れが生じている。

 満身創痍のゴレッドの前には、


 「…………………」


 アレンが格下を見る目で構えていた。

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