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「絶体絶命の連合国軍・魔族軍」2

 オリバー大陸―――



 「ケッ!ちょっと本気出したらすぐダメになりやがった。亜人族最強を誇る連中もこの程度か、つまらん...。

 終わりみてぇだからこの形態になる必要もねェよな...。そろそろ“ブチ切れる”のを止めよう.........かしら、ね☆」


 戦場の至る所に亜人族の精鋭戦士たちやハーベスタン王国の兵士たちの屍が転がっている。魔人族ネルギガルド一人によってつくられた惨状だ。


 「ぐ………ご、ぽっっ」

 「……!………!!」


 ダンクとディウルもその例外に漏れず、まだ生きているものの立ち上がる力さえほとんど残っていなかった。

 全身血まみれで体のあちこちが潰れて、死の淵に落ちてしまったディウルとダンクを見下しながら、「元の姿」と口調へと戻したネルギガルドはつまらなそうに愚痴をこぼし始める。


 「あ~あ。つまんな~~い!まあいいわ、そろそろどっちかの国でも滅ぼしに行こうかしら」


 全滅した亜人戦士や連合国軍兵士たちを一瞥してからネルギガルドは可笑しそうに嗤う。こうした残酷性こそが魔人族たらしめると、生き残った者たちは心底恐れ、絶望する。


 「ぐ......民には、手を出す、な......!俺、が許さん......っ」


 どうにか意識を繋いでいたディウルは、声を絞り出して嘆願に近い警告を告げる。


 「あらまだ生きてたの?馬鹿ねぇ......自分の国を守れない弱い王が、そんな言葉聞くと思ってるの?ザイート様の命で、パルケ王国もハーベスタン王国も滅ぼすわね☆」


 ネルギガルドの無慈悲な返事にディウルはただ止めろとしか言えないでいた。


 「―――どっちにも、貴様は断じて行かせんっっっ」


 ビュオオオ!!


 どうにか起き上がったダンクがノーモーションで渾身の一太刀をネルギガルドの胴体にくらわせようとする。


 ガッッ、


 「斬れ、ない……!?」

 「ふん、もう剣を硬化させることすらできてないじゃない。あっさり止められちゃったわよぉ!」


 ドスッ「―――ぎあ”......っ」


 最後の力を振り絞って放った一太刀も虚しく通用せず、ネルギガルドは止めとして爪先蹴りをダンクの胴体に突き刺した。


 「ダ……ダンク、ダンク……………ッ」


 腹を貫かれて力無く倒れるダンクを、ディウルは悲痛さを孕んだ声で何度も呼び掛ける。


 「さ、次は国王のアナタを葬ろうかしら☆」


 続いてネルギガルドはディウルを殺すべく無慈悲に拳を振るおうとする―――





 ラインハルツ王国―――



 「ぐ………ちく、しょおお―――」


 ズパ………ッ


 魔人族が何か恨み言を吐く前に、その体が両断されて絶命した。


 「―――――っはぁあ~~~~~」


 兵士団ラインハートは返り血がついた剣を振って血を弾き飛ばす。残心をとった後に、どっと疲れが押し寄せてきて明らかに疲弊した様子を見せる。そして体のあちこちから血を流してしまう。


 「ラインハート……!!」


 今にも倒れそうなラインハートのところにマリスが心配を孕んだ声を出して駆けつける。


 「………マリス、か。傷はもう大丈夫そうだな」

 「ええ。それより今はあなたの容態が優先よ!傷も体力も相当だけど、その……!」


 何よりも生命体力が……とは最後まで言わなかったマリス。彼女の後ろにも兵士たちが大勢いたからだ。彼らもラインハートを心配そうに見つめている。


 「魔人族軍は、もう全滅したか?」

 「ええ。あなたがさっき斬った魔人族が最後の主戦力だったわ。兵士や冒険者たちが残りの下位レベルの敵を一掃している。もう勝ったも同然よ」

 「そうか……。なら俺はもう休んでいいな。すまんが誰か体を預けて、くれ………」


 それだけ言い残すとラインハートは意識を手放した。大柄の兵士が彼を介抱してすぐさま治療院へ運んで行った。その傍らで、マリスは何かを感知したのを感じた。


 「マリスさん?どうかなさいましたか」


 一人の兵士が、海の遠くを見つめているマリスに問いかける。


 「…………気のせいかしら。何か、とてつもない存在が海を渡って行ったような――」



                  *


 各戦場はラインハルツ王国と鬼族の仮里を除く全てが絶体絶命に陥っていた。どの戦場地も魔人族による滅亡がもたらされようとしていた。

 美羽もクィンも縁佳もガビルもクラスメイトたちも竜人族も亜人族も、誰もが絶望し、死の淵に追いやられようとしていた………。






 しかし、そんな絶体絶命の状況を、ひっくり返す事態が起こる。


 それを為す者は―――



                  *


 「死ね、女兵士」


 薄い緑色の髪の切れ目をした魔人族がクィンに 風の刃を振り下ろそうとしたその時―――


 ガキィン!!


 「……………!?」

 「な、にぃ……!?」


 武装硬化させた腕でその刃を止めてみせる。




 「―――というわけで。俺、参上!!

 ってな」


 俺こと甲斐田皇雅、戦場に参戦!!

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