………やっぱりな。というかそうくるんじゃないかって、クィンから呼ばれた時点で予想してたよ。今日俺が各戦場へ飛び込んで救助していなければ全滅していた軍がさらに出ていただろうし。クィンもガビル国王もディウルも、他に今日死にかけていた奴が何人いたことか。
「それは、あんたの独断か?」
「いや、ミーシャ殿下に国王のお二人、我が国の大臣や王族たちの総意でもある。クィンやフジワラ女史も同じ気持ちだ」
高園からも視線を感じる。あいつも同じこと言いたいのか?元クラスメイトども、八俣も、他の国王二人も、俺を嫌っているであろうサントの要人どもも、全員が俺を見てくる。その視線の意は俺とアレンに連合国軍に入れというものだろう。
で、俺の答えは―――
「 お断りだ 」
「「「「「………………!?」」」」」
拒否一択だ。しばらくして焦燥や非難が混じった喧噪が生じる。その大半が無能が売りの要人どものだ。藤原と高園とミーシャとクィンは悲しそうな目を向けてくる。
「何故、参加を拒む?」
ガビルもどこか焦った様子で理由を尋ねる。
「悪いけど俺はあんたらと違ってこんな世界好きじゃねーんだ。鬼族や竜人族は仲間だと思ってはいるけど、他は正直どうでもいい。国規模で見たら、の話しだけど」
カミラなど特定の誰かを護るくらいはしてやりたいとは思う。個は守っても全は守りたいなんて全く思わないのだ。この世界では特にな。
「この世界の人間が嫌いだ、反吐が出る程に。その気持ちは今も変わらない。守る価値が見出せない。そこの無能が売りの連中なんかが良い例だ」
指差してあからさまに貶してやる。案の定要人どもは俺に非難・敵意に満ちた視線を飛ばしてくる。
「………君が嫌っている彼らは、此度の大戦においてはそれなりに尽力してくれている。自身の屋敷を民たちの避難地にしたり、物資の配給にも大きく貢献してくれている。さらにはこうしてる今も負傷した兵士や冒険者たちの治療の協力もしている。武力が無い彼らだが、無くてはならない仲間たちだ」
「大臣や王族の方々は以前コウガさんに散々言われた後、自分たちに出来ることを必死に探すようになりました。あの場にいた全員がコウガさんの言葉がよほど刺さったのでしょう。あの方々はここ数年で最も民たちに貢献してくれていると、たいへん良き評価を得られているのですよ」
ガビルが連中を紹介し、ミーシャが囁くように俺に説明してくれる。ふーん?あいつらちょっとは国に貢献するということができるようになったんだ。それを知らずに散々言ったのはミスだな。
悪いと思ったらすぐに謝るべきだと考えている俺はすぐさま前言を撤回する。
「さっきのは失言だったよ。悪かった。偉そうにふんぞり返りながら避難しているとばかり思って馬鹿にしてすまなかった」
あっさり謝罪した俺に連中は戸惑いを見せて目を逸らす。
「でもダメだ。俺は連合国軍に参加しない。アレンたちも同じだ」
だが断る!の精神で俺は軍の参加を拒否する。アレンも特に何も言ってこないから良いよな。
「我々と共に戦った方が魔人族との戦いの勝利がより確実になる!君たちも連合国軍抜きでは今後の戦いが厳しくなってくるはずだ。君の力が本当に必要なんだ!実際君が戦場に来てくれなかったら私もクィンも、もっと大勢の人が殺されていたやもしれなかった。頼む、軍に入ってくれ!」
ガビルは人前であるにも関わらず俺に頭を下げて頼み込んでくる。よく見ると要人どもですら俺に頭を下げていた。よほど困っているんだな。
だが俺の意思・答えは変わらない。
「連合国軍のことは知らないけど、俺と鬼族たちでやっていけるということは俺とアレンがいちばんよく知っている。実際今日だって魔人族軍は俺たちだけで完全に退けてみせたし。まあ今後は“序列”級の魔人族も攻め込んできて戦いが激化するだろうけど、それでも俺たちだけでやっていけると確信している。それに……俺があんたらの軍に下るってのも何か気に入らない。
悪いけど軍には入らない。この意思は変わらない」
ガビルたちはこれ以上何も言わなくなる。要人どもも絶望した顔を見せている。絶体絶命だった盤面を一瞬でひっくり返すような戦力が手に入らないのだから当然か。だからといって気が変わることはしないけど。
「コウガ、さん……」
「お姫さん、軍には入らないと言ったけど。お前個人を護るという約束はまだ消えてねー。お前自身が窮地に陥ろうってんなら、俺を呼べ。お前を助けるくらいはしてやれる。転移魔術を完成させるにお前は必要だからな」
「……コウガさんにとって私は………転移魔術を抜きにすれば、護る価値ある人間なのでしょうか?」
「………目の前で死にそうになってたら助けよう、それくらいは思ってる」
ミーシャとそう話したのを最後に、俺はアレンと共に会合を後にした。
*
「みんな、コウガが必要だって言ってた」
王宮を出る途中、アレンがぽつりと言葉をこぼす。
「俺の“力”が必要だって意味だろ。連中のほとんどは俺自身を見てなんかいねーよ。仲間だなんて思ったりしないだろ。どいつもこいつも俺のだけ力が欲しいだけで、俺のことはどうでもいいって思っている。人……特に他人なんてそんなもんだよ」
無表情でアレンにそう教え込む。アレンは振り向くと小さく「あ…」と声を発する。
「そんなことはないわ。甲斐田君自身を必要に思ってる人だっているよ」
振り向くと藤原と高園が追いかけてきた。後ろから曽根と堂丸と米田もいる。中西もさらにその後からやってくる。
「甲斐田君、少し話さない?みんなでこうして集まる機会って滅多にないから」
「会合抜け出して良かったのか?」
「うん、君と話がしたいって言ったら行かせてくれたから」
「アレンが良いなら付き合うけど」
「ん、良いよ」
王宮内の一室にて異世界召喚組全員とアレンが同席する。テーブルには熱い紅茶が注がれたカップと軽食が用意されている。
「まずは甲斐田君、遅くなったけど私からも礼を言わせて。クィンを助けてくれたこと、魔人族から私たちを助けてくれたこと。縁佳ちゃんたちのことも助けてくれてありがとう!」
「甲斐田君が来てくれなかったら私やみんなの誰かが、もしかしたら全員ここにいなかったかもしれなかった。改めて、ありがとうございます!」
藤原と高園が真摯に俺に感謝の言葉を告げてくる。そっけなく返事して紅茶を飲んでいると意外な展開がくる。
「私からも礼を言わせて。あんたが来てくれなかったらって思うと、とても怖くて思うわ。ありがとうね!」
「正直お前のことはまだ気に入らない。軍への参加を拒否して国王たちを困らせる自分勝手な野郎だしな。でも今日のことはマジで助かったって思ってる。さ、サンキューな……」
「か、甲斐田君。私と縁佳ちゃんたち、藤原先生のことも助けてくれて、ありがとう…!」
「………………ありがとう、ございます」
他の元クラスメイトどもまで俺に対して救援の感謝を述べてきたのだから。俺は、
「……………………」
呆気に取られてしまった。