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「スザクと玄武」

 「――――――は?」


 気が付けば、俺が地面にめり込んでいた。何が起きたか全く分からないでいる。何せ意識が落ちていたから。たぶん頭部が胴体から離れて飛んだからだと思う。というか段々思い出してきた。俺は奴にぶん殴られてその衝撃で頭部がはじけ飛んだのだ。

 さらに殴られる直前に見た光景は、ザイートが俺とよく似たモーションで拳の威力を受け流していって、最後は防いだ腕と逆の拳で、俺をぶん殴る、といった内容だった...。


 (...いやおいおい。嘘だろ?え、マジ...?あいつ、まさか...!!)


 塵が集まって頭が元に戻るのを待ちながら、自分の身に起こった事実を認めると軽く身震いする。一方のザイートは、殴った方の右腕と俺の拳を受け止めた方の左腕両方がズタボロになっていた。数秒後すぐに回復したが、その額からは脂汗が出ていた。


 「いやぁ、お前のオリジナル技。そう簡単には扱えないな。覚えるのが得意な俺でも、一回で成功しないとは...腕がオシャカになるとはな」

 「テメー、俺のカウンター技を………!」

 「どうだ、己の技を真似された気分は?お前が今まで行ってきたことだぞ」

 「へぇ......なる程なぁ?」


 今まで俺が喰って固有技能を奪ってきたあの行為に対する意趣返しなのか?

 にしても奴が繰り出したカウンター技のあの様相は……まるでどんな打撃がとんでこようと巨大な翼で包み込んでそのままはね返す巨鳥のよう。その様相はまさに、


 「―――“朱雀”」

 「ほう?“スザク”と言ったか?いい響きじゃないか、その名もらうぞ」

 「はっ!?つい呟いてしまった」


 なに敵の技名をつけてしまってんだ俺は!?


 「いや待て!その技は元は俺のだろうが!撤回しろ、テメーにその技名はやらん!」

 「何を馬鹿なことを。俺が繰り出した技はもう俺のだろうが。そしてそれをお前がたった今命名したのだろうが」

 「ぐ……このぉ!」


 言い負かされた気がして歯を軋ませる。ダンッと地面を踏み鳴らして指を突きつける。


 「次はあんなカウンターで受け流せると思うな?ぶっ潰す!!」

 「いや、次はお前と同じ完成度で返してみせるから、また沈めてやるよ」

 「ほざいてろ!本家の俺が破ってやるよおおお!!」


 そう叫んで今度は俺から攻めに出る。左脚を起点にパスを回して、最後に右脚を半月蹴りの要領で振りかぶり、“絶拳”の蹴り版としてザイートの肝臓部分に叩き込んだ!


 “絶脚”


 足がザイートの体に触れた瞬間、奴は全身を猛回転させて、触れたところを起点に力を上へ流していって、また右腕をゴール地点として力を一気に放出...倍返しに出た。


 “スザク”


 「ほら、ひしゃげろ」


 今度は完璧なモーション・力の受け流しをやってのけて、得意げに超高火力のフックをくわらせにきた。




 「テメーがな」


 しかし俺はそれに対して動揺することなく、むしろ「かかりやがった!」と嗜虐的な笑みを見せてやった!はっ、誰が頭に血が上ったって?得意技を真似されたくらいで冷静さを欠く俺はもういない!!俺みたいにカウンター技を使う敵が現れることなど想定済みだ!ならばその対策も当然バッチリだ!

 方法は簡単だ。倍返ししてきた攻撃を、さらに倍返しで放ってやれば良いだけ!!

 右フックを腹に受けたその勢いを使って跳び宙返りをする。倍返しの威力は凄まじく、通常のカウンター要領の宙返りの倍以上の速度で回転したため、体に拳が触れた時点で、俺はもう蹴りのモーションに入っていた。その勢いを殺さず全て利用して、頭が上下逆のままの爪先蹴り...オーバーヘッドキックを放った!


 カウンター技“玄武げんぶ


 ――ガツウウウウゥゥゥン......!!


 威力は俺二人分の蹴りとザイートの拳計3人分。まさか倍返しをさらに倍にして返されるとは思わなかったザイートは、防御する間さえなくその身にモロにくらうハメになった。


 「ごはぁ!?な......にぃ!?」


 骨を何本か、そして胃あたりの内臓を破壊した感触を得ながらザイートを遠く彼方へ吹っ飛ばしてやった。その際いくつもの建物を巻き込んで破壊していった。俺の体は...うん問題無い。エルザレスたち竜人族から教わった身体のコントロール修行の成果がここで発揮できてる!意のままに体の部位を操るのは意外に難しい。あいつらはそういった動きのプロだったから本当に為になった。

 っと...感傷に浸っている場合じゃない。吹っ飛んだザイートに追撃をかけに出る。闇の向こうへ飛んでいったザイートを追っていくと眼前に極太の赤い「魔力光線」が飛んできた。


 「ちっ、吹っ飛ばし過ぎたのは悪手だったか...」


 自分のミスに毒づきながら水属性の青い「極大魔力光線」を放って相殺させる。周りの家みたいなのが余波で消し飛んでいく。

 すると今度は足元から土でできた剣山が無数に飛び出してきた。その場で真上に跳んで回避、下へ氷を放って大地を凍らせる。着地の際、氷を砕いてその破片を前方へ投げつける。

 ギンって音がいくつか鳴った後、土煙から傷が治った様子のザイートが出てきた。まだ......余力はたっぷりってところか...。正直さっきの一撃でその命にまで届いたと思ったんだけど。


 「カウンター技をさらにカウンター技で返すとは、想像もつかなかったぞ!お前、かなりエグい発想をするな?俺とお前以外の奴があれをやろうとすると確実に身体は砕けていただろうな。ネルギガルドですらも自滅がオチだろうな」

 「その言い方だと、自分はできるって言ってるように聞こえるな?必殺の“カウンター返し”すらも真似できるってのかよ?」

 「ああその通りだ。俺は、覚えが良い方なんでね...ククク」

 「へっ、そうかよ。なら......やってみろ」


 そう言って挑発するもザイートは俺ではなく周りをみている。最初いた場所からだいぶ移動しているように見えが、辺り一面は俺たちの戦い痕がたくさん残っている。まるで爆心地だ。


 「ったく、俺の…魔人族のホームをよくもぐちゃぐちゃにしてくれたな。寝床はおろか俺の研究施設まで破壊されてんじゃねーか」

 「テメーも暴れたからこうなってんじゃねーのか。俺だけのせいじゃねーだろ」

 「いいやお前のせいだ。どうだ、続きは地上でしないか?地底だとちと狭いと思ってきたところだ。この力をさらに出してしまうとここが崩れてしまうだろうからな」


 ザイートの体から瘴気が漏れ出てきている。同時に奴がいる空間が歪んですら見える。奴から発する存在感…プレッシャー、戦気全てが本当にそうさせているのだろう。


 「お前からも刺すようなプレッシャーを感じるぞ。戦気も俺と同等だ。面白い…!」

 「それはどうも」


 破れかけのシャツを脱ぎ捨てて上半身裸になる。拳を打ち鳴らすと全力で上へ飛んでいく。ザイートのいう通り、全力を出すにはこの地底は狭い。空がちゃんとある地上の方が思い切り戦える。

 こうして戦いの舞台は地底から地上へと移る。魔人族本拠地の真上にある名も無き島…今は俺の魔法攻撃で平らな地となっているそこに降り立つ。数秒後にザイートも俺から離れたところに降り立った。


 「第二ラウンドだ」

 「グハハハハハ!!いざ殺し合おう。まだ終わらせてなるものか!!」


 そうして戦いを再開させた…!

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