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2章27 お見舞い

翌朝は、もう熱も無く体調も良くなっていた。けれども、母の言いつけ通り学校は休むことにした。


母と一緒におしゃべりをしたり、学校から借りてきた魔術書を読んだり……そんな風に久しぶりにゆっくり時間を過ごすことが出来た。



――15時半


「もう学校はとっくに終わっている時間ね……」


禁断魔法の記述ページを読み返しながら、時計を見つめた。


「エイダ……学校を休んだから、きっと心配しているでしょうね」


そのとき。


「あの、ユニスお嬢様。学校からお友達がお見舞いにいらっしゃっているのですが」


少しだけ開かれた扉からメイドが顔を覗かせて声をかけてきた。


「お友だち?」


もしかしてエイダだろうか?


「それじゃ、私の部屋に呼んできてもらえる?」


「あの、よろしいのでしょうか?」


「ええ。もちろん」


「分かりました、すぐにお呼びしてまいります」


メイドが出ていくと私は鏡の前で身なりを整えた。

いくらエイダでも、きちんとした姿で出迎えないと。


髪をとかし、ブラシを置いたとき。


「ユニスお嬢様、お友達をお連れしました」


再びメイドが現れた。


「ありがとう、入ってもら……って……え?」


部屋の中に現れた人物を見て、驚いた。

なんと、見舞いに来たのはアンディとザカリーだったからだ――



****


「それにしても驚いたわ。まさか2人がお見舞いに来てくれるなんて」


3人で丸テーブルを囲み、私は2人を交互に見る。


「俺はアンディに無理矢理連れてこられたんだけどね」


ザカリーがオレンジジュースを飲みながら答えた。


「そんなこと言って、ザカリーだってユニスのこと心配していたじゃないか」


アンディの言葉にザカリーは聞こえていないふりをして質問してきた。


「ユニス、リオンは見舞いに来たの?」


「いいえ、来ないわ」


「どうして? 婚約者だろう?」


「だって、リオンには具合が悪かったこと話していないの。迷惑はかけたくないし、それに……」


私は口を閉ざした。

きっと、私の体調が悪いことを知ってもリオンはお見舞いには来ないだろう。

今の彼はロザリンと一緒に過ごす時間のほうが大切なのだから。


「別に遠慮することはないじゃないか」


「それより、ユニス。魔術書を読んでいたの?」


アンディが突然話題を変えてきた。机の上に置かれた本に気づいたのだろうう。


「え、ええ。私には魔法が使えないから、本で学べないかと思って」


「ふ〜ん……そうなんだ。でも、ユニスに魔力があるなら絶対にいつか魔法が使えるようになると思うな。だから、SS1クラスにおいでよ」


「何だよ、やっぱりそれが目的でユニスのお見舞いに来たのか? あれだけ、はっきり断られたのにしつこいなぁ。俺の水魔法で頭を冷やしてやろうか?」


ザカリーが呆れた目を向ける。


「それは勘弁して欲しいな。でも、それだけユニスは貴重な人材だってことだよ」


水魔法……そう言えば、ザカリーは水魔法が得意だった。


「リオンが魔力暴走を起こしたあの日のことを聞いてもいい?」


「魔力暴走……?」


ザカリーが眉をひそめ、アンディは身を乗り出した。


「リオンが火災を引き起こした時の話のことだよね? 何を聞きたいの?」


「どんな状況で火災が起こったか聞きたいの。例えばリオンの様子とか……」


「そんなのは本人に直接聞けばいいじゃないか」


ザカリーの言うことは尤もだ。だけど……。


「少しは聞いたのだけど、本人だって危うく火事を起こしそうになって気にしているの。だから悪くて、詳しくは聞けなかったわ」


「ふ〜ん。やっぱりユニスは大人びてるんだな」


ザカリーが頬杖をつく。


「いいよ、知っている限りのことを話してあげるよ。あの時、一瞬リオンの身体が発火したんだよ。その直後に少し離れた場所に置かれた全ての薪に一斉に火がついたんだ。皆驚いて悲鳴を上げたよ。そこで先生の指示の元、水魔法が得意な生徒たちと火を消したんだ。ザカリーが一番活躍したよな?」


アンディがポンポンとザカリーの肩を叩く。


「リオンの身体が……一瞬発火した?」


魔力が押さえきれなくて、身体から炎が溢れたのかもしれない。そのときは、被害が出なくてすんだかもしれないけれど、本当の魔力暴走が起これば大変なことになる。

屋敷を丸々焼き払ってしまったとゲームで語られていたのだから。


思わず神妙な顔つきになると、アンディに話しかけられた。


「ところで、ユニス。さっき、気になることを言ってたよね? 魔力暴走って何のこと? 教えてくれるかな。僕たちでよければ力になれるかもしれないよ?」


そして、アンディは天使のような笑顔を向けてきた――


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