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2章34 運命の誕生パーティー ④

 リオンだけでも守らないと……! 


「リオン……ッ!!」


バキッ!!

木の根元が折れるような激しい音が響く。


倒れてくる!!

リオンに覆いかぶさりながら、これから訪れるであろう衝撃に覚悟を決めた。


どうか、リオンだけでも生かせて――!!


すると――

身体が突然眩しく光り輝き、何かが溢れ出てくるような感覚を覚え……静寂が訪れた。


「……」


突然の静寂に違和感を覚え、恐る恐る閉じていた目を開けてみた。すぐに異常な事態に気付いた。

周りは驚くほど静寂に包まれ、炎が燃える音も聞こえない。


「一体何が……?」


恐る恐る顔を上に向け、息を飲んだ。


「嘘……」


何と倒れかかった燃え盛る木が、まるで写真のように静止しているのだ。

炎も煙も動きを止めいるが、熱さは感じられる。


改めて心を落ち着けて周囲を見渡せば、火事を恐れて飛び立つ鳥たちも空中で静止している。

今、この場で動いているのは私だけだった。


「リオン……?」


試しにリオンの身体を揺すってみるも、まるで棒にでもなったかのように固くなっている。けれども体温は感じられる。


「もしかして、これが……禁断の『時を止める』魔法……?」


魔術書を調べている時に、偶然目にした『時を止める』魔法。

何故禁断魔法と記述されていたのか、理由があの本には記されてあった。


自分以外の時を全て止めることのできる魔法は、まさに無敵。どんなに協力な魔法を使える者でも、この魔法の前では無力だったのである。


大昔から極稀に、『時を止める』ことが出来る者たちがいた。それは強力な魔力を身に備えた者たちだけ手にすることが出来る究極魔法。


彼らはまるで自分が神にでもなったかのように錯覚し、ありとあらゆる悪事に手を染めてきたのだ。窃盗や暴行……そして殺人まで。


この『時を止める』魔法がどの様な手段で世間に明るみに出たのかは不明だが、その恐ろしさゆえ、禁断魔法として封印されることになった……と記されていた。


「あ、熱い!」


炎の熱さで我に返った。


「そうだわ……いくら時を止めても、炎の熱は止められないのだわ」


リオンの時は止まっているけれども、私の時間は動いている。いつ魔法の効力が切れてしまうか分からないし、何よりこの熱で自分の身体がどうにかなってしまいそうだった。


「リオン……行きましょう」


固くなっているリオンの身体を掴み、引きずりながら私は必死で林の出口目指して歩き続けた。


「はぁ……はぁ……」


熱と、リオンの身体の重さでどうにかなりそうだった。

それでも魔法の効力が切れる前に、ここを抜け出さなければ……リオンを助けることが出来ない!


歯を食いしばって、林の中を進み……出口が見えてきた頃。


パチパチパチパチ……


突如、背後で炎の音が聞こえた


「え?」


振り向くと赤い炎が背後で揺れ、煙が立ち込めている。


「そんな……っ!」


時を止める魔法の効力が切れてしまったのだ。その瞬間、棒のように固くこわばっていたリオンの身体もダランとなった。


「い、急がなくちゃ……」


足がフラフラで今にもどうにかなりそうだった。それでも一歩踏み出したその時。


「ユニスッ!!」


突如、アンディが私の眼の前に現れた。


「キャアッ!!」


あまりの事に驚き、リオンを抱えたまま前に倒れてしまった。


「ごめん! ユニスがリオンを追って林の中へ入っていったと聞いて、転移魔法をつかったんだ」


頭上で謝るアンディの声が聞こえる。


「そ、そう……転移魔法で……お、お願い……リオンを助けて……」


私はゆっくり顔を上げると、アンディの顔に戸惑いが浮かぶ。


「え? 君……誰?」


アンディは一体何を言っているのだろう?


「誰って……私はユニ……」


朦朧とした意識の中、言葉を口にしかけ……眼の前が真っ暗になってしまった。


「……君っ! 大丈夫っ!? しっかりして……」



最後にアンディの呼びかけを聞きながら――



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